第43話 ミステリファンにぶん殴られそうですけどね
水無月璃音はオレの部屋で、オレのワイシャツを着たまま口を開く。
「じゃあさっさと報告しちゃいましょう。まず佐藤美緒さんは、そういうふうに言うように
「……それ以外に怪しい点は?」
「彼女は大学で環境学を専攻し、卒業後は海外での環境保護活動に従事。帰国後、日本での環境問題を訴える活動家として知名度を上げ、非営利組織『美しい緑の地球を守る会』のリーダーとなっています。で、この団体なんですけど、金銭を受け取って、依頼者に都合の良い主張を繰り返しているみたいですね」
あまり、まっとうな人物ではなさそうだった。
「彼女は別名義でも動物保護系の団体で特別顧問をしていますね。まず現在の名前でやったことは――」
直近で彼女がやったことは以下のようなものだ。
佐藤美緒は『水源保護キャンペーン』なるものを打ち、一つの企業に対してデモでの業務妨害を行い、言いがかりをつけてのネットリンチ。
そこで自らの攻撃力を見せつけ、それを脅迫の材料とした。
攻撃を恐れた別の企業から、『水源保護特別顧問』としてかなりの金銭を継続的に受け取る。
「彼女たちの団体を顧問に迎えた企業は、水質汚染の隠ぺいに協力してもらい、『清流エクセレンス賞』というオリジナルの賞を受けられるとのことです」
逆に彼女たちの団体を顧問に迎えるのを拒否した団体は、虚実を交えた報告書を出し、ネットで一般人を巻き込んでリンチする――といったものだった。
「かなり悪質なことに思えるが、今回のことには――いや。つまり、言いたいのは彼女が金銭で何でもやる人間であるということか?」
立って話していた水無月璃音はぽんっとベッドの上に座った。
「ですね。善悪はともかく、お金を巻き上げる構造としてはかなり優秀ですよ」
「脅迫だろ? 優秀なのか……」
「えっと。脅迫をしているとはいえ、お金を払ってる企業にも『環境に配慮した企業』っていう称号が貰えるじゃないですか。それに、初手で『お断りでーす!』ってしたら炎上させられて大打撃。断れなくないですか? これ」
金銭でのリスク回避だ。
「……よほど肝が据わってなければ、持ちかけられた時点で受けるしかないのか……。一度受けたら、もう公表することもできない。佐藤美緒は寝てても継続的にお金が入ってくると」
「ですです。佐藤美緒さん、燃え上がったらきれいでしょうねぇ……」
水無月璃音がうっとりとした、どこか蠱惑的な顔でいう。
だが一般的に見たら水無月璃音のほうが全然きれいだろうとは思った。
オレには佐藤美緒がそこまで美しいようには思えないが、アーティストの感性は独特なのだろうと結論付けた。
「それで彼女に依頼をした人間は?」
「はい。えーと、実は依頼とかではないんです。彼女のブレインなのかな? 昔から関りを持っている人物がいましてですね」
「ふむ」
「その人物は、最初に遥さんがくれたリストにいない人物です。ですが、それはとある人間の研究助手でした」
「松原凌馬か?」
オレがいうと水無月璃音はおぉと感嘆の声を漏らした。
「正解です。……さすがに遥さんがちょっと恐くなりましたよ」
「松原凌馬氏。政治家と聞いていたんですけど、政治家ではないです。
「――まるで陰謀論だな」
「事実なんですよねえ。残念ながら」
知ってたでしょ? と水無月璃音がベッドの上で足をぱたぱたさせながら、オレの顔を見る。
「松原凌馬氏は、佐藤美緒さんに自分のために色々なことをやらせていたようです。脅迫した企業からの情報収集や、ライバルを失墜させたりとかですね。ただそれが佐藤美緒さんの利益にもなっているのはさすが――って感じです」
水無月璃音はベッドの上にころんと転がる。
シャツがまくれあがり、白い太ももが見えた。
「それで松原凌馬氏は政界進出の準備をしていますね。横浜関係の政策とか、すでにまとめ始めています。その政策がですね、横浜の消滅を前提としたものなんですよね」
「何が起こる予定か知っているということ、か。他は?」
「八神義之氏は特にって感じです。特に気になることはなかったですね。わりとありがちな談合とか、ちょっとアレな接待してるくらいですかね。あと間宮雫さんですか。こちらも現状は通常の? といってはおかしいですけど、宗教団体ですね。精霊どうのこうの、とかは現状だと教義にはなかったです。かなり悪徳気味ですけどね」
その二人は関わっていなそう、ということでよさそうか?
「あと一人は?」
水無月璃音はベッドの上で転がり、うつ伏せになって難しそうな顔をする。
「あー……それなんですけど……。名前、あってます?」
水無月璃音の質問がよくわからず、オレは眉をひそめる。
すると水無月璃音は追って質問をしてきた。
「というか年齢はどれくらいですか?」
「名前はあっている。年齢は、今だと――」
未来において連城真也は、三十半ばくらいだったはずだ。
「現在二十半ばくらいかな」
「でしたら、該当する人間は
「存在しない?」
「ええ。該当するのは連城真也くん三歳くらいです。さすがに違うんじゃないかなあと思いまして」
いない、とはどういうことだ……?
「遥さんは『限定的な未来知識』って言ってましたよね。外れたりするというのは、遥さんの能力に対する大きなヒントになりそうですね」
いや、外れるはずはない。
オレがこの世界線に戻ってきたのはごく最近だ。
人間一人が過去からいなくなるはずがない。
――オレが起こしたバタフライエフェクトによって既に死亡した、とかか?
それも考えづらい。
「それで、どうします?」
「松原凌馬の周辺も含めて調べてくれ。彼がどうやって横浜を
「そのあたりは直接話しているのか、ネット上とか通信記録にはあんまり情報ないんですよねえ……」
水無月璃音がめんどくさそうに言う。
「あとはそうだな。その二人と、八神義之氏と間宮雫さんの団体の暴露動画も用意してくれ」
オレが言うと水無月璃音は、ぶほっと息を吐いた。
「あれ? でもこれ、ほとんど松原凌馬氏と佐藤美緒さんで確定じゃないですか? 横浜で精霊テロしようとしている犯人」
「だろうな。あと名前が出てこない連城真也な」
正直こいつの存在がいちばん不気味に思える。
「では、なんで八神義之氏と間宮雫さんを?」
「犯人の可能性は低いがゼロじゃない。その上、璃音の調べじゃ犯罪行為を行っているんだろ?」
「正義感ですか? この辺りくらいだと他にもやってる人もいますよ。他の人がやってるからって許していいわけじゃない! 的なやつです?」
そんな面倒な話じゃない。
答えはもっと単純だ。
「犯人が確定でわからないなら、候補全部捕まえたらいいだろ」
最後の方まで犯人が判らないときの強引な一手だ。
「たしかにそうですけど。身も蓋もないですねぇ」
「犯罪者が犯罪を起こす前から止めようと狙ってるんだ。なら、犯人候補全部捕まえたっていいだろう? ちょうどよく犯罪行為をしてくださってるんだ。ラッキーじゃないか」
「犯罪しててラッキーなんて初めて聞きましたよ。遥さんすごいですね……。まぁ、とても合理的だと思います。ミステリファンにぶん殴られそうですけどね」
水無月璃音は半ば呆れたように言った。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
※以下、未来の新聞記事。
おまけ程度のため読まなくて問題はありません。
◇2018年7月23日 日翔新報 朝刊◇
【横浜精霊界化事件から五年 – 復興の道のりと今】
7月23日。この日を我々は忘れることはできない。ちょうど5年前の2013年7月23日、横浜は“精霊界化”の悲劇に見舞われた。
当時の事件で約300万人が命を落とした。
精霊に乗り移られた人間が他者を襲撃、その死体からさらに精霊が乗り移るという恐ろしい連鎖が続いたためだ。
この大事件の直後、松原凌馬氏が復興の先頭に立った。
横浜事件の翌年、彼は市議会議員として当選。
彼のリーダーシップのもと特別対策会議が発足した。
この会議には精霊専門家である佐藤美緒氏と、有名な精霊使い連城真也氏が参加。
佐藤氏は横浜の正常化は精霊の怒りを刺激してしまうため、ステップを慎重に進めるべきだと主張。
一方、松原氏と連城氏はその知識と経験を活かし、解決へ向けての方針を明確にしてきた。
連城真也氏は、横浜の外への精霊被害の拡大を防止するために尽力しているとのこと。
しかし、横浜精霊界化事件の全容はまだ明らかになっておらず、市民の安全確保のための制限措置が続いている。
我々は、いつ安全な横浜を取り戻せるのか。その日が一日でも早く来ることを切に願う。
(著:伊藤真理)
────────────────────────
あとがき
皆さんここまでお読みくださりありがとうございます!
本来はもっと単純な話のはずだったんですけど、ちょっとややこしくなってきましたね。
そんなややこしいものをここまで読んでくださってありがとうございます!
明日はもっと読みやすくします!
するって言ったから絶対します!
犯人全部捕まえるのズルい! と思った方や、こいつ犯人っぽいな! と思った方、フォローと★をお願いします……!
なんとかランキング10位以内に入りたいと願っております。
もしよろしければ、お手伝いください!
これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!
もちぱん太郎
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます