第19話 悪徳探索者をボコってみたwww

「さて、どうします? やります?」

 指でくいっと悪徳探索者たちを呼んでみる。


 オレはブラッドシャドウの斧を振り回した。

 禍々しいその斧は月明かりを妖しく反射する。


 その圧力で、チンピラ男たちは後ずさる。

「追い詰め過ぎると、この娘に何するかわかんねえぞ!?」

 と、チンピラ男は真白のほうへ一歩を踏み出す。



「まぁ、待ちなさいチンピラくん。その子がいたら国外逃亡できるかもですよ?」

 口語と配信用の口調が入り混じってしまって変な言葉遣いになってしまった。


 オレの発言にチンピラたちは息をのむ。

「へへ……。そうだな。ありがとよ。まだ慌てる時間じゃねえや……。てめえを殺して、このガキで取引して海外逃亡か……。もうそれしか、ねぇよな。ですよね、アニキ……」

「……そうだなヤス」


――はい。これでとりあえず真白ちゃん――真白さん? の安全を確保っと。


「じゃあオレと勝負しましょう」

 オレは斧を振り回しながら距離を詰める。


 一歩一歩、近づいていく。

 男たちは青くなった顔を見合わせる。


 するとチンピラ男が叫んだ。


「その武器のおかげだろ!? その斧が強すぎるから、調子に乗っていられるんだろ!? 武器のおかげだけで勝って恥ずかしくねえのかよ!?」


 ブラッドシャドウの斧を使わせないように必死になっている。


「うーん。武器のおかげだったら恥ずかしいかもですね」


『たしかにその斧、ブラッドシャドウゴブリンの奴だよな。そりゃ、強くて当たり前かも……』

 そんなコメントも流れ出す。

 大半は、武器のおかげでないようだと言っているが。

 それでも武器のおかげで調子に乗っているという人間が複数現れ、コメント欄が荒れ始める。


「そうだろ!? 今配信を見ているやつらもそう思うよな! こいつは武器に頼った三流男だろ!」

 チンピラ男が両手を広げて、アピールをはじめる。


 こいつ、視聴者巻き込みに来やがった。

 わりと機転が利くのかもしれないな。


「武器の力だけじゃねえってお前はいうんだろ? クソガキ」


「もちろん」


「じゃあオレに武器を渡せるよなぁ……?」


「えー……」

 ちょっと渋ってみる。


「本当に強いってんなら、その斧よこせよ」


「でも、危ないですしぃ……」

 オレは渡すことを嫌がってる風にしてみた。


『やめなよ、ハルカくん。そんな口車に乗っちゃだめ……!』

『そうだ。相手は悪徳探索者だ。さっさとやっつけちゃえ!』

『ハルカくんが強いのはわかってるけど、その武器があれば絶対負けないよ!!』


 視聴者の声。

――よし。

 オレは彼らの声で行動を決めた。


「へ、へへへ。やっぱりそうだ。武器がなけりゃ、何にもできないんだよなぁ!? この雑魚! ざぁーーーこ!」


――斧を渡すことに決めた。

 理由はそのほうが盛り上がりそうだから。


「わかりました。じゃあ、渡します」

 オレはぐるぐる振り回してた斧を、ぽーんと放り投げた。


 それは高く舞い上がり、月を隠し、地に落ちる。

 チンピラ男のすぐ正面に落下していく。


 だんっ!


「ひぃ!」


 チンピラ男は尻餅をついた。髪の毛の一部がバッサリと切り落とされている。


 しかし、すぐにニヤけ面になる。


「へ、へへ……。武器さえなければお前なんて……」

 そういって斧に手をかけた。


 オレの行動に視聴者たちはお怒りのようだった。


『ハルカくんなんでそんな危ないことするの!?』

『相手のほうが人数多いし、武器までとられたらハルカでも……』

『ざあああまああああwww クソガキハルカご臨終乙であります~~~wwww さっさとしえにょwwww』

『はるきゅん危ないことしちゃだめ……!!』


――心配してもらって悪いが、問題はないんだよな。


 チンピラ男が斧に手をかけ――

「ふんっ……ぬっ……ぐ……」


 アニキと呼ばれていた男が戸惑いの声をかける。

「お、おい。ヤス……何してんだ……?」


「も、もてない……重すぎますよアニキィ……」

「そんなバカなことはねえだろ……」

 そういってアニキと呼ばれていた男が持ちあげる。――だが、持ちあがるだけだ。

 持ち上げるだけで、荒い息をついている。


「お。いいですねアニキさん。強くなりますよ。それ半年くらい続けてたら筋肉育って強くなるんじゃないですかね?」

 いい筋トレになると思うよ。


「どんなトリックだ……! どうやってこれで戦いやがった!?」

 アニキが困惑の声をあげた。


「さぁ。どうしてですかね」

 答えは単純だった。


 単に、重さを利用して持っていただけだ。

 本来オレのレベルで、力では持つことはできない斧だ。ゲーム的に言えば必要STRが200なのに、STR100で使用していたようなものだ。

 しかし重さを利用すれば振ることはできる。

 そこから遠心力を利用して持ちあげていた。


 ただそれだけのことだ。


 だからずっとオレは斧をぶんぶん振り回していたのだ。


『相手が斧持てないの草wwww貧弱で大草原wwww』

『草とwを同時に使うな無教養が。ママに習わなかったの?』

『そんなこと教えるママ嫌すぎ草』


 どうでもいいコメントを頭に流しながら相手を見る。


 アニキと呼ばれた男が言う。

「だが、あいつにもう武器はない……! みんなでやっちまえ……!」

「わかりやしたアニキィ!」「へい!」「おう!」「任せておくんなせえ!」


 彼らはオレに向かって、迫ってくる。


 オレは迫りくる男たちに立ち向かう。


 一番初めの男に手加減して顔面にワンパン。鼻血を吹いて倒れる。


 次の男の頭を掴んで地面にたたきつけ――。


 腰が引けた三番目の男に雑過ぎる蹴りをくれてやる。


 三人倒したところで、残ったのはチンピラ男とアニキだ。


 チンピラ男とアニキは後ろに下がる。

 そしてアニキが走り出す。

 後方に向かって・・・・・・・


 そこにいるのは、真白だ。


 真白がつかまる。


 ガチガチと歯の根が合わない様子が見て取れる。

 オレに助けを求めるような視線を向け、震えている。


――ごめんな。怖いよな。でも絶対助けるから許してくれよ。


「おい! 小僧! それ以上やったらこのメスガキを殺すぞ!」

「だそうだぞ! クソガキぃ……。よくもやってくれたなァ!?」


 そういってチンピラ男が近寄ってくる。それをアニキと呼ばれた男が止める。


「やめろ、ヤス。まだ近づくんじゃねえ……」

「へぇ。アニキ。どうしたんスか? このままヤっちまえばいいじゃないスか」


 アニキと呼ばれた男はオレに向かって、何かを投げてきた。


 それは――指輪だった。


「そいつをつけろ。小僧。それに抵抗するんじゃねえぞ……? 抵抗したら、このメスガキを殺すからな……?」


――どうせ殺せないくせに。

 殺した瞬間オレに殺されるから、絶対その手段はとれないだろう。

 よほど自暴自棄にならない限り、な。


 彼らの様子と、魔素の波動から、彼らに奥の手があることはオレにはわかっていた。

 それを引き出すために、オレは五人全員を倒さなかったのだ。


 動画的に、な。


 オレは彼らの投げてきた指輪を拾う。古い金属の指輪だ。不思議な力を感じる。


 チンピラ男が言う。

「はは、ははははは! 忘れてた! それ奥の手用に預かったやつですよね、アニキィ!」


 彼はオレに対して勝ち誇りながら、指をさして笑う。

「もうお前は終わりだよクソガキ! それは呪われた指輪だ! つけたらレベル1くらいに弱くなっちまう! 抵抗したら簡単にレジストできるから抵抗するんじゃねえぞぉ!! 抵抗したら壊れちまうからなァ!?」

 ちょっとでも抵抗したら、すぐ使えなくなるなんて――なんて使いづらそうなアイテムなんだ。


『やbっば! そんなアイテムあるの!?』

『ハルカくん気をつけて……!』


「ヤスてめえ馬鹿野郎!!! それ言ったらつけるわけねえだろ!!!」

 アニキと呼ばれた男は、焦った怒声を響かせる。


 アニキと呼ばれた男につかまった真白が、叫ぶ。


「だめ! はるか、くん! そんなの、つけちゃ、げほっ……!」

 げほ、げほ、と苦しそうな咳をしている。

「つけちゃ、だめ……! げほっ……! わたしは、どうなってもいいから……!」

 血の入り混じった咳をしながら、真白が叫んだ。



「大丈夫だよ。真白ちゃん。オレはさ、今、すげえ大事なことの最中なんだ」



「つまり『悪徳探索者からさらわれた美少女を助け出してみた!w』の最中なんだ。だから――」



「げほ、げほ……はるか、くん……」




「だから、君は黙ってオレに助けられなよ。安心していいよ。約束する。オレは今日、君にたった一つの傷もつけさせない」




『あああああ! やめろハルカ! レベル1が探索者に勝てるわけねえ!』

『いうて抵抗するだろ? するよな?』

『そりゃ……するだろ? だってこの世はレベル次第だろ。強くなるためには魔素を吸収して、レベルをあげる。一般人が探索者に勝てる訳がねえんだ……』


「この指輪をはめたら、その子を解放しろ。……いいな? その条件でなら、この指輪をつけてやる。――それで、二人まとめてオレが倒してやるよ」


『ハルカやめろって。無理だろ』

『その子はもうあきらめたほうがいい。二人死ぬより、犠牲が一人だけのほうがマシだろ』


「いいだろう。小僧。お前がその指輪をはめたら正々堂々戦ってやるよ。――二対一でなぁ」

 恥ずかしげもなくアニキは言った。

「さすがアニキィ!」

「いいかヤス。重要なのはいかに相手が抵抗できなくするかだ」

「かっけェぜェ!」


「……わかった。この指輪を、はめてやるよ……」

「だ、め、ぇ……! げほっ……」


『やめろ!!!』

『やめてくれ! なんでもするから!!』

『ん? 今何でもするって……』

『オレの玉でよけりゃくれてやる! だからハルカを助けてくれ……!』


 何かひどすぎるコメントが流れてきたがスルー。


 そしてオレは、能力封じの指輪を左手の中指に、ゆっくりと――


『やめろおおおおおおおおお』

『ハルカぁぁぁぁあ!!』


「だ、め、はる……か……く……ん……」


――はめた。




 急激に、身体から力が抜けた。




 指輪がオレの力を吸い取り、封じていく。

 だけどオレは一切抵抗をしない。


――やっぱり、この指輪、ホンモノか。


 オレは間違いなく、もうすぐでレベル1の能力値になるだろう。


 アニキと呼ばれた男が、大きな声で笑った。


「はめた! 指輪はめやがった! あの小僧本物の馬鹿だ! くだらねえヒーロー気取りか!? そういうことしてるやつから死ぬんだよ。なあヤス」


「アニキの言うとおりッス! 他人のために、自分を犠牲にする? そんなの先の事考えられねえバカしかしねえよ!! ぎゃっはは!」


「指輪が壊れねえってことは、抵抗してねえってことだ。あいつ、もうレベル1だぞヤス」


「アニキまじで頭いっスねえ! 三国志とかのアレみたいっス! 頭になんかつけてる緑の奴!」

「はははは。オレは関羽みたいってことか。悪くないな……」

「よっ! 名軍師!」

 二人は勝ち誇っている。



『ハルカのことだから、指輪無効化したんだよね!? そうだよね!? そういう手段知ってるよね!?』

『そ、そうだよな……。そりゃ、こんな無謀なことするわけがないよな……』

『え……諸葛亮のことじゃないの……?』


「ぎゃはは。クソガキぃ。お前言ってたよな? 舐めプしていいのは圧倒的格上だけだってさァ! ねえ、今どんな気持ち!? どんな気持ちなの!? 舐めプするなっていって舐めプした結果、ピンチじゃん! しかも人質まで! 巻き込んで! おもしれええええ!!」

 チンピラ男はめちゃくちゃイキっていた。


 まぁ、そりゃそうだ。


「どうしましょう。皆さん……。本当にレベル1並になっちゃいました……」


 レベル1は一般人と同じってことだから。


『嘘だろ!? 嘘っていってくれよハルカ!』

『馬鹿すぎじゃんwww そんな指輪ないって思ったの? 沙月に手を出したオスガキに天罰ゥ~wwwww』

『↑おまえに天罰下れ』

『ハルカ……!』

『近くでいけそうなやつ、今すぐここいけ! どこだよここ!?』


「約束、守りましたよ……。彼女を、離して、ください……」

 オレは弱々しい声でそう言った。


 アニキと呼ばれた男は嗜虐的な笑みを浮かべて、オレに近づいてくる。

「いいぜぇ……。小僧……」

 チンピラ男もそれに合わせて、別方向から近づいてきた。

「殺すだけじゃ気がすまねえスよアニキィ……。爪とかはいだりしてみません? 爪の間になんか刺したらめっちゃ痛いって聞いたことあるスよアニキィ。やりましょうよ」


「こ、こんな弱くなるなんて……本当に弱くなるなんて……た、助けて……」


 あわわって感じの声でオレが言う。

 すると彼らは濁った笑みを深くした。

 とても――とても愉しそうな様子だった。


「……そ、そうだ。こ、これがあったんだ……!」

 オレは震える声で言った。


 オレはアニキと呼ばれた男が離れたスキに、真白へ向かってアイテムを投げた。

 白く薄い膜が、真白を覆う。


 簡易結界だ。


 効果時間は三十分ほど。


 その間は、真白を守ってくれるだろう。


「三十分くらい、その結界は、君を守ってくれる。だから、大丈夫だよ……」

 オレが弱々しく笑う。


 真白は涙を流していた。

「やだ、やだよぉ……げほ……。はる、か、く……げほっ……! げほっ……!」


 真白は結界の中で、口からは血を――瞳からは涙を流していた。


「ぎゃははは。三十分!? そんなの待てばいいだけじゃん!」

「ああ――。無駄だよ小僧。お前が死ぬからな。今更謝ってももう遅いぞ」

「っスねェ。アニキ。結界なんてあんなら自分に使えばよかったのに。なぁ、ヒーロー気取りくん?」


 圧倒的ピンチ。

 絶体絶命。

 どうしようもない。

 トップクラスの探索者すら諦めるような状況。

 赤ちゃんと重量級ボクシングチャンプが戦うようなもの。

 ありとあらゆる逆境――それらをすべて重ねても、まだ足りない。


 それくらいの状況。





 圧倒的死地。







――オレじゃなければ・・・・・・・・






 オレは弱々しく振る舞う演技をやめ、指をパッチンとならしてみた。


「さて、皆さん。ここからは切り抜いて別の動画にしますよ。いいですか?」





『は?』

『ハルカおかしくなったか……?』

『絶望のあまり、壊れちゃった……。あは……僕と同じだね。僕も何も感じないんだ……。感情というものを、知らないんだ』




「クソガキが死ぬスナッフフィルムだるォ?」

 チンピラは巻き舌でそう言った。




「はい残念。チンピラ風のあなたはIQ3くらいですね。ちなみにオレは5000です」


 パン、と両手を合わせる。




「正解はーーーー?」




『マジでハルカおかしくなった』

『もう無理だ……これ以上見れない。オレはリタイア』

『はるきゅん、死んじゃやだぁ……』







「レベル1の一般人でもできる! 悪徳探索者の倒し方! ですっ!」






『………………は?』




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