第67話 話せばみんなわかってくれる。言葉って大事だよね。ちなみにボディランゲージも言葉だよね?

 オレの目に前には、ロープでぐるぐる巻きになり、身動きがとれなくなった探索者がいた。

「ゆ、ゆるひて……」


 彼は先ほど真白さんにしつこく迫ったという探索者カズヤだ。

 しかも不法侵入者でもある。


 なぜ彼がこのリゾートダンジョンに入ってくることができたか?

 通常であれば、リゾートダンジョンの入り口すらわからないはずだ。

 たまたま場所を発見した? 可能性が低すぎる。


 であれば、ここにわざわざ招いた存在がいるということだ。

 すなわち、ギルドから情報を非合法に手に入れた人間か。

 もしくはオレが呼んだ配信者から聞いたかだ。


 当初オレはギルドから非合法な手段で情報を手に入れた人間が裏にいると思っていた。


 だが、それは違った。


 オレが呼んだ配信者の中に裏切り者がいる――とカズヤは言った。


 オレはカズヤとお話をすることでその情報を聞き出した。

 するとその過程でなぜかカズヤの身体にはいくつか具合の悪い箇所が見つかり、優しいオレはポーションで回復してあげたのだ。


 そのおかげか、カズヤは素直な人間になっていた。


 真心はだれにでも通じるし、素晴らしいコミュニケーション手段だ。


「もう、ぜったいに、しません……。だから、ゆるしてくだしゃい……」


「で、君を呼んだのは、今日来ている配信者の中にいるんだよね。誰だ?」


「佐藤さんでふ……。310サトーのえんためチャンネル管理人、佐藤誠一郎さんでふ……」


 それを聞いたとき、オレは意外だと感じた。

 そもそもオレが招待した配信者や探索者たちは、素行に問題のない人間ばかりのはずだった。

 人格的にも、おそらく問題なかろう――と思う人間を選別した。


 中でも佐藤誠一郎は、カズヤのような人間を呼んで問題を起こすような人物だとは思えなかった。


 現状でもかなり人気のエンタメ系YouTuderだ。


 大手コンサルティング会社を経て独立し、現在はYouTuderとして「310のえんためチャンネル」を運営。

 彼の動画は経済やビジネスの深い解説を、分かりやすく楽しく伝えるものが中心。


 リゾートや観光地の歴史など、難しい部分も、視聴者へのエンターテインメントへ変化していく。楽しさを追求する姿勢が好評。

 経済学部首席の学歴を活かし、その知識深さと誠実さで多くのファンを魅了している。

 外からは、紳士的で誠実、そして知的なイメージを持たれている男だ。


「で、彼がなんでオレの邪魔をするんだ? 他に頼まれたことは?」


「……ふぁい。俺が、真白ちゃんや沙月ちゃんをナンパしたらいい。ハルカ、さん、のような、子どもじゃなくて、大人の魅力でメロメロにさせてやれって、いわれまひた……。俺じゃないでふ、佐藤さんが、いったんでふ……」


「…………大人……ねぇ」

 オレには、佐藤誠一郎がそんな阿呆なことをする人間には見えなかった。

 なぜこの男のナンパを手伝う? 意味がわからなすぎる。


「そうだ……。ハルカがきたら、佐藤さんに連絡するように、言われました。佐藤さんがこっちにきて俺を助けるからって……。それまでハルカと話してろって、言ってまひた……」


 ああ。

 囮役というか、ひきつける役割か。

 ってことは佐藤はその間に何かするつもりなんだろうな。


「お前のスマホ借りるぞ」

 オレはカズヤのスマホを手に取る。


「認証用のパスワードか、パターンを教えろ」


「や、でも、俺のプライベートが……」


「指紋認証も入ってるな。指のほうを貰おうか?」


 カズヤは引きつった顔になって、素直にパターンを教えてくれた。


「よし。開くな。お前はここでしばらく反省してろ」


「えっ……で、でも、ダンジョン、でふよね?? 身動きも取れないっていうのは……


「あのさ……。殺してもいいんだよ。わかるか? 法的に、君は強盗犯のようなものなんだよ。特にダンジョンは一種の治外法権のようなところでもあるし、君を殺しても法的に問題がない」


 それにもし犯罪だったところで、殺してもばれっこない場所でもあるのだ。

 そんな場所に不法侵入するなんて、愚かすぎる。


「ひぃ……」


「じゃあ、またあとで。終わったらちゃんと送り届けてあげるよ」


「はひ……」


「ちゃんと表の警察署まで送ってあげるから安心してね」


 オレが言うとカズヤは顔を青くした。


「も、もうしまへんから……」


「うん、出所後は気を付けてね」

 オレはそう言い残して、探索者たちに使用してもらってる方面へと向かった。

 カズヤは探索者であるため、縄くらいすぐ抜けられる。なので彼を縛っているのは普通の縄ではない。

 すごく丈夫な縄である。そこに魔封じの手錠をつけてある。

 自力での脱出は不可能だ。




 たどり着いたのは、森と川、平原のある、適度に自然豊かな場所である。

 太陽は沈みかけ、わずかに残った夕日が辺りを照らしている。

 ――ダンジョンの中なので、あれが本物の太陽かどうかは定かでない。ただし、遠くからの日の光、暖かさ、紫外線などはかなり似通ったもののように思える。

 詳しいところは、詳細を調べなければわからないが。


「さて。佐藤はどこかなっと……」

 オレは遠目に佐藤を発見した。

 そこにはスーツを着た中肉中背の男がいた。

 彼の配信スタイルはいつでもどこでもフォーマルな格好である。

 たとえキャンプ場であろうとそうなのだ。

 確か年齢は32歳くらいだったはずだ。


 彼はしきりにスマホを確認していた。




 オレはここで配信機材を、動画モードから配信モードに変更する。

 一時間ほど遅延させて、配信をする。

 タイムシフト配信というやつだ。


 つまり、この配信は今から一時間後に全世界にYouTudeを通じて流れるというわけだ。


「はい。こんばんはー。ハルカちゃんねる、ハルカです」

 オレは超小声のウィスパーボイスで話す。


「実はですね。このリゾートダンジョンに、不法侵入者が現れました。不法侵入者はすでに捕らえたのでご心配なく」


 オレは「しかし」と言葉を続ける。


「どうやら不法侵入者の方は協力者がいるらしく、その協力者が事件を起こすというのです。その協力者の名前を聞いたとき、オレは信じられませんでした……」


 悲痛な顔を作って見せる。


「その配信者の名前は310のえんためチャンネル、佐藤誠一郎さんです。オレは今でも信じられていません……。佐藤さんは、そんな人じゃないからです。彼は、いつも視聴者を楽しませるために頑張っています。その佐藤さんがそんなことをするわけ、ないですよね」


 悲しそうな声で言う。


「だからですね。その、協力者から借り受けたスマホを使って、佐藤さんに連絡をしてみたいと思います。どうやら、オレを引き離してる間に何かを行うって話らしいんですよね」


 オレはぽちぽちカズヤのスマホをいじって佐藤へ送る文面を作成する。


 もちろん持ち主に許可はとってあるし、その動画もとっていると視聴者に説明する。


 不正アクセスどうこうと言われる前に、あらかじめけん制しておいたのだ。


「実はこの不法侵入者、真白さんにかなり無理なナンパをしてたんです。そのあたりも、後で動画にしたいと思います。そんな人だから、自分が助かるために佐藤さんに罪を擦り付けた、そんなところだと思います」


 オレは頷いてみせる。


「なので、『ハルカをひきつけた』という内容のメッセージを佐藤さんに送ってみたいと思います。


 オレはカズヤのスマホを操作する。

 連絡手段であるSNSアプリを開き、佐藤に連絡をする。


 カズヤの過去ログを見て、カズヤの特徴をまねてメッセージを送った。



『なあ、佐藤さん! ちょっとヤバい状況になってんだけど!? 真白ちゃんナンパしてたら、急にハルカが現れちゃってさ。めっちゃウザいことになってるよ。早く来て助けてくれる? いいから早く』



「はい。送りましたね。どうなりますかね……。もちろんオレは佐藤さんを信じてますよ」


 遠目からでも、探索者の眼を以てすれば、佐藤の表情までわかる。

 佐藤は、スマホを見る。

 すると、口元がほんの少し笑みの形に歪んだ。


 彼はリュックを背負うと、森の奥のほうへ歩き出す。


「佐藤さんに動きがありました。たまたま……ですかね? ですよね? 嘘ですよね。佐藤さん……?」


 まぁ、佐藤が黒であることをオレは確信している。

 あれだけしっかりお話ししたカズヤくんが嘘をつくとは思えないからだ。


 もしあれでも嘘をついていたなら、オレはカズヤくんを相当見くびっていたことになる。


 佐藤は、キャンプ地として指定した場所を超え、さらに森の奥へと歩いて行った。




────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

一応トラブルの予感です!


さあ、これから佐藤が何をするのか……?

佐藤の目的はいったい……?

唐突に現れた佐藤……彼は何者なのか……?


本日も少し遅れてしまって申し訳ないです。

寝るまでは今日! ってことで許していただきたい……お願いします!


コメント返しもできてなくてごめんよ……!

余裕あるときに返すから!!!


楽しめたよー、次も読むよーって方は、フォローと★をよろしくお願いいたします!!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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