第17話 《SIDE:鈴木真白》
――はやく死にたいと思っていました。
鈴木真白は十歳のころに発病した。
それから、しばらくの時がたってからはずっと消えたいと思って生きてきた。
表を歩くことのできない貧弱な体になった。
髪の毛は薄気味の悪い白髪になった。
目の色すら変わってしまった。
成長することすらなくなった。
身体は日増しに病弱になり、表を出歩くことすら苦痛だった。
数年もすれば家の中ですら歩くことがつらくなった。
お父さんとお母さんは喧嘩もせず、真白のために頑張ってくれている。
病気を治す方法を駆けずり回って探してくれている。
真白が少しでも快適に過ごせるように心を砕いてくれている。
でも、だんだん疲れてきているように見えた。
自分のせいでお父さんとお母さんが苦しんでいるように思えた。
二人をもう苦しめないために、はやく死にたかった。
二人は真白が退屈しないようにと、スマホやパソコンを買ってくれた。
真白はとくに何も見る気はしなかった。
ただ真白のために二人が買ってくれたから、半ば義務感で、Youtudeをつけっぱなしにしていた。
そんなある日、たまたま流れてきたライブ配信があった。
ダンジョン探索配信だ。
その配信者は真白よりも少し年下の少年だった。
整った顔には、幼さと男らしさが奇妙に同居していた。
彼はとても楽しそうにダンジョン探索をしていた。
裏技のような方法で、ゴブリンを倒している。
これならば――わたしでも、できるんじゃないかと真白には思えた。
そう思うと配信はすごく楽しくなった。
まだ若い少年が楽しそうにしている姿を見て――
――こんな弟がいたら、楽しいかもしれないな――
そう思った。
馬鹿らしく聞こえるかもしれないが、次第に真白には、その配信の主――ハルカが弟のように思えてしまった。
だから、ハルカがイレギュラー出現であるユニーク種のブラッドシャドウゴブリンを見に行くといったときは必死になって止めた。
何度も、やめたほうがいいよ、とコメントをした。
だけどハルカは止まらない。
それどころか、戦おうとしている。
そのことに気づいたとき真白は悲鳴をあげた。
大きな声を出したせいか、たくさんの咳が出た。
だけど、ハルカは予想に反して勝利した。
とても強く格好よく、それでいてかわいい男の子だった。
――わたしも、がんばろう。
そう思えた。
真白は風見遥に勇気をもらったのだった。
それからは苦しくても、なんとか病に抗った。
病気は治せなくても、死んだりしないぞ、と心に決めた。
だけど、借金取りが家に来た。
詳しくはわからないけど、うちには借金があるらしい。
――もしかしたら、わたしの治療費かもしれない。
そう思うと涙が出た。
借金取りの人たちは、借金のカタにわたしを連れて行くといった。
――何の役にも立たないわたしに、できることがあるなら。
そう思った。
けど、お父さんはすごい剣幕で断った。
それから何度も借金取りがきた。
ある日、真白の部屋に控えめなノックが響いた。
足音は父の足音で、もう一人分足音があった。
――わたしは、とうとうここから出ていくんだな。
と思った。
けれど、違った。
ずっと画面越しに見ていた男の子がいた。
――ハルきゅん!?
真白の弱い心臓は高鳴り破裂しそうだった。
真白は努めて平静にふるまった。
はじめましての挨拶も、上手くできたはずだ。
――顔を見ただけでハルきゅんってわかったら、オタクだと思われちゃう。
その一心で何とか隠した。
ハルきゅんって言いそうになった時はめちゃくちゃ焦った。
が、たぶんバレてないからセーフだった。
――よし、探索者の動画をたくさんみてるから、ハルきゅんを知ってるってことにしましょう。
嘘だった。
実は他のやつは全然見てない。
――あとで見て知識を仕入れなきゃですね。
と思ってるとハルきゅんが飴玉をくれた。
――もしかして子ども扱いされてます!?
わたしのほうがお姉さんなのに、と思うとちょっと悔しくなった。それから弟が背伸びしているって脳内変換をするとちょっとほほえましくなった。
そのハルきゅんから、事務所に誘われた!
――嬉しい。嬉しい。嬉しい。……ほんっとうに嬉しい!
真白は病気は絶対治らないとあきらめていた。
だけど、絶対治したい――そう思った。
――ハルカきゅんと一緒に配信者、できる? したい。したいな。楽しみだな。嬉しいな。幸せだな。
どうしようもなく嬉しくて、泣いてしまった。
――がんばろう。
――できるだけ長く生きるだけじゃ、足りません。絶対に病気を治すんです。
そう、思っていたのに。
その日の夜、借金取りが真白の家を襲った。
玄関を壊し、真白の部屋のドアを壊し、無理やり腕をつかんで。
止めようとしたお父さんを殴り飛ばして。
もう借金を返したはずだというお父さんは、何度も殴られていた。
借金、返してるのに。なんで?
その疑問の答えはどこからも返ってこない。
――わたしは、さらわれた。
そっか。
――わたしは、きっと、こういう運命で生まれたんだ。
わたしの余命はもうあんまりないって言われてたのに。
きっともうすぐ死んじゃうんだ。
――ハルきゅんと配信者――やりたかったな。
それと。
――死んだら、もう一度お父さんとお母さんの子供にうまれたいな。
――もう一回生まれて、そのときこそ、ハルきゅんと配信者、できたらいいな。
わたしは幸せな来世を夢想した。
――幻聴が聞こえた気がした。
――こんばんはー! ハルカです! 今日はですね! この前のチンピラ探索者にさらわれた少女を助けに来ました!
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