第9話 ハルカちゃんねる学校バレする

 過去に戻って四日目。

 この日は休みだったこともあって、撮影しやすい動画素材をとりためていた。

 夜になって家へ帰ったら即動画編集だ。

 それだけで一日がつぶれてしまった。


 そして翌日、過去に戻って五日目の朝がきた。


 オレはすでにスライムダンジョンとゴブリンダンジョンのお得情報を配信した。

 さらに、ゴブリンダンジョンでユニークモンスターから、小早川沙月という有名配信者を救った配信。

 それからハイライトを切り抜き、投稿用の短めの動画を複数作成。


 初日が夜だったことを考えれば、実質三日でこれだけのスケジュールをこなしたんだから、かなり大したものだろう。


 毎日投稿している上に、すでにストックまでできているのだ。


「ふぁ……ふ……」


 それにしてもめっちゃ眠い。

 昨日は小早川沙月を救った動画を編集していたのだ。

 他にも、【初心者におすすめ! 本当は素晴らしいダンジョンライセンス・プレミアムプラン!?】などのお得情報動画も作っていたからだ。


 昨日は二時間しか眠れなかった。

 それでもダンジョンで魔素を吸収し、身体能力が強化されているからこそ、なんとか耐えられている。


「……このままじゃ、まずいなあ……」

 オレは昨日コンビニで買ったチョコチップパンをかじりながら、ひとりごちた。


 そこでスマホのアラームがなった。


「そういや、学校とかあるんだったな……」

 オレは面倒に思いつつも、制服に着替えると高校へと向かった。


 校門につくと、周りからちらちらと視線を感じるような気がした。

 心なしかざわついている。

 別に敵意や殺気といった様子ではないし、今まで感じたことがない類の視線だ。


「…………なんなんだいったい」


 オレがクラスに入ると、今まで感じていた視線と、ざわめきが最高潮に達した。


 お調子者のクラスメイトがおそるおそるオレに訪ねてきた。

 オレの記憶だとあまり話したことがない。


「な、なあ……。風見。おまえ、Youtudeとかやってる……?」

「あん?」

 思ってもみない質問におかしな声が出た。


「え。おまえじゃないの……?」


――ああ。そっか、そうだよなぁ。

 オレは一人で納得して笑いそうになる。


 そりゃ、そうだ。

 Youtudeである程度視聴者が増えたら、オレがYoutuderの風見遥だなんて、そりゃぁすぐわかるか。


 これはブラック配信事務所の奴隷だった後遺症だった。

 オレは様々な人間のゴーストとして、配信活動を行った。とある能力で、見た目や体格、声などをそっくりさんにしていたから、バレようもなかった。


 だからオレがどれだけ頑張って登録者を増やしても、きゃあきゃあ言われるのはオレのゴースト元だった。

 オレ自体が騒がれることなんて、一度としてなかったのだ。


 こういうとき、なぜか恥ずかしがって隠すやつがいる。

 だがYoutuderとして成功したいなら、隠す意味なんか一つもない。

 顔を出してないならまだしも、普通に顔だしちゃってるしな。


「いや、オレだよ。ちょっと前からダンジョン配信者やってんだ」


「うおおおおお! やっぱり! マジ!? すげえじゃん!!」

 興奮した面持ちでお調子者がいう。


 それを皮切りに、オレの周りにクラスメイトが集まってきた。

「すごくない!? あの沙月ちゃん助けた動画見たよ! ってかオレ、リアタイで見てた! 助けてくれてありがとうな!!」

「風見くん、素敵だったよ~!」


 いろいろ質問されながら、きゃあきゃあ言われる。

 こんな状況じゃ他のことは何もできないし、身動きも取れない。

 問われた質問にお返事するしかない。


――だが、気持ちいい――。

 いったい、何なんだこの感覚は。

 胸の奥がどきどき熱くなるし、顔もにんまりしてしまう。

 いや、だめだ。だらしない顔をするんじゃないオレ!


「ハルカくん、すごく男らしいね」

「マジでかっけぇわ」

「……ちょっとどきどきしちゃった」

「アニメとかマンガの主人公みたいだったよ~!」

「ちっ……。運よくバズっただけだろ……」

「運だけでできるわけないじゃん! ちゃんと配信みたの?!」


 ちやほや。


 ちやほや。


 わいわい。


 わいわい。


 なんだ、この感情は……?


 ……気持ちいい。


「ははは。ありがとう、ありがとう。みんな見てくれたんだ。嬉しいよ。チャンネル登録よろしくね?」


「もちろん! もうしてるよー!」

 女子がいう。


「もう登録者三万人だもんね! すごいよ……!」


――え!? そんなに!?

 オレはちょっと驚いてしまった。

 小早川沙月を助けてから、あえて登録者の確認をしてなかったのだ。

 登録者が増えることは理解していたが、思ったより増えていなかったらショックを受ける。さらに想定より増えていて、慢心してしまってもよくない。

 今は登録者にかかわらず、走り続けるのがいいと判断しての事だった。


――だが、三万人か。想定よりは上だった。だが、上過ぎるほどでもない。もっと頑張らなきゃな。


 そう思ってると、後ろから勢いよく腕を肩に回された。

「ハルカ! 水くせえよ! ダンジョン配信者するなら教えてくれよな!」


「っ……」

 それは、前回の世界線で縁を切った友人だったからだ。


 オレの反応に面食らったように、友人は戸惑っていた。

「な、なんだよ。大丈夫か……?」


「あ、ああ。大丈夫だよ。アキト」

「そぉか……? まあ、何にせよ、めでたい! 俺も嬉しいよ!」

 そんな風に喜んでくれるアキトに、オレは申し訳ない気持ちだった。


 こいつには、前回の世界線で不義理をしちまった。

 こいつだけはずっと味方だったのに。


 だから。


 近い将来不幸になってしまうこいつは、絶対に助けよう。


 過去に戻ったときから、オレはそう心に決めていた。


 そのためには、もっと力をつけておかないとな。

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