第41話 もしこれがミステリだったらチートですよ

 その後、横浜は少しずつ、少しずつ精霊アストラル界に近づいていった。


 精霊アストラル界化したのは七月二十三日の十九時頃だったはずだ。


 ――あと一週間だ。



 このまま行けば横浜市民約三百七十万の死体ができあがるだろう。

 逃げ出すことのできた人間もいるだろうから、そっくりそのまま死亡ということにはならないだろうが、その大多数は亡くなってしまうだろう。


 住んでいる一般市民は変化を感じないようだったが、探索者たちは違和感を覚えていたようだ。

 Thitterなどでもそういった投稿が相次いでいる。


【最近、ちょっとおかしな感覚しないか? 肌がざわつくっていうかさ】

【なーんか、見られてる感覚あるんだよね。気のせい?】

【オレ危機察知スキル持ってるんだけど、びみょーに反応すんだよなあ。。実際なんもないけど、スキルばぐったか?】

【横浜の××神社のご神木のしめ縄外れてた。なんか不気味】

【泉で水滴の精霊見た気がする。気のせいかも】

【兄と連絡がつかなくなったんだが……心配過ぎる】


 これらはすべて神奈川県横浜市からの投稿だった。




 また水無月璃音による探索も芳しくない。


 オレたちは再び、廃墟の映画館で情報交換をしていた。

 今は映画は何も流れていない。


 隣の座席で疲れた様子を見せた水無月璃音は、その銀のハイライトの入った美しい黒髪を手ですきながらいう。


「さすがに具体的な情報ゼロからの捜索は、調べる範囲多すぎてキツいですね。何か、手がかりはありませんか?」


「オレの未来予知は限定的だからなあ」


 言ってオレは他に何かないか思い出そうとする。


 横浜の精霊アストラル界化は多くの謎を抱えているが、オレはこの現象を人為的なものと疑っている。

 その最大の手がかりは、未来の情報だ。


 未来の記録によれば、横浜の精霊ダンジョンの調査が盛んに行われていた。

 突如として起きたこの暴走について、未来の人々は様々な説を唱えていた。


 その中で、特に気になるのは大暴走の具体的な原因が明確でないこと。

 普通、大きな現象が起こる前には兆候や予兆があるものだ。しかし、そのようなサインは一切存在しない。


 オレ自身も今回の世界線で横浜にある精霊ダンジョンを調査してみたが、やはり異変の前触れを感じることはできなかった。

 だが、ダンジョン内の精霊たちの動きには何か不自然なものを感じた。


 そして、もう一つ。

 未来の情報によれば、現在の横浜の特定の場所に精霊ダンジョンが存在するはずだった。


 だが、それが存在しない。


 その場所にはダンジョンの存在を示すものは何もなく、代わりに巨大な建造物「パフィシコ横浜」が建てられていた。


 これらの情報から、オレは横浜の精霊アストラル界化が、何者かの意図的な行動で引き起こされていると確信している。

 そして、その背後にはより大きな陰謀が隠されていると感じている。


「悪い。たしかに、こういうことが起こるから調べてくれ――というのは無茶だったかもしれない」


「それではお手上げですか?」


「いや。考え方を変える」




 電脳の影サイバーシャドウを以てしても、現状の情報では原因の特定は不可能。




「璃音。オレは事件が起こったとき、その事件において、最も利益をあげた人物が犯人である可能性が高い。と考えている」


「まぁ、それはそうですね。利益を得ることが目的で事件が起こったのであれば、それはそうでしょう。怨恨の場合は別ですけど。でも遥さん。それは無理ですよ」


 水無月璃音が続けていう。


「まだ事件は発生していません。大規模な事件になるからこそ、その影響は多方面にわたります。つまり、起こってみないと誰が得するかなんてわかりません」


「わかるとしたら?」


 水無月璃音は思わずといった様子で少し笑った。


「え。まだ発生してない事件の、犯人候補がわかるっていうんです……? ――あ」

 と思い至ったようだ。


「限定的な未来予知ができるといっただろ?」


「それズルくないですか? 遥さん。もしこれがミステリだったらチートですよ。事件が起こる前から起こることがわかった上に犯人の目星までついてるじゃないですか」


 驚きと呆れと称賛の入り混じった声色だった。


「でもこれはミステリじゃない。オレはオレの目的を達成するためなら何でも使うよ」


「クレバーですねえ。その落ち着いていて動じない感じ、好きですよ」


 水無月璃音が顔を覗き込んでくる。


「それはありがとう。嬉しいよ」


「……うーわ。全然嬉しいと思ってなさそうじゃないですか。この人気アイドル水無月璃音ちゃんが好きって言ったんですよ? もっと面白ムーブしてみたりできません? 『り、りおんちゃんが僕のこと好きって言った。もしかして……。デュフフ……』みたいな」


 なぜだか水無月璃音は、あの映画館で話した日を終えて以降、かなり気安い接し方をしてきた。


「はいはい。りおんちゃんが僕のことを好きって言った。もしかして。デュフフ」


「めっちゃくちゃ棒読みじゃないですか……。まぁいいですけど。で、犯人の目星はどのあたりです?」


 オレはこの事件で利益をあげた人間の名前をあげていく。




 八神義之、松原凌馬、佐藤美緒、連城真也、間宮雫――。




「この中に犯人がいれば、もう捕まえたも同然ですね。遥さん。さすがですね」





◆横浜消滅まで - あと7日






・八神義之

 大手建設企業創業者。

 横浜消滅の影響を受け近くの都市の建設が活発化。多大な利益を得る。


・松原凌馬

 カリスマ政治家。

 横浜消滅の事件をキャリアの転機とし、被災者の救済や復興支援のための政策を提案。国民の支持を得る。


・佐藤美緒

 国際的環境活動家。

 横浜消滅を環境問題のせいと結論付け、地球の怒りといいはじめる。原因に対しての捜査を何度も邪魔している。


・連城真也

 精霊術師のトップランカー。

 精霊アストラル界化した横浜で上級精霊の捕獲。精霊術師クランの設立。


・間宮雫

 宗教団体の巫女兼実質のリーダー。

 精霊に従うことで精霊の怒りを回避しようという宗教団体『精霊の家』設立。




────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!


そして、皆様重ねてありがとうございます!

ローファンタジー部門、週間ランキング14位で持ちこたえております!

また週間総合ランキングでは34位ですね!

ここからまた上昇していくと嬉しいです!


ですので、応援をどうぞよろしくお願いいたします!


また、すでに★やフォローをくださってる方にはただただ感謝を。


これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!



もちぱん太郎

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