第8話 ドロップアイテムの査定と、未来知識でアイテムを買いあさろう!
「すみません。オークション管理部はどこですか?」
オレはこの近くの一番大きなギルド支部に来ていた。
このギルド支部はダンジョンごとにあるダンジョン管理支部とは全然違う
ダンジョン管理支部ではドロップアイテムを一定の金額で買い取ったり、ダンジョンの入出場受付などの業務をしている。
各都道府県にいくつかある大きい支部は、それ以外の様々な業務を行っている。
その一つがオークションである。
アイテムの査定・出品・落札である。
ギルド所属の専門鑑定士がアイテムの効果や真贋を見分け、保証書を発行する。
それから現地とネットの両方から入札可能なオークションをするのだ。
「ありがとうございます」
職員に場所を教えてもらったオレはお礼を言って、オークションホールへと向かった。
オレの足取りは軽かった。
今日は前々から考えていた特別な日だ。
オレが躍進するのに、絶対に必須なことを行うのだ。
軽い興奮と、わくわく感が胸を占めていた。
オークションホールへと到着する。
そこはギルドの他の場所より、煌びやかで格式を感じさせた。
受付の一つ、熟練を思わせる顔つきの中年男性がいる場所に足を運ぶ。
「すみません。鑑定とオークションへの出品をお願いしたいのですが」
「承知しました。こちらで探索者照合をお願いします」
オレは中年男性が示した、水晶に似た球を手で握る。
これは魔力周波数と指紋で、個人認証を行うものだ。
ギルドに登録した際にオレのデータは登録されている。
「風見様ですね。今日はどのような品を?」
「申し訳ないんだけど、個室で頼めます?」
オレがいうと中年職員は目を丸くした。
登録二日目のオレが、個室の利用を希望したことが予想外だったのかもしれない。
「承知いたしました。こちらへどうぞ」
オレは中年職員の案内に従い、奥にある個室の一つに入っていく。
通された部屋は狭くもなく広くもなく、ちょうどいい大きさに感じる。
ただし扉のつくりはしっかりしており、防音は利いていそうだった。
「実は昨日、ブラッドシャドウゴブリンを倒しましてね――」
すると中年男性は少し興奮した面持ちで口を開いた。
「ああ。そうですよね! ハルカちゃんねるの、ハルカさんですよね! もしかしたらそうかな、と思ったのですが、あまり人前で聞くことでもなかったので……」
「えっ。オレのチャンネルみてくれてるんですか?」
「ええ。といっても昨日からですが、アーカイブと過去動画も全部見ましたよ。いや、すべてが驚きでした!」
いかめしい顔つきの中年男性は嬉しそうにほころぶ。
つい、にやけてしまう。
まさか自分の動画の視聴者と会えるなんて。
はじめてのことだった。
「知識も豊富、戦闘の腕前もとてつもない。こんな新人は前代未聞ですよ。登録二日目で20階層より深層のユニークを倒す。いやはや……もう、常識の埒外です」
前回の世界線で褒められたことなどなかったので、照れてしまう。
「……はは。ありがとうございます」
「いや、すみません。年甲斐もなく興奮してしまいました。応援しています。お話をさえぎってしまって、申し訳ない」
中年男性が頭を下げる。
そんなに楽しく思ってくれたのはオレも嬉しかった。
「そういってもらえて、オレもありがたいです。今日はブラッドシャドウゴブリンの素材をオークションにかけたいと思いましてね」
「ああ、本当ですか。それはありがたい」
と言ってから中年男性は少し難しい顔をした。
「ですがハルカさん。ギルド職員の立場として、こんなことをいうのはよくないのですが……」
と前置きをして、職員は言った。
「ギルド運営のオークションより、国内や外国の大企業や財閥のオークションを通したほうが、高額になる可能性が高いですよ」
そのほうが海外の探索者にも注目される可能性が高いので、と続ける。
それはその通りだった。
国内でも国外でも中堅以上の探索者は、企業・財閥などと縁があることが多い。特に高位探索者ともなればなおさらだ。
すると彼らは手数料を縁のある企業や財閥に落としたがるし、手数料の割引もある。
つまりランクの高いアイテムはギルドオークションより、企業財閥系のオークションに流れる可能性が高い。ということは、たくさんの人がそちらのほうに注目している。
注文している人が多ければ値段が上がる。
そういった理屈だ。
それをわざわざ教えてくれるなんて、この人は本当にオレのファンなんだろうなぁ。
「ありがたい……」
「どうしました? ハルカさん」
「ああ、いえ。大丈夫です。知っています。そのうえでギルドオークションに出したいと考えています」
「そうなのですか?」
「企業財閥系のオークションは登録してから出品されるまで少し時間があきますからね。早めに現金化したいのです」
「そういうことでしたら、ぜひ」
中年男性は相好を崩した。
そして出品するアイテムを大きな机の上に出していく。
すると、中年職員は目を見開いていく。
「お、おお……」
通常ドロップからは、ブラッドシャドウゴブリンの爪、ブラッドシャドウの鱗、血影の欠片、黒鉄の破片。
レアドロップからは、恐怖のメダリオンだ。
残りの装備は使い道がある。
恐怖のメダリオンは、まだ今回の世界では初ドロップである(他の装備類も初ドロップだが)。
そういったこともあって、値段はどこまであがるかはわからない。前回の世界線での相場は最終的に900万ほどだった記憶がある。
ブラッドシャドウの斧は、しばらくはメインウェポンの一つにする予定だ。
そして指輪と鎧に関してだ。
指輪は攻撃力、防御力、回復能力を一定程度向上させる――という効果のため非常に有用だ。むしろつけない意味がないほどだ。
また鎧も強力だ。しかし、重装甲系の鎧のため装備すると動きの制限が著しい。オレの戦い方ならばあまり使う機会はないだろう。
だからといって売る選択肢はなかった。
これらは超レアドロップのため適正階層で倒してもドロップ率が1%以下のはずだった。
ブラッドシャドウゴブリン自体の出現率がさほど高くないことと相まって、手に入る機会はほとんどないだろう。
この世界だと、まだレアドロップと超レアドロップの違いも見分けられないはずだしな。
今販売すれば恐怖のメダリオンと同じような価格になってしまうだろう。
であれば倉庫行きが妥当だろう。
「これは……! この、メダルは、装備品ですね!」
中年職員は少し息を荒くしながらいう。
「ええ」
「ブラッドシャドウゴブリンは、いまだに装備品を落としたことがないんですよ!」
「そうなんですね」
知ってます。
だから、超レアドロップは出さないことに決めている。
アイテムを並べ終えると中年職員が興奮を隠せない様子で口を開いた。
「で、では早速――このメダルを鑑定してもよろしいでしょうか? いや、まずは素材から……? メダルは最後のお楽しみ……?」
思った以上の興奮具合にオレは苦笑した。
「どちらでも」
ギルド職員はアイテムに触り、視線をアイテムに集中させていた。
目の周りに魔力が集まっているのを感じた。その魔力量から、高レベルの鑑定スキルの使い手だと推測できる。
「……素材四つは本物ですね。お預かりいたします。それでこちらのメダルは――鑑定する前から、かなりの力を感じます」
ごくり、と中年職員が唾を飲む音がした。
「初出のアイテムを鑑定させてもらえるのは、光栄ですなぁ……」
言って中年職員はしばし無言になった。
「呪い――などはありません。名称は、恐怖のメダリオン――。恐怖耐性をつける――。精神力の微向上――」
ふう、と中年職員が息をついた。
「いや、素晴らしいアイテムですな! これはいったいいくらになることか……」
「では、お願いします。それと一つお願いがあるのですが」
「お願いですか?」
「売却価格すべてを使って、スライムゼリーと幻影の鱗粉を購入してくれませんか」
「……スライムゼリーと、幻影の鱗粉ですか?」
と中年職員は怪訝な顔をした。
理解できない、と言いたげですらあった。
だが、オレは迷わず頷いた。
「ええ」
「それらは使い道があまりありませんが、本当によろしいのですか?」
「間違いなくその二つです」
中年職員は不思議そうにしていたが、オレの堂々とした態度にそれ以上疑問を呈することはなかった。
オレは知っている。
現状、スライムゼリーも幻影の鱗粉も、砕いて魔力を抽出することにしか使われていない。
使えないアイテムは魔力を抽出する資源になる。魔力は様々な分野でエネルギーとして使用されるためだ。しかし、抽出効率はあまり高くない。
だから500円という捨て値で買い取りをされている。
あとは一部の趣味人が食用としてスライムゼリーを使うくらいか。
しかし、未来の状況は違っていた。
特殊な方法で乾燥させたスライムゼリーは多量の水分を内部に蓄える性質を持つ。
だから、乾燥スライムゼリーにポーションを含ませることで、ポーションジェルになるのだ。
現在は傷口に直接ポーションを振りかけているが、それだと床にこぼれてロスが多い。
ポーションジェルを傷口に張り付けることで、効率よく回復できる。
それは高ランクポーションになるほど、有用だった。
そして幻影の鱗粉は、バタフライ系のモンスターのレアドロップだ。今現在使い道はない。
だが未来では、複数の重要アイテムなどの素材になっている。
たとえば特殊な呪いを解く治療薬。
たとえば幻惑系の効果を持つ武器防具の材料。
たとえば高度な隠密魔法を使うための触媒。
他にも希少植物育成用の肥料。
どちらも大幅な値上がりが見込めるものだった。
オレはオークション部の職員と良い取引ができた。
そのことに満足しながら、ギルドの支部から出て行った。
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