第26話 真白さんに怪しい栄養ドリンクのようなものを飲ませる配信

「ふぅ――」

 オレは息を吐いた。

 強く集中をしていた。

 とても大事なことをしているのだ。


 深夜。

 月の出る夜だった。

 オレは自室の窓から入る月明りを浴びながら、全神経を意識する。血の流れ、細胞の一つ一つ、そういったものすら認識できるほどの、極度の集中。


 オレは、通常オレのレベルではまだできないことをしようとしていた。

 ギルドで職業を『錬金術師』にし、わずかばかりの補助を受けている。


 魔法の効果が大きくなる、月の出る夜。本当なら満月のほうが良いが、次の満月は二十日以上先となる。

 月の影響で魔力が増すのだ。


 今日は月齢24.5。下弦の月の後期だ。

 満月が過ぎ、魔力が収束していくときだ。決して悪い時期ではない。


 オレは、ポーションを作っていた。

 

 オレは鈴木真白誘拐事件のあった翌日と翌々日、素材をひたすらに集めていたのだ。

 その材料を使ってこの世界ではまだ存在しないモノを作っている。


 月光草を煎じ、星の砂を混ぜる。砕いた水晶の石を加え、自分の魔力とともに練っていく。


「月光草よ、星の砂よ、水晶の欠片よ――」


 それぞれの名称を口にしながら、自らの魔力を加えていく。

 多すぎても、少なすぎても、速すぎても、遅すぎてもいけない。

 繊細な魔力コントロール。


 10年後ならともかく、今これができるのはオレだけだろう。


「魔法の木の生命よ、精霊の涙よ――我が魔力に応えよ」


 魔法の木の樹液、精霊の涙を加える。


「星々の姉妹よ、夜空の煌めきの中で我を導きたまえ」


 敬虔な信者のように月の女神に祈りを捧げ、月光の力を借りる。


「銀の月光のもと、秘密の叡智を解き放ち、この液体に力を宿らせたまえ――」


 ポーションは月の光が宿るかのように、少しずつ輝いていく。


「――星宿の秘液セレスティアルドロップ


 ひときわ強く液体が輝くと、次第に収束していった。


――できた。


 これは月の力を得るポーションである。


 すべての能力が上昇するバフポーション。

 中でも特に魔法抵抗力を強く上昇させる。


 魔を呼び寄せ、また、魔を退けることにも使われるという伝承を持つ月の力だった。


 販売すればいったいいくらになるのか。

 とんでもない金額になることは間違いない。

 しかしオレはこのポーションを売るつもりはなかった。


 真白の精霊病を治すために、必要なアイテムだからだ。




――精霊病。

 それは人間が成長するための力を奪う病だ。

 精霊に愛されすぎた人間が、生命力を奪われ死んでいく。


 レベルを上げて強くなればいいじゃないか――という説もあった。

 だが、それは失敗した。

 レベル上昇による成長の力すらも精霊は奪ってしまうのだ。


 だから、このポーションによって魔法抵抗力を上げる必要がある。

 それからレベルを上げることにより、成長の力を精霊に奪われないようにする。

 それによって病を克服することが可能だ。




 その翌日、母親から事務所設立の同意書が届いた。

 オレは早速ギルドにて手続きを行い、自分の事務所を立ち上げた。


 それから二日後の土曜日。

 オレはそのポーションを持って、鈴木家へと向かった。


 ピンクが基調となった部屋の中。

 真白はつらそうに、幼く見えるその身を起こした。

 白く輝く髪が揺れる。


「けほ……ごめんなさい。せっかく、きていただいたのに、こんな姿で……」


「気にする必要はないよ。今日は、君の病気が治る特別な日になるはずさ」


 真白は頷いた。だが、その顔はあまり明るくはない。期待していないのかもしれない。

 それとも、期待するのが怖いのか。


 だが、暗い顔の奥に、その瞳にわずかな輝きが見える。


「わたしは、どうしたらいいですか?」


「君さえよければ、動画を撮りたいと思っている」


 真白が目を少しだけ大きく開いた。


「ぜひ……。ぜひ、お願いしたいです」

 そういって真白は頭を下げた。


「無理はしていないか? 別に、動画をとらなきゃ治さないとかそういうことはないんだからな?」


 そう。オレが作った事務所はみんな幸福なのがいいのだ。

 間違っても無理やり働かせたりしないし、所員が『死にたい』などと思うような事務所にするつもりはない。


「いいえっ! ……けほ、けほっ……!」

 真白は強く否定すると、咳き込んだ。


「わたしは、あなたと――ハルカくんと、配信がしてみたいです」

 真白は咳き込むのを無理やり抑え、そう言い切った。


「……わかった。じゃあ、一緒にやろう。事務所も作ったんだ。入ってくれるかな?」


「……もちろんです」

 真白は期待に輝く瞳でいった。


「事務所の名前は『遥かなるミライ』」


 これは、前回の世界線とは全く違う未来にしたいという願いを込めた名前だ。


 前回起きた未来とは、まったく、遥かに隔たった、別の未来を作るのだ。


「じゃあ真白さんが最初の所員ってことになるね。よろしく」

「……よろしく、お願いします」


 真白と握手をする。

 小さい手だった。

 柔らかく、温かい手。



「じゃあ、録画を開始するよ」

「はいっ……」



 オレたちは軽く打ち合わせをしてから、録画機材を回す。


「こんにちは~! ハルカです! ということで、事務所を作りました! こちらは、初めてのメンバーの真白ちゃんです!」


「はい。真白です。……けほ。よろしく、お願いします」


「真白ちゃんはですね、とっても病弱なんですね。ずっと起き上がることもできずに、ベッドの中です」


「……はい。ずっとベッドの中です。けほ、けほ……」


「ですが! それをなんとかしちゃおう――! と思います! とゆーわけでですね! 今回は『病弱少女をつよつよ少女にしてみた!』という動画です!」


「わぁ~(ぱちぱちぱち)」


「取り出したるはこのポーション。星宿の秘液セレスティアルドロップです!」

 オレは蓋つきの三角フラスコを取り出した。

 中身は輝く半透明の水色の液体だ。


「おぉ~(ぱちぱちぱち)」


「これを飲みます。というわけで、どうぞ」


 オレは真白に手渡す。


「これを、飲むだけで、健康に……?」


 懐疑的な声をあげる真白。


「はい。飲むだけで健康になれ――ません! しかし飲むと体調がよくなります。力体力素早さ器用さ魔力賢さ魔法抵抗精神力などなどが上昇します!」


「お、おぉ~……?」


「そして、健康になった身体でレベルをあげにいきます!」


「なるほど……けほっ」


「では、どうぞ! 飲んでみてください!」


「は、はい。んしょ……」

 そういって真白は三角フラスコの蓋をとって、口元に飲み口を当てた。

 んく、んく……と嚥下していく。

 白い喉が動く。

 途中、少しだけ咳き込んでしまい、口元に液体が垂れる。


「……ほんのり甘くて、スッキリしてて、おいしいですね、これ」


 そう。


 スポドリ系の味だ。


 ポーションを飲み終えると、液体の発光が真白にうつったかのように、青白く薄く光る。

 徐々にその光は消えていった。


「え……?」

 真白がぽかんとした顔になる。


「これ、え? ホントに……?」

 真白がベッドからゆっくりと立ち上がった。

 おそるおそる、といった様子だ。


「こ、これ、すごいです。ハルカくん……。だるさが、なくなりました。喉の痛みが、なくなりました。熱っぽさもないし、身体の痛みもないです……!」


 真白が両手を広げた。

 そして、そのままくるくると回ってみた。


「すごい、すごい……! 動けます……! ああ! こんなに声を出しても、咳がでないです……! ハルカくん! すごいです……!」


 そういって真白は笑みを浮かべた。


 それは満開の花のような笑みだった。


 何かを諦めたような儚げな笑みではなく。

 今にも消えてしまいそうな笑みでもなく。

 嬉しさと、楽しさと、これからへの期待、そういったものが混ざった、明るい笑みだった。



――よかったな。


「はい! というわけでですね! まだ健康になったわけではないです! この後は真白ちゃんのレベルを上げていこうと思います! 期待して待っててね!」



◆リザルト

 

 ◇事務所『遥かなるミライ』設立

  代表

   風見遥

  所員

   No.001 鈴木真白(特記事項:精霊の加護)

   No.002 鈴木鉄浄(特記事項:鍛冶スキルC→B+)


────────────────────────

あとがき


ここまで読んでくださってありがとうございます!

投稿遅くなってすみません……! なんとか、本日中に投稿できました!

皆さんの応援のおかげです!


ファンタジーっぽい! とか、真白よかったね! と思ったら☆と登録をお願いします!


次は真白が完治して、成長できるようになっていきます!


それとですね……!

初めて、ギフトなるものをいただきました!

本当に嬉しいです!! わざわざ送ろうと思っていただいた気持ちが、とても嬉しく思います!!!

執筆するためのモンスターエナジーかレッドブルかZONEを買わせていただこうと思います!!!!


レビュー、おすすめレビュー、応援、応援コメントなどもとても嬉しいです!!!!


これからも頑張りますのでもちぱん太郎をよろしくお願いいたします!!!!!

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