第64話 雑務とキャンプ

「はい。確かに、遥かなるミライ代表、風見遥と申します。資料は、ご確認いただけましたか? 既にメールで送付させていただいておりますので」


 オレは複数のダンジョン探索系インフルエンサーや、旅行系配信者に声をかけていた。

 リゾート用のダンジョンへの招待だ。

 いくらかの報酬を払うから遊びに来てくれないかという、つまりは案件だ。


 オレや真白さんや小早川沙月以外にも発信地があったほうがいいという判断である。


 オレの知っている未来で人気となった配信者を中心に、現状の人気を誇っている人たちにも声をかけた。


 ここで伝手を作っておけば、いずれ役立つかもしれない。


 誘った結果、色よい返事もあったが、難色を示させることが多かった。

 まずオレの事務所の信用がないことが一つ。

 それに加えて、ダンジョンであるということが、メリットにもなりデメリットになっていた。


 ダンジョンは危険なものという常識があるため、安全性を理由に断られることが多々あった。

 しかし、世界初のモンスターのいないリゾートダンジョンという話題性を喜ぶ人たちもいた。


 オレは彼らに貸し出すためのタープやテント、BBQセット、そして仮設トイレなどの手配もした。



 また、前回の世界線で同じ事務所だった人間、中村京平にSNSで連絡をとったところ、思った以上の反応が返ってきた。

 前回はかかわりが薄かったのに、今回の彼は、ありがたいことにオレのファンになってくれていたようだ。


『本物ですか!?』『SNS乗っ取られていないですか?』などという確認がかなりあった。

 彼はちょうど勤めていた広告代理店をやめようと思っていたらしく、実際に会ってみることになった。


 忙しさにかまけて彼の引き抜きが雑になってしまったことは否めなかった。

 配信者からいきなり一般人に引き抜きメッセージが来るなんて、詐欺以外ありえないだろう。


 オレはすぐに彼の居住地近くの喫茶店に赴き、彼と会った。

 彼は緊張しながらも、なぜ自分を? と不思議がっていたが、それに対する答えが一番苦慮した。


 たまたま君のSNSを見つけた。

 君の性格がよくわかる投稿だった。

 仕事も真面目に行い、能力も高そうだ。また自分を誇示せず、周囲の力をうまく引き出したりサポートできる人間だね?


 などと、SNSの書き込みだけですべてを見通す超能力者みたいになってしまった。


 だが、そういった熱意を見せたためか、彼への勧誘は成功した。

 有給はすべて余っているから、即時でも退職できるとのこと。

 ただし引継ぎをするため、数日待ってほしいと彼は言っていた。



 ――よし。中村さんが来てくれたら、相当楽になるな。



 と、そういった仕事しているうちに、キャンプの日になった。




 オレと真白さんと小早川沙月は、鉄浄さんに車を出してもらって、栃木県日光市の山奥まできていた。

 山の麓からいくばくも進まないうちに、車が通れなくなった。

 そこで降ろしてもらって、オレたちは三人でダンジョンへと向かった。


「おぉ……ここが、そうなんですね!」

 山を登っている最中も「山ですー!」と興奮していた真白さんの興奮がさらに増しているようだ。


 オレたちはダンジョンの中へと入っていく。


 草木のさざめき、透明な小川のせせらぎ、風が運ぶ爽やかな香り。

 リゾートダンジョンの中はまるで夢の中のような場所だった。

 圧倒されるような自然の中、真白さんと小早川沙月は立ち尽くしていた。


 真白の瞳は大きく開かれ、魔法のような風景に心からの感動を隠しきれない。

 白髪が風になびく中、彼女は深呼吸をして、手を胸に当てた。

「こんな美しい場所がダンジョン内にあったなんて……」


 沙月もまたその場の雰囲気に酔いしれている様子だった。

「写真や動画で見るのとは全然違うわね……」


「旅行とかはあまり行ったことがないのか?」

 オレが尋ねると小早川沙月が返す。


「そうなんですよね。私、剣術の訓練ばかりしていたから。修学旅行で少しあったくらいなんですよね」


 たしかに彼女との話題と言えば、剣のことがほとんどだった。


「沙月さん、行きますよっ!」

 真白さんが小早川沙月の手を掴んで駆け出した。

 真白さんの頬は赤くなっており、かなり興奮している様子だった。


「ちょ、ちょっと……真白ちゃんっ……」

 急に引っ張られた小早川沙月が慌ててついていく。


「じゃあ、ハルカさん。またあとで。何かあったら連絡してくださいね」

 そう言って二人はダンジョンの奥へと消えていった。




   ◆《SIDE:小早川沙月》


 沙月は真白に手を引かれ、ダンジョンの奥へと二人で走った。


 機材を録画モードで回しながら、ダンジョンの中を散策する。


「じゃあ、まずはキャンプ地選びよね」


「はいっ……! まずはいい景色を探しましょう!」


 張り切ってる真白を見て沙月は、褒めてほしい子供みたいな、そういったほほえましさを覚えた。


「うわぁ……すごっ……滝がありますよ! 沙月さん!」


「……すごいわね。ああいうのにうたれる修行ってあるけれど、効果あるのかしら」


「真っ先に出てくるのがそれですか」


「やってみるわ」


「えっ!?」


 沙月は気になったので駆け出し、山から川に流れる滝へと向かう。


 離れた位置にいる真白が叫んだ。

「沙月さーん! 濡れちゃいますよー!」


「乾くから平気ー!」


「そうじゃなくてー! 水着、持ってきてますよねー!? 持ち物にあったはずですよー!」


「あ……そういえば」


 ――そっか。水着なんてものがあったんだ。学校以外で使ったことがなかったから、思い浮かばなかった。


「そっか……。滝とか川に入るときも、水着をきていいのね」

 いってすぐに服を脱ぎ、着替える。


「沙月さん!? 着替え方が大胆過ぎですよ!? 着替え映っちゃってますよー!!」


「編集で消しといてー!!」


 沙月はワンピースタイプの水着を着る。

 店員さんがおすすめしてきたものを、そのまま買っただけのものだ。

 青系統の水着で、胸元にはフリル、スカート部分が少しフレアになっている。


 駆け寄ってきた真白が沙月を見ていう。

「わ、すごい美人さんですね!」


「そう? ありがとう」


「ちょっと待ってくださいね」

 真白はそう言ってから、全身を覆うようなタオルをマジックバッグから取り出し身に着ける。

 胸元のボタンを留めると、てるてる坊主のような姿になる。

 小学生とかが水着に着替えるのに使っていた記憶がある。


 タオルの中でごそごそとしたあと真白がいう。


「じゃーん!」


 フリルの多いビキニタイプの水着だ。

 色は淡いピンクで、白く美しい髪に映えている。

 あちこちにリボンが付いているデザインで、非常に可愛らしい。


「どうです。大人っぽいでしょう! ビキニですよ!」

 そういってない胸を張る真白は、背伸びした子供みたいで非常に愛らしかった。


 ビキニとはいえフリルが多めなので、可愛らしい印象のほうが勝る。


「ええ。よく似合ってるわ。大人っぽい、大人っぽい」


「そうでしょう。そうでしょう。えへへ」

 沙月はついつい真白の頭を撫でてしまう。

 真白は嬉しそうに笑った後、少し眉根を寄せて言った。


「もしかして今、子ども扱いされてます?」


「してないわよ。大人っぽくて、かわ――素敵よ」


「ならいいんですよ」

 真白がふんっと少し荒く鼻を鳴らす。


「そういえば、日焼け止めとか大丈夫です?」


 沙月は言われて目を丸くしてから答えた。


「ああ、それは大丈夫よ。真白ちゃんは、もう結構レベルも上がったでしょう? 探索者の身体は、かなり丈夫になっているの。日焼けも、抵抗する意思さえ持てば食い止めてくれるわ」


「はぇ……。それは便利ですねぇ……」


「さ、滝に打たれてみるわね」

 滝の落下地点までいき、頭から浴びてみる。

 ドドド――という激しい音と、衝撃があった。


 ただ、それだけだ。

 沙月は少しがっかりして滝から抜ける。

 すると真白も滝に飛び込んできた。

「あはは! あははははは! たのしーーー!」

 そういってはしゃぎまわっている。


 そして口を開く。

「楽しいですねえ。沙月さん」


 それには沙月も同意だった。

「そうね」


「ここらへん、いいですねえ」


「そうね……。自然って感じがして、落ち着くわ」


「じゃあ、このあたりをキャンプ地にしましょう!」


「滝の音がうるさいから、少し離れない?」


「それは、そうですね。確かに」


 しばらく水遊びをした二人は、水からあがって着替えた。




 川沿いを歩いていく。


 真白はキャンプ地を選ぶ際、熱心に周りの環境を確認していた。

 彼女の目は、まるでプロのようにキャンプ地を選ぶポイントを探していた。


「真白ちゃん、詳しいの?」


「ええ。任せてください。もうプロみたいなものですよ」


「それは……意外ね」


「ちゃんと昨日Youtudeのアウトドアチャンネルで学んできましたからね」

 真白が胸を張っていう。


「そっか。すごいわね。私はこういうの何もわからないから。あ、あそこでいいわね。あの木の洞が大きいから入れそう。あそこで寝ましょう」


 そう言って突き進む。


「沙月さん!? ちゃんとテント借りてきてますから!」


「…………そっか。キャンプってテントで寝るのね」


「………………それ、ボケです? 本気です?」


 沙月は剣術のこと以外何もわからない自分がちょっと恥ずかしくなった。

 だからボケだということにして、真白の質問の答えは返さなかった。


「沙月さん、ここはどうですかね?」

 真白は少し小高い場所を指差す。

 そこには太陽の光がしっかりと当たり、景色も良く、近くには小川が流れている場所だった。


「ああ、いいわね。風通しも良さそうだし」


「私今日がすごく楽しみだったんですよ。だからYoutudeのキャンプ動画とかでたくさんお勉強してきたんです。設営の仕方とかも、わかりますよ。――だから、最高の場所を選びたいなって思ってて――」


「ええ。すごくいい場所だと思うわ。真白ちゃんのおかげで最高のキャンプ地を見つけられたわね」


「へへ……」


「私はキャンプとか何もわからないから、教えてくれるかしら」


「はい、はいっ! いいですよ。教えてあげます。任せてください!」


「たくさん準備してきたのね」


「だって友達とキャンプとか、初めてだし……」

 ちら、と沙月を見てくる。


「…………友達」


「だめ、ですか?」


「…………ううん。ダメなんてことないわ。お友達になりましょう」


 それは沙月にとっても初めての事だった。

 剣を介さない友達なんて、考えたこともなかった。


 だけど目の前で嬉しそうに笑う真白の想いを無にしたくはなくて、了承する。


 真白は少し照れくさい笑顔を浮かべながら、テントや火を起こすための道具を取り出し始めた。彼女の手際の良さは、Youtudeでの自習の成果を如実に示していた。


 二人は協力してキャンプの設営を進め、しっかりとしたキャンプ地が完成した。夜になれば、暖かいキャンプファイヤーを囲んで、楽しい時間を過ごすことになるだろう。




 そのあとはいろいろと楽しい出来事があった。

 まず二人はこの地に住む野生動物や、無害なモンスターと交流をした。


 それから持ち込んだ食材を、焚火で調理したり。


 夜は、日が昇るまでテントの中でおしゃべりをしてしまったくらいだ。


 ――なんだか、普通の女の子みたいで、これも楽しいな。

 と、沙月は思った。




────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、心からの感謝を申し上げます!

沙月と真白のキャンプはいかがでしたでしょうか?


キャラクターのことを少しでも伝えられたらなと思っています。


真白や沙月がかわいいと思ったら★とフォローをお願いします!

またコメントもお待ちしています!


多くの方に読んで頂き、反響を感じることができて嬉しいです。これからもモチベーションを維持し続けて、更に面白い展開をお届けできるよう努力いたします!


どうか今後も、暖かい目でこの物語を見守っていただければと思います!


もちぱん太郎

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