24 地元
元日から、そのショッピングモールは開いていた。あたしは少し早めに着いてしまったので、先に服の売り場を見て回った。福袋が売られていた。ちょっぴり興味はあったが、覗くだけにして、時間になったので入り口へ向かった。
「おう、蘭。あけましておめでとう」
「おめでとう」
あたしたちはまず、昼食をとりにうどん屋へ入った。少し混みあっていて、健介の名前を紙に書いて並んだ。あたしは鶏の天ぷらが乗ったぶっかけうどんを注文した。健介はきつねうどんで、大盛が無料だと聞くと、それにしていた。食べながら、健介が言った。
「ここのうどん、久しぶりやわ。やっぱり美味いなぁ」
「せやね。あたしも久しぶり」
「蘭とここですれ違ったこととかあったんかなぁ?」
「あったかもしれへんね」
食後は、一旦外に出て、駐車場の近くの喫煙所でタバコを吸った。健介が言った。
「ここのミスド、まだあったんや。おれ高校のときバイトしとってんで」
「ほんまに? あたしよう行っとったで?」
「まあ、洗剤で手が荒れて一週間でやめたけどな」
「なんやそれ」
それから、三階から順にあたしたちは店を見て行った。健介はここに来るのが五年ぶりらしく、色々と店が変わっているのに驚いていた。一階まで降りた後、健介はケーキ屋を見て言った。
「うわっ、ここも変わっとう。ソフトクリーム食べたかったのにな」
「ああ、あの店な。とっくにあらへんよ」
さすがに休憩したくなってきたが、こんな小さなショッピングモールで座れるところとなると、さっきのミスタードーナツくらいしか無かった。あたしはオールドファッションを、健介はフレンチクルーラーを食べた。飲み物は二人ともホットコーヒーだ。健介が尋ねた。
「それで、実家はどうやったん?」
「弟は大きくなっとったけど、いつも通りやった。あたしが外行く言うたら、自分も行きたい言い始めて大変やったわ」
「そっか。可愛いやん」
「うん。可愛いんやけどな」
あたしは今日で帰る気でいた。一旦戻って、大樹の相手をして、夕食を食べたら。もうそれで十分すぎるだろう。話なら昨晩の内に全て済んでしまったのだから。あたしは言った。
「弟、私立の受験させるんやって。父親が、不公平になるからって言ってきたけど、そんなん気にせぇへんのにな」
「まあ、蘭の親は親なりに、平等にしようって考えてくれてるんやと思うで」
「あたしは別にええねんで。父親かて、弟の方が可愛いんやと思う」
「そうかなぁ」
「ええねん。金だけ出してくれたら」
もう一度タバコを吸ってから、あたしたちは別れた。実家に戻ると、また大樹が抱きついてきた。
「お姉ちゃん、遅いー!」
「ごめんて」
「ゲームしようなぁ!」
あたしは大樹のテレビゲームに付き合った。素早くコントローラーをさばく彼を見て、もうこんなことができるようになったのかと驚いた。受験勉強はいつからさせるのだろう。こうしてゲームをさせるのも今の内なんだろうな。あたしはふと、園子さんを見た。
「どしたん? 蘭ちゃん」
「うん、大樹いつから勉強さすんかなぁって思って」
「その話ね。家ではちょこちょこやっとうんよ。この冬休みはゆっくりさしたって、三学期になったら本格的に塾行かせるつもり」
「そっか」
夕飯はカレーだった。園子さんに初めて食べさせてもらった料理だ。彼女のカレーは、牛スジ肉を使う。それが口の中でほどけていくのが、何ともたまらないのだ。
「やっぱり園子さんのカレー、美味しいわぁ」
「ありがとう。蘭ちゃん、自炊はしとん?」
「ううん。いっつもコンビニやで」
「カレー、多めに作ったから、タッパーに入れて持って帰り」
あたしはその他にも、お菓子やら何やら、大荷物を持たされた。果物だけは、皮を剥くのが面倒だからと断った。帰り際、泣きそうな顔で大樹が言った。
「お姉ちゃん。お姉ちゃんとこ行きたい」
「大樹がもうちょっと大きなったらな」
「うん。はよ大きなる」
駅までは、父親が車で送ってくれた。助手席で、あたしは無言のまま窓の外を見つめていた。すると、父親が言った。
「蘭。園子のこと、やっぱりお母さんとは呼ばれへんか」
「うん。あたしにとって、お母さんは生みのお母さんだけやもん。記憶あらへんけど」
「そうか。また二人で、お墓参り行こか」
「せやね」
電車に揺られ、あたしは帰宅した。すぐに荷物をほどき、冷蔵庫にカレーの入ったタッパーなどを詰めていった。これは明日の昼に食べようと思った。それなら、米も炊いておかなくては。久々に炊飯器を使った。
今回、帰省しておいて良かった。父親としても、大樹の受験の件を早く話しておきたかっただろう。大樹が無事、合格したら、本当に家に呼んでやってもいいかもしれないと考えた。しかし、その頃にはもう、お姉ちゃんっ子ではなくなっているかもしれない。
神仙寺さんの店に行きたい。あたしはインスタグラムで営業日を確認した。四日から開けているようだった。それまではダラダラと過ごそうか。あたしはシャワーを浴び、さっさとベッドに入った。
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