第28話 真白レベルアップ

 オレと真白は仄暗いダンジョンで、大量の魔物に囲まれていた。


 火、水、風、土、光、闇――様々な精霊エレメンタルたち。


 それは、一般探索者であれば、一体ですら苦戦する相手だ。


 たとえばこのダンジョンが火の精霊ダンジョンであれば、まだ対処はできただろう。

 水属性武器を使えばいい。

 水属性ダンジョンなら土属性武器。土属性には風を、風には火を。


 弱点を突けば、それなりの腕前の探索者であれば対処は可能だ。


 だがここは、すべての属性が現れる精霊ダンジョンである。


 物理は効きづらく、弱点属性も種別ごとにさまざまである。

 エレメンタルキラー効果つきの武器は、レア過ぎて手が出ない。


 そんな、手ごわい存在が百体以上いる。


 どうするか……?


「さて真白くん。問題です。この大量の低級精霊レッサー・エレメンタルたちをどう倒しますか?」


「え、ええ……!? が、がんばって、倒します?」


「五点です。精霊の弱点は属性ごとに様々であり、物理は効きづらい。ではどうするか?」


「ごくり……」

 真白はごくりと口で言った。


 脳内に流れてくるコメントでもわからないようだった。


『ど、どうするんだ……』

『魔法で……?』

『精霊愛され体質って言ってた! つまり! みんな真白ちゃんのファンなんだ! ファンを並べて一人一人首をはねていけばいいんだ!』


 てか、なんかやばいやついるな……?


「はい、皆さん不正解。精霊たちが迫ってきているので、答えです!」


 オレはマジックバッグから、ブラッドシャドウの斧を取り出した。

 そして真白に向かって放る。


「正解は、物理で倒す! でした!」


 コメントが荒れる。

『ふざけんじゃねーぞ!』

『効きづらいって言ってたじゃねえか!』

『そんな斧真白ちゃんに持てるわけないだろ!』


「ひゃ、ひゃわ!」

 真白が、重たい重たいブラッドシャドウの斧を受け取った。


「はい。このために真白くんの力を上げたんですね! だから持てます!」


 オレは眼鏡を中指でくいっとあげる。


低級精霊レッサー・エレメンタルの物理耐性はかなり強いです! 一説によれば物理攻撃のダメージ減衰率は95パーセント!」


『ヘビー級王者のパンチも子供のパンチになるってことだろ……?』

『無理じゃね?』


「ならば20倍の威力で攻撃をすればいいんですよ。簡単な数学の問題ですね」

 眼鏡くいっ(キリッ)。


『むしろ算数では』

『さすがIQ5000。算数が得意だな』

『というか計算なのか……? レベルを上げて物理で殴るって話じゃ……』


「というわけでですね。真白くん。どうぞ」


 以前のチンピラやアニキの持てなかった斧を、真白はなんとか持てていた。

 大量のアクセサリーとバフポーション星宿の秘液セレスティアルドロップのおかげだった。


 そして低級精霊レッサー・エレメンタルの攻撃はそのほとんどが魔法攻撃力のため、魔法抵抗力を十分にあげている真白にはほぼ効かない。


 安全面は完全に確保している。


「く……。やってやります!」

 真白はブラッドシャドウの斧を大きく振りかぶった。


 真横に振り切る。



 ゴウッ! 



 と、重く激しい音。


 鋭い風が巻き起こり、触れていない箇所すら、斧が断ち割る。


 その風圧か、魔力の流れか、周囲の精霊すべてが圧倒的な力に巻き込まれて消滅していく。


 真白がブラッドシャドウの斧を扱いきれていないため起こった現象である。


 扱いきれない力が、衝撃の奔流となって周囲にまき散らされたのだ。


 近くにいた低級精霊たちは、ブワァ……と、塵のように消えていく。



 オレのつけている眼鏡に、魔素の流れが映る。

 ただの伊達メガネではないのだ。

 通常、目には見えないモノを映るようにする道具だ。


 精霊眼鏡アスタール・ブリレ

 未来でドイツ人が発明する道具である。

 オレはその原理を利用し、簡易版を作っていた。


 前回のオレと違って、今のオレは精霊の眼エレメンタルアイを持っていないため、魔素の流れを知覚することができないのだ。


 精霊が断ち切られ、塵のようになるとき、放出される魔素。

 それは低級精霊を倒した真白のほうへと引き寄せられ、真白の身体に吸収されていく。



 神秘的ですらあった。



 うっすらと光る精霊の粒子は、ダンジョンを照らし、白い髪の少女へと吸い込まれていく。

 彼女は、光源の存在しない灯りで浮かび上がっていた。




 これで彼女は健康体になったはずだった。

 精霊に成長の力を奪われずに、レベルアップに見合っただけの成長ができている。

 それによって魔法抵抗力はかなり上昇したはずだ。


 これからは、ゆっくりと成長していくことだろう。


 ゆっくりなのはなぜか?

 いくら魔法抵抗力が上がったといっても、成長の力は精霊に多少なりとも奪われるためである。



「さて。真白くん。これで君は健康体ですよ。ポーションの効果が切れても、もう大丈夫でしょう」


 そう言ってオレは頷いてみせる。


 真白は一瞬、意味を理解できなかったようで、何度か瞬きをして見せた。


 それから――。


「ほ、本当ですか……?」

 と尋ねてくる。


「ええ。真白くん。君には今倒した精霊の力が吸収されていきました。真白くんが健康体になった確率――――100パーセントです」

 眼鏡を中指で押し上げる。


「あ、ああ……。うぅ……。ありがとうございます。ありがとう、ございます……」

 嗚咽おえつ交じりの泣き声で、真白は言った。


「いいんですよ。真白くん」


「うぅ……。先生……ハルカ、くん……。ありがとう……。身体が丈夫になったの、なんとなく、わかります……。今日は、本当にありがとうございました……」


 オレはぽんぽんと真白の小さな肩をたたく。


「誰がもう終わりだといいましたか? 真白くん」


 真白が顔をあげる。


「え?」


「今日の配信タイトル忘れましたか?」


「あっ……」


「『病弱少女をつよつよ少女にしてみた!』ですよ!」


「は、はい」


「たしかに真白くん。君は健康になりました! しかし!! 果たして『つよつよ少女』といえるのか!?」


「く……」


「答えは否! 断じて否です! ならば今からつよつよ少女にしてしまいしょう!」


 精霊たちのドロップアイテムをオレは拾っていく。


「覚悟はいいですか!?」


「はい、先生……!」


 持ち込んだ道具とドロップアイテムを使い、魔法陣を描いていく。


 各地水火風精霊の確定ドロップである土の塊/水滴の玉/灰の残り/風の息吹を四隅に配置。

 その中央に、火精霊のレアドロップである炎の宝石を配置する。




 これから、真白の戦力となる精霊を召喚する――!






────────────────────────

あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

感謝の気持ちを込めて、ちょっとしたお願いをさせてください!!


実は、この小説のランキングや人気が上がるには、皆様からの評価が非常に大切なのです!

私のモチベーションの源でもあります。

『このシーン良かった!』『次回が楽しみ!』『もっとこんな展開を見たい!』など、感想を添えていただけると、私の創作意欲がMAXになります!


★やフォローをしていただけると、この小説がもっと多くの方の目に触れる機会が増えます。

皆様の一押しで、この作品をもっと多くの方に知ってもらえるチャンスです!


もちろん、感想だけでも大歓迎です!

面白かった、だけの一言でめちゃくちゃ嬉しいです!!


ですので、もしよろしければ、評価やコメントを残していただけると大変嬉しいです!

もしすでにしていただいている方がいましたら、重ね重ねの感謝を…!


これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!



もちぱん太郎

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