37 アクセサリー
連休明け、ゼミに行き、アリスと美咲のところに近付いた。彼女らは、この休みのことを話していた。
アリスは浩太さんのところに入り浸っていたらしい。彼女の親も、もう何も言わなくなったのだとか。
美咲も翔と楽しく過ごしていたようだ。楽しく、の中にはセックスも含まれていたようだが、ここでそれを聞くことはしなかった。アリスが言った。
「久々に蘭飲みしようや。翔くんも呼ぼう」
早速あたしはグループラインに連絡した。翔からは、友達も呼んでいいかときた。十中八九、白夜だろう。アリスと美咲に了解を得ると、案の定、磯上白夜がグループに招待された。
あたしたちは大学図書館前に集合した。あたしと白夜は初めましてを装った。アリスが大声を出した。
「わあっ、白夜くん、めっちゃカッコいいなぁ! 彼女おるん?」
「おらんよ。募集中」
「ほな、この蘭はどう?」
アリスがずいっとあたしを白夜に突き出した。あたしは苦笑して言った。
「ちょっと、アリス」
白夜も笑った。この前は見せなかった柔らかな表情だった。彼は言った。
「蘭ちゃん、可愛いなぁ。ほんまに付き合う?」
「もう、会ったばっかりやねんから」
あたしたち五人はコンビニへ行き、酒やつまみを買った。正直、あたしの部屋に五人は多い。あたしとアリスがベッドに腰かけて、他の三人がローテーブルを囲んで床に座った。翔が言った。
「ほな、かんぱーい!」
今日の翔はとりわけ機嫌が良さそうに見えた。理由は知らない。酒はどんどん進み、アリスはペラペラと浩太さんとのことを話し始めた。美咲は赤面していた。
「もう、アリスったら、そのくらいで……」
「ええー? 今度は美咲と翔くんのこと、聞きたいなぁ」
「そんなん、言われへん。翔くんも言ったらあかんで?」
白夜はほとんど会話に加わらず、次々と酒を開けていった。美咲が言った。
「ごめんなぁ、白夜くん。アリスったら、あんな話ばっかりして」
「ええんやで。おもろいもん」
今度はアリスが白夜に話しかけた。
「白夜くんって一人っ子?」
「ううん。なんで?」
「なんかそんな気がしてん」
「妹が二人おるよ。双子」
「ほんまに!? お兄ちゃんなんや!」
白夜は妹たちの写真を見せてくれた。一人は女子大の一回生で、もう一人はネイルの専門学校に通っているらしい。一卵性らしく、二人はそっくりだった。兄妹仲は良く、時々三人で遊びに行くのだとか。美咲が言った。
「ええなぁ。わたし、弟おるけど、そんなに仲良くないよ」
あたしもかぶせた。
「あたしの弟はまだ小学生やからな。遊びに行ってもお守りするだけやわ」
アリスが言った。
「私はお姉ちゃんと仲ええけどな。せや、翔くんは?」
「俺? 妹おるよ。五つ下」
どうやらこのメンバーは全員きょうだい持ちらしい。しばらくは、それぞれのきょうだいについての話で盛り上がった。その内に、子供が何人欲しいかという話題になった。美咲が言った。
「わたし、三人欲しいねん。男の子も女の子も欲しい」
白夜が翔の腕をつんつんとついて笑った。
「やって。翔、大変やなぁ」
「俺、まだそこまで考えてへんかったわ。まずは就職やな。転勤ないところがええなぁ」
あたしは立ち上がった。子供の話は苦手なのだ。ベランダへのガラス扉を開けると、白夜が着いてきた。
「オレも吸う」
「うん、ええよ」
あたしは自分のタバコに火をつけた後、白夜の美しい横顔を眺めた。彼もまた、あたしを見つめてきた。
「なあ、蘭。この後いっぺん帰るフリするけど、その後来てもええ?」
「わかった。バレんようにしいや」
あたしは駅まで四人を見送った。家に帰り、空き缶を片付け、ベッドでぼおっとしてると、白夜がやってきた。
「よう、蘭」
「白夜。そんなにあたしとしたかったん?」
「うん、したい」
白夜はあたしの全身を愛おしんでくれた。頭からつま先まで、全てを。彼にとっては、まだ三度目のセックスのはずなのに、とても余裕があった。あたしは彼に身をゆだねた。終わって、タバコを吸いながら、彼は言った。
「なあ、オレら、ほんまに付き合わへん? 蘭が遊んでることは知っとう。それでもええ。都合のいい彼氏にしてくれへん?」
都合のいい彼氏か。それもまた、面白いかもしれない。あたしは白夜の金髪を撫でた。
「ええよ。白夜、綺麗やし。連れて歩くん楽しそうや」
「やっぱり、蘭もオレの顔が目当て?」
「そうやな。身体もええけどな」
「オレの中身なんて知らんでもええよ。上辺だけ楽しくやりたいんや」
一体白夜が何を抱えているのか、知らなくてもいいというのなら、そのままでいいと思った。あたしたちは台本を書いた。今日出会ってお互い惹かれ合って、一週間後に付き合うことにしようと。
実際、あたしたちはその通りにした。ようやく決まった彼氏ができたと、アリスも美咲も祝福してくれた。校内で白夜と過ごすと、周りの視線が注がれていることがよくわかった。翔が美咲を側に置きたがった理由はこれなのだな。白夜はあたしの、アクセサリーになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます