38 打ち明け話
前期のテスト期間が終わり、夏休みになった。海も山も花火も、あたしの心を動かさなかった。白夜もそういう付き合いを望んでいなかったし、あたしたちは三宮の店で飲み歩いた。居酒屋で適当に腹ごしらえをした後、神仙寺さんの店へ白夜を連れて行った。
「蘭ちゃん、いらっしゃい。そっちの男の子は?」
「白夜です。大学での彼氏です」
「大学での、って何やねん。まあ座りや」
あたしも白夜もビールを注文した。中島さんが居た。
「おう、蘭ちゃん。久しぶり」
「こんばんは。ほんまに久しぶりですねぇ」
「うちの子、歩くようになったんや。目ぇ離されへんわ」
中島さんは、子供の動画を見せてきた。よちよちと拙い歩き方をする幼児には、あたしも見覚えがあった。大樹は元気にしているだろうか。今頃勉強漬けなのだろうか。園子さんなら、上手くやっているだろう。
「で、そっちの子、彼氏なん?」
「はい、一応」
「健介とは全然タイプちゃうなぁ。っていうか、健介とは続いとんか?」
「続いてますよ。ちょいちょい、誘いきます」
「えっ、彼氏くんはそれでええんか?」
白夜は頭をかいて言った。
「蘭はそういう女の子なんで。ええんです」
「最近の若者はようわからんわ」
神仙寺さんと中島さんが、ゴルフの話を始めた。神仙寺さんはスイングをした。グリップがどうのこうのと、わからない単語を出し始めた。あたしは白夜に言った。
「この店、ええやろ? マスター変やけど」
「うん、ええなぁ。で、健介っていうのもここ通っとん?」
「そうや。ここで知り合った」
あたしは去年の誕生日の話をした。白夜に他の男のことを言うのは初めてだった。あたしは足を組み、彼に視線を向けた。
「妬いた?」
「ちょっとはな。でも、蘭の彼氏っていう地位がオレにはあるから。せや、オレ八月誕生日やねん。祝ってや」
「わかった。彼女としてな」
二杯目は二人ともハイボールを頼んだ。ウイスキーにももう慣れた。白夜は酒を飲んでも顔色一つ変えない。あたしよりも早いペースでそれを飲んだ。ゴルフの話を終えた神仙寺さんが言った。
「せや、蘭ちゃん、おもろい焼酎あんねん。飲む?」
「あたし、焼酎飲んだことないんですけど」
「これやったらいけると思う。ソーダ割にして飲むんや」
神仙寺さんは黒っぽいボトルをカウンターに出した。「だいやめ」と書いてあった。どうやら芋焼酎らしい。白夜も興味津々だった。
「オレも、これ下さい」
「ほな、二つ作るわ」
そうして出来たお酒は、何かのフルーツの香りがした。焼酎独特の臭みがない。あたしは首を傾げた。
「これ、果物入ってるんですか?」
「入ってないよ。ライチの香りするやろ? まあ飲んでみてや」
驚くほどするすると飲めてしまうお酒だった。あたしも白夜も目を丸くした。白夜が言った。
「これ、めっちゃ美味しいですね。癖になりそうです」
白夜はもう一杯、その焼酎を頼んだ。それで店を後にした。向かったのは、もちろんあたしの家だ。服を着たまま、ベッドにもつれこんだ。
「あー、オレ酔ったわ」
「あたしも」
あたしたちは激しくセックスをした。二人とも、汗まみれだ。一緒にシャワーを浴び、石鹸でシャボン玉を作って遊んだ。そんな戯れができる間柄にあたしたちはなっていた。あたしはタオルで髪を拭きながら言った。
「白夜、セックス上手くなったなぁ」
「そうか?」
白夜はあたしの肩を抱いてきた。
「蘭が上手いねん。さすが、色んな男とやっとうだけあるわ」
「女ともするで?」
「マジで?」
あたしは玲子さんのことを告げた。卒業したら、彼女の事務所で働かせてもらうということも。
「そんなら、蘭は西宮に就職するんか」
「せやで。白夜はどうするん?」
「オレ、東京行きたいねん。あっちで就活する。せやから……蘭とは、卒業までかな」
「うん、ええよ」
期限のある方がいい。あたしは白夜に顔をすりつけた。都合のいい彼氏として、彼はよくやってくれていた。それ以上のものを、あたしはどうしても望めなかった。
「オレ、蘭と出会って、女もええなぁ思ったんやけどな? それまでは、好きになったんは男やねん」
「そうなんや」
「蘭も女とやっとうんやったら、気持ち分かってくれるかなぁって思って、打ち明けてみた」
あたしは白夜の顎をさすった。互いのことは多くは知らないでおく、というのが条件ではあったが、あたしは関心が出てきてしまった。
「初恋も男の子?」
「うん。中学生のときな。告白なんかできひんかった。オレ、自分のことずっと頭おかしいんやなって思っとった」
続きの話はベッドで聞いた。
「それからも、ええなぁって思うんはやっぱり男や。蘭とやって、確かめてみたかった。ハッキリわかったわ。オレはほんまは男に抱かれたい」
「だから、翔のメチャクチャな提案飲んだんや?」
「そういうこと」
それから、あたしは白夜の妄想を聞いた。東京に行ったら、男性のパートナーを探したいと。セックスをするための、身体の準備はもうできているとのことだった。あたしは彼を応援した。
「もし男とやれたら、感想教えてな?」
「うん、教える」
これは二人の秘密だ。あたしたちは指切りをした。
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