第44話 精霊召喚テロの犯人――それはオレだ!
◆7月21日-事件二日前 横浜
「ほいっと」
オレは掘られた穴の中から『深海の珠』を拾う。
水属性の精霊のドロップ品であり『炎の宝石』と同ランクの品だ。
これが神社の地中に埋められていた。
オレは穴を掘ってそれを回収しただけである。
オレは神社やお寺、イベント会場などを巡り、埋められたり隠されたりしているドロップ品を拾っていたのだ。
「結構面倒だなぁ……」
とはいうものの情報チートの水無月璃音にもたらされた情報により、かなり楽をしている。
具体的には――。
オレはとある男女を尾行していた。
「いやあ。神社をめぐるのも大変だなあ」
「ですねぇ……。先輩、これフィールドワークって教授には言われましたけど、経済学と関係あります?」
「ない気がするなあ……。まあこれで大学推薦で会社に入れるんだから安いもんなんだよ」
「それはそうですねぇ。あの教授、かなり顔が広いですもんね。水道インフラとか飲料水メーカーとか、そっち系に顔が広いらしいですし。私もお願いしてみようかなあ」
などといっている二人の大学生――松原研究室所属の大学生の後ろをついていき、彼らが埋めたり隠した先からドロップ品を回収しているのだ。
隠したそばから即回収。
彼らの努力を無駄にしているというなかれ。
彼らも知らず知らずのうちに大虐殺に加担させられているのだから、それを阻止するオレに感謝してほしいくらいだ。
――あと多分、大学推薦で会社に入れることはないんじゃないかな。
松原凌馬氏のキャリアはここで終わりだよ。
ともかくオレは一つ一つ精霊を呼び出す触媒を回収していた。
それによって、二日後に起こるであろう事件の日に呼び出される精霊は大幅に弱体化される。
つまり犠牲者が大幅に減るのだ。
だが、ゼロにはできないだろう。
オレは登録者を増やしたいには増やしたいが、人の犠牲の上に成り上がった――というのは少々気分がよくない。
オレは自分自身の気分をよくするために大成功したいのだから、そこは吐き違えてはいけない。
成功するために何を犠牲にしてでもやってやる! ということは、したくない。
オレが成功するついでに、なるべく多くの人を助ける。それでいい。
前を歩く大学生二人組が、汗をぬぐいながら話している。
探索者として鍛えたオレの耳はある程度遠くの声もキャッチする。
「にしてもあっついですね……。てかこれ宝石ですよね? めっちゃ高そうなんですけど」
「……詳しくは知らないけど、なんか教授はレプリカだっていってたよ。あんまり気にしなくていいと思う」
「えー。こんなにきれいなのに? 一個くらい貰っちゃってもいいかなぁ」
そういって女子大生はカバンの中から『大地の宝石』を取り出してみせる。
――もらっちゃえもらっちゃえ。
一般人がふつうに買ったら50万以上するぞ、それ。
というかどうせなら全部パクってくれ。
「やめとけやめとけ。なんか教授も真剣そうだったろ。これからのキャリアがどうとかいってたし」
「……ですよねえ。やめときますかぁ」
女子大生は残念そうに『大地の宝石』をカバンの中に戻した。
「マジでさ、俺まだ就職決まってないから、真面目にやろうよ。紹介してもらえないとヤバいんだよ」
「就職活動ちゃんとしないからですよ先輩……」
「卒業できるか判らなかったんだから仕方ないだろ」
オレは横浜の犠牲をゼロにできるのか――ということについては、少し前に考えてみた。
無理だ。
たしかにオレの邪魔にならない程度なら人を救うこともいいと思う。
だが、自分の身を削ってまでするつもりは全然ない。
――今回に限って言えば、身を削ったところで不可能だろう。
たとえば、今から『横浜が消滅します! 逃げてください!』とかYoutudeで言い出すとかだ。
ほぼ間違いなく誰も信じてくれない上に白い目でみられてしまう。
それどころか、コトが起これば一気に重要参考人だ。
オレは事件が起こるということを知らない――という形でいるのが一番いい。
だがそれだと、事件が起きたときの一般人の被害者は計り知れない。
いくら今、触媒を拾って出現する精霊の格を落とそうと、一般人が精霊に対抗するのは難しい。
最下級精霊ですら、一般人は傷つけることができない。
だから現れた精霊にじわじわとなぶり殺しにされ、その死体に精霊が宿りさらに強力な精霊となるだろう。
つまり少々精霊を弱めたところで、生存時間多少伸びるだけに過ぎない。
横浜即落ち
――
そして大学生二人組は、横浜中華街にやってきた。
現在横浜中華街では、中華まんフェスティバルなるものをやっている。
本日は様々な中華まんが並び、様々な中華屋がしのぎを削る日なのだ。
ちなみにこのフェスはあと三日ほど行われる。
すなわち、二日後の横浜消滅の日も、行われているイベントなのだ。
今は様々な人で賑わっている。
だが、この様子がすべて死体に変わる地獄絵図が待ち受けているのだ。
何も知らない様子の大学生二人は、手にした宝石の一つを道路わきにある雨水などを排水するための穴――側溝に落とした。
――これは回収がきついな。
オレは回収することを諦める。
そして、今日予定したことを、ここで行なうと決めた。
――ここでいいか。
と考えていると、大学生二人組がいう。
「これで今日のノルマ終わりですね! 飲みに行きましょ! 飲みに!」
「だなぁ! 暑かったし、ビール飲みてえなぁ!」
ちょうど都合のいいことに、この二人も今日の活動は終了らしい。
オレは真白さんを呼び出した。
小早川沙月も呼び出そうかと考えたのだが、やめておいた。
うちの事務所のメンバーでもないのに好き勝手使うのも悪いだろう。
真白さんはうちの配信事務所のNo001だから、手伝ってもらうのも問題ないだろう。
ということで真白さんだけを呼び出した。
しばらくして――。
きれいな白髪の小さな可愛らしい女の子がやってくる。
夕日に照らされたその髪は光を受けて、オレンジ色に輝いていた。
服装は背伸びした女子小学生みたいな印象だった。
「お待たせしました! ハルカくん!」
オレを見つけた真白さんが、片手をあげながら小走りで近寄ってきた。
「あれ。鈴木のおっさん――鉄浄さんは一緒じゃなかったのか?」
「あ、おとうさんは用事があるとかで帰しました」
「……帰しました?」
「いえ。帰りました」
「そっか。じゃあ一緒に配信してもらっていいか?」
「はいっ。配信内容は何ですか? 何かしたほうがいいこととかありますか?」
「配信内容は『中華まんフェス――中華ギリギリ!! ぶっちぎりの美味い奴!』だな」
「はへぇ……。珍しい内容ですね」
まぁ、考えがあるのだ。
これが横浜市民の生存率をあげるための、大きな一手になるはずだ。
「してほしいことはとくにないかな。全部アドリブだ」
「了解です! ハルカくん!」
真白さんはやる気まんまんだ。
両手をぐーで握って、平たい胸の前でむんってしている。
ということで配信を開始する。
「はい。こんばんは。ハルカちゃんねる、ハルカです!」
「所員ナンバー001、真白です~」
【お。おはるかー】
おはるか? 謎の挨拶が来たな……。まあいいか。
「今日は横浜の中華街に来ております!」
「ますっ」
オレは中華まん屋を手で示しながら口を開いた。
「どうやら今日は中華まんフェスティバルっていうのを、やっているそうなんですね。ずっと楽しみにしてたんですよ。ねえ真白さん」
「えっ。そうなんですか? あ、いや、そうです! そうなんです!」
【絶対打ち合わせしてないwww】
「これはもう行くしかない――ということで、一番おいしい中華まんはどれか!? 強い中華まんはどれか!? 見定めていきたいと思います」
「おー!!」
【ハルカってダンジョン配信じゃなかった?】
【ダンジョン配信者……? ダンジョンとはいったい……?】
「中華まんもいわゆる一つのダンジョンですよ。さぁ、行きますよ真白さん」
オレは無茶苦茶なことを言って無理やり押し切る。
「はいっ! ハルカさん!」
【ハルカくんノリで口調変わるせいで、フリ〇ザ様みたいになってる……】
「あ、真白さん。あっちにいくよ。あ、やっぱりあっち。やっぱりあっちに――」
【ハルきゅん目移り激しすぎてかわいい。そんなに食べたいの? お姉さんが作ってあげたい】
ということで、様々な中華まんを食べつつ配信をしたのだ。
――だが誰も気づいていないだろう。
この配信、そして、今の歩き、そのすべてがとあることの下準備だったことに。
オレは歩き回る振りをして――足で魔法陣を書いていたのだ。
何をしたいか知らないが、先に書いておけばよかったって?
その通りだ。
ついうっかり下準備を忘れて配信を始めてしまったのだ。
つまりここに、今楽しそうにみんなが中華まんを食べ歩いている中華街に、水無月璃音のシークレットライブに出現したような精霊たちを呼び出そうというのだ。
一度行われれば、一般人が精霊に勝てるはずもない。
この場のほぼ全員が死亡するだろう。
――
オレは魔法陣と、触媒となる側溝の下の宝石に魔素を送る。
魔法陣に魔素が駆け巡り、宝石が核となって大きな力の波動が放たれる。
隣で真白さんが「あわっ」とびっくりして転びそうになっていた。
空中に、水の精――
「な、なんだあれ……」
中華まんを売っていた屋台は砕け、はじけ飛んだ。
売り子が腰を抜かしている。
オレは声を出す。
「皆さん、トラブルですね? いったい何が――。ああ、あれは、
【え、精霊!? ヤバくない!?】
【地上は安全なはずじゃなかったのかよ……】
【でもハルくんがいてよかった。助けてあげて!】
【誰かが呼び出したのか……?】
【テロリストじゃん……】
オレが犯人と疑う声は一つもなかった。
次々と精霊が生まれてきそうな気配がする。
「真白さん。精霊を呼び出して、周りの人を守ってあげて」
「は、はい……!」
真白さんはあの後、自分の配信の一つで精霊を仲間にする配信を行っていた。
そのため真白さんは低級精霊なら各種属性、捕まえているのだ。
通常はこうはいかない。
自分が好かれる属性というのがある程度決まってはいるし、精霊力の総量などの問題もある。
しかし真白さんは、元精霊病患者であるため、属性に関係なく精霊と契約することができる。
さらに前回のパワーレベリングでレベルもかなり高い――つまり精霊力も相当あるということだ。
真白さんが各属性の低級精霊を呼び出すと、真白さんの髪は赤青黄翠銀白黒などの色にで染まっていた。
【ゲーミング髪の毛www】とコメントで言われていた。
「いやぁ、予想もしないトラブルが発生したので、オレもなんとかしないとですね! ――ということで、やってみましょう!」
オレは地面を蹴り、建物の壁を蹴り、特設ステージにあがる。
そして設置してあったマイクをONにした。
キィーン――と音がする。
『こんばんは! 今、精霊が出現するトラブルに見舞われています! オレはダンジョン探索者のハルカです! どなたか、ご協力願えませんか!? 一緒に精霊を倒しましょう!』
「え、なんだ……? 誰だよこんなときに!」
「迷惑系配信者かよ!?」
「そんなことよりやべーぞ! 逃げろ!」
オレは迷惑系配信者扱いをされ、さほど相手にされない。
まだそこまでの知名度がないのだ。
『どなたかいませんか!? オレを手伝ってください!』
騒ぎの起こっている中華街でその声は消えていきそうになる。
――だが。
「はるきゅん!? わたし! わたし手伝います!」
そういったのはメイクをばっちり決めたお姉さんだった。
オレはマイクを放りすてるとステージを蹴ってジャンプ。
声をあげてくれたお姉さんのすぐ傍に降り立つ。
「ありがとうございます。お姉さん。配信で顔がでてしまうのは大丈夫ですか?」
「は、はひ……。だいじょうぶです……」
「では皆さん! 今日の配信は中華まん食べ歩きから変更します! 題して『ガチの一般人が精霊を倒してみた!』です! あ、ちなみにお姉さん、探索者だったりします……?」
「ち、ちがいます……。会社勤めです……」
「よかった。じゃあ一緒に精霊を倒しましょうね。お姉さん」
そういって微笑んで見せる。
「――あっ。無理――」
そういってお姉さんは額に手をあて、倒れそうになる。
「あぶなっ! 無理ですか!? 無理はしないでくださいね?」
オレはお姉さんを支えながら言う。
「む、無理してません……。大丈夫です……」
お姉さんは若干過呼吸のようになっている。
大丈夫か? ホントに。
「さ、お姉さん。オレと一緒に、頑張りましょう! 簡単ですから、大丈夫ですからね」
「はひ……」
「というわけで! 『ガチの一般人が精霊を倒してみた!』――開始です!』
――横浜消滅の日まで、あと二日。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
【真白スレッドアンケート】
Q:真白さんは?
・ロリ! ── 58.6%
・お姉ちゃん! ── 12.3%
・合法ロリ! ── 8.8%
・真白さんは合法ロリという輩は母親の腹に知性を置いて産まれてきた愚物である。手の甲に年齢は現れる。真白さんはロリの手をしている。これを聞いても考えを変えない輩は呼吸で消費する酸素すら勿体ない ── 6.3%
・わからない ── 14.0%
────────────────────────
あとがき
皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
まさかテロを起こすなんて悪い主人公ですね!
マジかよって思った方は★とフォローをぜひ!
また、すでに★やフォローをくださってる方にはただただ感謝を。
たくさん反応を頂き、とても嬉しく思っています!
これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!
もちぱん太郎
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