第65話 ハルカのソロアウトドア(犬つき)

 真白さんと小早川沙月がキャンプ動画を撮っているころ。


 ハルカもまたリゾート地を宣伝するような動画をとっていた。


「ハッハッ……主……! 広いぞ……! とても楽しいぞ……!」


 そんなことを言っている大型のイヌ科の動物に見える精霊王の背にオレは乗っていた。配信しながら駆け回っていたのだ。


【うおおお! マジで広いんだねこのダンジョン!】

【山とか海とかなんでもあるじゃん】

【オレも行ってみてぇ】


 コメント欄にそういったメッセージが流れていく。


「これはオレの夢の話なんですけど……」


【え、なになに?】

【どうしたの?】


「ここって、すごい自然豊かじゃないですか。今めちゃめちゃ楽しいんですよね。あ、鹿がいる」


【ほんまや】


「だから、みんなにもここで楽しんでほしいな――って今思ったんですよ」


【お? どゆこと?】


「このダンジョンをギルドに調査依頼したんですね。そしたら、危険なモンスターがいない。管理はできそうって返事が返ってきて。リゾート地にもよさそう――みたいなことが書いてあったんですよ」


【おぉ……すごいね】


「だから、ここを最高のリゾート地にしたいなぁと。思うんですよ。みんなにも味わってほしいって」


【すごくよさそうな場所なのは判る】

【見える風景が全部、すごいもんな。実際いったら感動的なんだろうなあ】


「それで、リゾート地にできるかなっていうことを、この配信をみんなに見てもらいながら、確かめたいんですよね」


【あれ。じゃあこのダンジョン、ギルドに管理権渡さなくて大丈夫そうなの?】


「あれ、まだ言ってませんでしたっけ。はい! 実はそうなんです! 他の探索者に手伝ってもらったり、色々して安全面に気を使って行けば、大丈夫そうなんですね!」


【マ!? オレ危険じゃないならダンジョン行ってみたい!】


「それを確かめるためにも、今日はいろいろな人にお願いしてるんですよ。うちの事務所からはオレと、真白さん。あとは個人活動中の小早川沙月さんに、ダンジョン配信者の――」と、オレは様々な名前をあげていく。


【マジ? あの人くんのか!】

【聞いたことない名前も多いけどな】

【宣伝とかより、安全性の確認のためにいろんな人にお願いしたんやろ】


 おそらく聞いたことのない名前は、未来の一線級配信者だ。


「今日の昼からオレと真白さんと小早川さんが。夕方あたりからダンジョン配信者の方たち。そして明日はアウトドア系配信者の方たちって形ですね。まずオレたちが安全性の確認をして、それから自衛できるダンジョン配信者。確認がとれてからアウトドア系配信者の方をお呼びしたいと思いまして――」


【はえー。ちゃんと自分たちで安全の確認とってから段階的に、って感じはちゃんと考えられててええね】


「来ていただける方は、概要のところに一覧がありますので、そちらも見てくださいね」


「主! 湖だぞ!」


 そういって月子が勢いよく駆け出していく。

 その背にのったハルカに強い風が当たる。


【はっや……!】

【オレも乗ってみてえ】

【風を切るってこういうことか……】


 オレと月子はきらきらと水面が輝く湖畔にたどり着く。


「湖ですね! っていうことは釣りですね!?」


【どういうこと!?】


 オレはツッコミコメントをスルーして、落ちている木の枝を拾う。

 適当に選ぶのではなく、軽く、強度があり、乾いている物を選定する。


「まずは釣り竿がないので作って行きましょう」


【草生える。狼に乗って草原や森を駆け抜けて、釣り竿作って魚釣り。原始生活やん】

【狼じゃなくて犬だゾ】


 コメントで犬か狼か論争が始まっていた。

 牙が大きいから狼だとか。

 色が白いから犬である。なぜなら野生化では白色は――。

 云々。


 オレは水の魔法を使用し、木の枝から完全に水分を抜いた。

 周囲の水分を集め、水に変換するだけの簡単な魔法だ。

 それから、小型のナイフで太い枝を削って釣り竿を作って行く。遊び心で手元に彫刻も入れた。


【やっば。手つきがプロやんけ。何者だよ……】


 ダンジョン奥深くに行って食料がなくなったときなど、自分でとらえていたのだ。

 釣りでも狩猟でも何でも、技術はそれなりにある。


「よし……できた! あ、糸……」


【草】


「木の繊維から作る方法もあるが、時間がかかるな……」


【じゃあ釣りは諦めか】



「なぁ……月子。ブラッシングしてやろうか」


【唐突だね。誤魔化してるハルきゅんかわいい】


「ブラッシング? とは、何なのだ? 主」


「イヌ……科の動物はだいたい喜ぶことだ」


「じゃあ頼むのだ」


 オレは手ぐしで月子の背中をく。


「お、おお……おぉ……。これは、なかなか……よいぞ、主……」


 すくたびに「ふぉ!」などといって身体を震わせていた。

 オレはしばらく手ぐしで月子の毛並みを梳いた。


【ダンジョン紹介配信……?】

【犬配信では?】


「よし、終わるか」


「……主。もっと続けても良いのだぞ」


「それは今度な」


 そしてオレは視聴者に手を向ける。


「ということで糸の材料が手に入りました!」


【草生える】

【糸がないから精霊王の毛を集めていたのか……】


 オレは精霊王の毛を撚って糸を紡いでいく。


 左右から引っ張ってみる。


「めっっっっっちゃ丈夫ですね。これ」


 とんでもねえ強度の糸ができちゃったよ……。


「釣り竿、完成ですー!」


【餌どうするん?】


「そのあたりの土を掘り返したり、石を裏返して虫を探してもいいですが……」


【ひえっ……。ワイそういうのだめや】

【虫食った魚の内臓は食いたないわ……しらねければええねんけどな】


「そんな皆さんのためにこれっ! じゃじゃんっ!」

 オレは青緑色の石を取り出し、視聴者に見せた。


【石……?】


「これはダンジョンドロップ、魚の歌石です! これちょっと震えてるんですよ」


【知ってるぞ。それ、何の使い道もないゴミアイテムだろ。せいぜい肩こりグッズや。電気製品のほうが全然マシなレベルの】

【まさか、お尻に……?】


「実はこの振動の周波数は、魚がめっちゃ好むモノなんです! ですからこれを糸に括り付けて、釣り竿を放ると……」


 ヒュンッ。


 一瞬で食いついてくる。


「はい、釣れました」


【もう!? 早すぎん!?】


 あとは、このダンジョンの魚が擦れてないというのもあるだろう。

 釣り人に対する警戒心がゼロなのだ。

 しかし外の世界でも、この魚の歌石に対する魚の警戒心はゼロだ。

 スポーツフィッシングには向かないかもしれないが、とんでもない釣果が期待できるだろう。


 オレは次々に魚を釣っていく。


【やっば……。これ、湖の下に誰かがもぐってて、魚を糸に引っ掛けてるって言われたほうが納得できるレベル】

【でもマジならオレも欲しいわ】

【こんだけ釣れたら楽しそう】

【虫触らなくていいなら、私もやりたい】


 そんなコメントを聞きながら、オレは言う。


「実はですね、釣り工房川瀬さんと一緒に商品開発をしたんですよ!」


 ちなみにゴミアイテム扱いされていた魚の歌石は買い占め済みである。

 さらにこの使用方法に対する特許も出願中だ。


 未来ではこの特許を持っている人間は他にいた。


 だが、この方法を発見したのはオレだった。

 ダンジョン内で様々なアイテムの使用方法を明らかにした。

 だが、オレが発見した成果は元のブラック事務所が持っていくことになっていた。


 当時オレは生きる目的も失っており、ただ唯々諾々と契約に従うだけの機械のようだったと思う。


 それによってブラック事務所は様々な特許や、新しい技術などを生み出したことになっていった。


 オレはゴースト配信者をしていたこともあって、様々な技能をトップクラスで使うことができた。

 それによって、職を超えた複合技術を生み出して行ったりもした。


 魚の歌石の効果に気付いたのは、ダンジョンで空腹で死にかけたときのことだった。

 当時のオレでは水の中では勝てない魚モンスターを、これを使って吊り上げて陸上で倒して喰らったことがある。



 ちなみにダンジョンアイテム関連の特許の取得には少々条件がある。


 新規に見つかったアイテムの活用方法は、特許がとれないこともあるのだ。

 誰しもがそう使うであろう――といったすぐ思いつく使用方法だ。

 これはダンジョンでは新たなアイテムが次々と発見されていくことから、そういった運用方法になっているらしい。


 そして長期間使用方法が見つからないアイテムの特許は次第にとりやすくなっていく。



 とまあ、そういうことなので、この魚の歌石の特許も、スライムゼリーを回復アイテムに混ぜて使うという特許も、今回は自分自身で取得できた。

 最初に買い占めたスライムゼリーも、継続的に回復する手段を探したオレが見つけたものだ。


 前回はそれすら取り上げられたためか、不思議な満足感があった。

 この出願が認められるにせよ、認められないにせよ、不当に取り上げられることはない。


「釣り工房川瀬さんでは、もっと素晴らしいロッドを作っていますので! 魚の歌石に関しても、こんなに雑ではなく、もっと使い心地のいい工夫を凝らしています! よかったら買ってくださいね! 現在はネット通販のみのお取り扱いとなっております! アドレスは概要欄に後で貼っておきます!」


【完全に宣伝で草】


「あ、あと、このアイテムはアクアリウムなんかにも使えるんですよ。水槽の中に入れておくと、魚のストレスを和らげ、気分をよくしてくれるんですよ。こちらは、アクアリウム水上さんと共同開発をしております! 良かったらぜひ!」


 もちろん、そちらも特許出願中であった。





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あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

こちらはハルカくん目線ですね!


次回はトラブルの予感! と昨日のあとがきにかいたのですが、全然トラブルなくてごめんよ……! 平和なの続いてる。


でも、犬を連れてアウトドアとか楽しそうですよね。


あと原始生活も楽しそうです!

実際やってみたいかと言われたら、今の生活は捨てたくないんですけど、お試しでやってみたい気はします。


そんなふうに同じ思いを抱いた方は、★とフォローをお願いします!


皆様のおかげでジャンル週間8位、9位くらいを長く維持できております。

これは本当にありがたいです。


そろそろ落ちそうかなと何度も思ったんですけど、そのたびに持ちこたえていたのは皆さまのおかげです。


ただそろそろ難しいかも――といった印象です。


よかったら応援をお願いします。


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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