第27話 十年ぶりのおでかけ
「わぁ……! ハルカくん! 鳥です!」
そういって真白はハトに駆け寄っていく。
ハトは真白にびっくりして空へと飛び立った。
真白はそのハトの姿を、どこか残念そうに見つめていた。
オレたちは目的地へと向かって街を歩いていた。
「おお~……。信号、赤です! 青になりました!」
たたたっと真白がかけていく。
「コンビニです! 寄ってもいいですか!? ハルカくん!」
コンビニによってジュースを買い。
「メンチカツ! 売ってます! おいしそう……!」
などと、真白は街を歩くだけで充実している様子だった。
やたらテンションも高いな――と思ってから思い直す。
――そうか。真白にとって、外の世界は十年ぶりなのか。
さらわれた時以外は外に出られなかった。
警察の事情聴取すらも家で行っていた。
だから――見るものすべてが新鮮なのかもしれない。
「ねこ! ねこですよハルカくん! かわいい~~~!!」
そしてまた猫に駆け寄り、逃げられていく。
オレはそんな様子の真白と一緒に電車に乗って目的地へと移動した。
「電車です! わ! 中はすずしい~~!!」
うだるような外の熱気と違って、電車の中は冷房が効いてひんやりと涼しかった。
電車の中でもはしゃぎまわる真白を見て、若干恥ずかしい気持ちになる。
しかし、どこか、ほっこりした気持ちになった。
――よかったな。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「さて。真白くん。ここは何のダンジョンかわかるかな?」
オレはわざわざつけてきた
「はいっ! 先生! ここは精霊ダンジョンです!
テンションの高い真白が大きく手をあげて、答える。
真白は今日、ここに来るまでずっとテンションが高かった。
るんるん気分――というのが相応しいような様子だった。
よっぽど楽しいのだろう。
そして今日はオレが先生役で真白は生徒役なのだ。
そういう
先ほど真白の部屋では、配信ではなく録画をしていた。
このあとダンジョンへ行く移動時間のことも考えると、テンポが悪くなると判断したのだ。
なのでオレは、ダンジョンの近くまで来てから先ほど録画したデータを配信した。
その後、真白と一緒にダンジョンに潜っているのだ。
「でも、ここで、大丈夫なんでしょうか……?」
と不安そうに真白がいう。
「ふむ。どうしてそう思うのかな? 真白くん」
「精霊ダンジョンって難関ダンジョンなんですよね? あまり人が入らないと聞きました……!」
「えらい! 勉強家だね真白くんは。その通りだよ。精霊は目視で確認しづらいから、奇襲を受けることが多い。また出てきたり出てこなかったり、気まぐれであることもあって、狩りをするのに安定性がないんだ」
「……安定性ですか?」
「せっかくきたのに、一匹や二匹としか遭遇しない――ってこともあるってことなんだよ。真白くん」
眼鏡を中指でクイってする。
イメージはよくいる秀才キャラだ。
――次の攻撃の確率は右上から袈裟斬りの確率――91.1125パーセント――。フ、予想通りです――
って感じのやつだ。
オレは賢そうな顔を作って
「最初に接敵する敵は――精霊の確率100パーセント……」
とか言ってみる。
「それは、そうなんじゃないんですか? 先生。精霊ダンジョンですもん」
「……まぁな」
逆に頭悪そうな感じになってしまった。
「ところで先生、これはいったい……?」
と真白は自分の両手を広げてみせた。
真白の小さな手には、じゃらじゃらと指輪がじゃらついていた。
各指に2つ3つずつ。合計25個の指輪を着けている。
首にもペンダントを三つつけ、腕輪も左右に3個ずつ。足首にもついている。
成金でもわざわざこんなにつけてないだろう、という具合である。
「うむ。いいところに気づいたね。真白くん。花丸をあげよう。
オレがいうと真白は「わぁい!」と無邪気に喜んだ。
「それは力の指輪と体力の指輪、魔耐の指輪。そして同様のペンダントとブレスレットとアンクレットだね」
「魔耐の指輪はわかるんですケド……力と、体力、ですか?」
オレたちは配信をしながら薄暗いダンジョンの中を進んでいく。
「特に力が多めかな。半分以上は力のアクセサリーだね。高レベルのアクセサリーがあればよかったんだけど、力の指輪1と2しかなかったからね……。数で補おうって寸法さ、あとはブラッドシャドウの指輪もつけてるよ。これだけは高レベルの超レアアイテムだね」
「ほへえ……すごいですね……?」
真白はよくわかっていなそうだった。
力の指輪1一つで十万近い値段がする。
2なら三十万くらいか?
ちなみにブラッドシャドウの指輪は時価だ。
今より未来のほうが間違いなく値はあがる。
オレが知っている未来であれば、億を簡単に超えていたはずだ。
なぜかといえば、仕様変更が入るからだ。
若干、仕様変更という言葉に違和感はあるが、そういうのが一番しっくりくる現象が起こるのだ。
これからしばらくは指輪やアクセサリーの多重装備が効果がある。
しかし、いつだったかは忘れたが近いうちにこの世界の規約に修正が入る。
指輪は二つまでしか効果がなくなる。
ブレスレット、アンクレット、ペンダントは一つまでしか効果がなくなる。
だからこの多重アクセサリー装備はそれまで期間限定テクニックなのだ。
ちなみにこういったことも、オレが『ダンジョンの意志』があると判断している理由だ。
意志を持ち、世界を管理している存在は確実にいる――とオレは考えている。
まあ、それはともかく。
アクセサリーの多重装備の意味がなくなるため、効果の高い高レベルアクセサリーの値段は上がり、低レベルアクセサリーの値段は下がる。
だから、これが終わったらアクセサリーはさっさと売り払うつもりだった。
しかしオレは一つ思いついた。
いくつかプレゼント企画をしてしまおう――と。
「はい。そういうわけでですね!」
「どういうわけですか?」
と真白が聞いてくるがスルー。
オレだってどういうわけか判らんのだ。
とりあえずこのセリフを言っておけば、急速な話題転換も許される。
配信者の技の一つだった。
「この真白ちゃんがつけてたアクセサリーのいくつかを、配信を見てくれている皆さんにプレゼントしちゃおうと思います! 結構数があるんで、全部ではないんですけど、力/体力/魔耐アクセサリーのレベル1を二個くらいずつプレゼントします! 応募方法は配信の最後に伝えますから、最後まで見てね!」
脳内にコメントの嵐が流れてくる。
『マジか!?』
『それ、結構お高いんでしょう!?』
『最後まで見なきゃ!』
といったものである。
これで視聴者が途中で離れる率は減るはずだ。
真白は大量のコメントに目を白黒させていた。
「はわわ……」
「さ、ダンジョンの奥へ進みますよ。真白くん」
「はい、先生。でも、なぜに力のアクセサリーばかりなんですか……? すごい力があふれてきてます」
「――それはですね――っと、その前に視聴者の皆さんがどれくらいの力か気になってますね。真白くん」
脳内に流れるコメントだ。
『これ真白ちゃんどれくらい強くなったん?』
『指輪こんなにつけて、大丈夫なんだ?』
などなど。
真白はオレのほうをむいて、首をこてんとかしげた。
「はい?」
「さ。生徒真白くん。この石を思いっきり握ってみてください」
オレはその辺に落ちていた石ころを真白に手渡す。
「いや、ええ……? さすがに無理ですよ」
「いいからいいから」
真白の手には少し大きい石を渡し、握りしめさせる。
ぐしゃぁ!
音を立てて、握りつぶされる石ころ。
砕けた破片がぱらぱらと地面に落ちる。
「ええ……。まじですか。ええ? ホントに……?」
「お。先ほどどうして力をそんなにあげるのか? その理由が証明できそうですよ。真白くん」
周囲には様々な気配が漂っていた。
火、水、風、土、光、闇――。
それらの低級精霊が、姿を現した。
百以上に囲まれていた。
直接攻撃が効きづらく、一体ですら苦戦するという精霊である。
スライムなどは比ですらない。
それは一階層の精霊ですら、中級探索者すら苦戦するという話だった。
「え、えええ!? ハルカくん!? む、むりだよこれ……ええ……? 精霊ってほとんど出ないはずなんじゃなかったんですか……!?」
真白は生徒役ということも忘れ、大きな声を出した。
「真白くん。君は愛され体質です」
「は、はい……!?」
「君は精霊に超愛されちゃう体質です。先生には最初からわかっていました。だから、精霊ダンジョンに来たんです」
「こんなに出るってわかってたってことですか!?」
「はい。これ全部倒したら、とってもレベルアップできると思いませんか? 生徒真白くん」
「できますけど! 倒せたらできますけど……!?」
「よろしい」
「でも無理ですよこれ……! わたしゴブリンすら倒したことないんですよ!?」
「真白くん。十年ぶりの運動ですね! 頑張りましょう!」
オレはぐっと真白に親指を立てた。
「いきなりハードル高すぎますよぉ!!」
真白は涙目であった。
「かわいそうに……。どうしてこんなことに……」
『絶対ハルカのせいで草』
◆リザルト
◇装備購入金額
力の指輪1×13 ▲1,300,000円
力の指輪2×2 ▲600,000円
体力の指輪1×5 ▲500,000円
魔耐の指輪1×4 ▲400,000円
力の腕輪1×3 ▲300,000円
体力の腕輪1×1 ▲100,000円
魔耐の腕輪1×1 ▲100,000円
力の首飾り1×1 ▲100,000円
体力の首飾り1×1 ▲100,000円
魔耐の首飾り1×1 ▲100,000円
力のアンクレット1×2 ▲200,000円
体力のアンクレット1×1 ▲100,000円
魔耐のアンクレット1×1 ▲100,000円
計 ▲4,000,000円
────────────────────────
あとがき
皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。
感謝の気持ちを込めて、ちょっとしたお願いをさせてください!!
実は、この小説のランキングや人気が上がるには、皆様からの評価が非常に大切なのです!
私のモチベーションの源でもあります。
『このシーン良かった!』『次回が楽しみ!』『もっとこんな展開を見たい!』など、感想を添えていただけると、私の創作意欲がMAXになります!
★やフォローをしていただけると、この小説がもっと多くの方の目に触れる機会が増えます。
皆様の一押しで、この作品をもっと多くの方に知ってもらえるチャンスです!
もちろん、感想だけでも大歓迎です!
面白かった、だけの一言でめちゃくちゃ嬉しいです!!
ですので、もしよろしければ、評価やコメントを残していただけると大変嬉しいです!
もしすでにしていただいている方がいましたら、重ね重ねの感謝を…!
これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いいたします!
もちぱん太郎
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