SS010  中ボス「ビックファル」



 大樹の中にあるアスレチックステージ。数時間かけ登り続けたおかげか私とヒカリはついにその終わりかと思われる場所に到着した。


 だがしかし、一応は終了と思われるアスレチックのゴールにはこれまた上に続く階段が形成されている。そこが一区切りなのか、今まで吹き抜けだった大樹内に初めて天井が現れれる。


 そこからここから上にどうぞ!と言わんばかりの階段が吊り下がっていた。


 ここまで長く疲れてきたのでとりあえずその階段に座り2人で休憩を取ることにした。私はまあ、何とかなったけど。ヒカリは常に緊張抜けなかったから相当メンタル的に疲れているはずである。

 表情は全く変わらないが休憩しようと言うと賛成と言って階段に腰掛けたのでほんとに疲れてそう。


「だいぶ登ってきたね」


「ん。でも、まだある」



 ひとまずアスレチックは終わりの様子だが、それまでにヒカリは何回も落下しかけ、1回は本当に落下している。奇跡的に足場がなければ…。



 そんなエリアさえ抜けてしまえばヒカリにとっては一安心だ。

 その階段から下をのぞけば、飛行系スキルが使えない今、落ちたらどんな絶叫系アトラクションよりも恐怖しかない。所々に足場に激突しながらひもなしバンジージャンプ体験なぞもはや拷問ごうもんいきだ。



「あとどれ位かな?」

 

「少なくとも。半分は超えた」


  大樹の中はとても広い。別の道があるとしても幹の中がほとんどくり抜かれているのになぜこの木はれていないのか…、所々に空いた穴や幹に空いた隙間から外の景色がうかがえる。まあ、ただ、普通に届く場所には無いので行くことはできない。

 もうそろそろ日が暮れそう。その程度の情報以外はそこから小鳥が侵入してプレイヤーにおそって来ていたのか。くらいしか新たな発見はなかった。


 不思議だが、大樹の中は光源が無くともそこそこ明るい。全体的に新鮮なヒノキのカラーリングなのも一因だがそれだけでは説明つかない程度には明るい。

 ヒカリいわく、この大樹の中と言いこのイベントはあまりRBGぽい今までのRealityリアルが少ないとの事。

 どちらかと言うとファンタジーよりに全体的に見える。まあ、そもそも浮島の時点でかなりファンタジーだ。


 そういうテーマなイベントなのでは?と言ってみたが、ヒカリはどこかしっくり来ていなさそうだった。





「どうする?このまま上にのぼるか、それともリアルに戻って夜ご飯済ませる?」


 もうそろそろ夕暮れだが夜ご飯には少し早い。


「ん…、もう少し進んだら。ご飯。そっちに行っていい?」


「まあ、そうだろうと思って準備してるよ。なら進もっか」



 ヒカリと私の家はとても近い。と言うよりも同じ建物内であり、タワーマンション的な物に住んでいる。そんでもってお隣さん同士なのでもうほぼ一緒に住んでいると言っていい気がする。

 昔から遊ぶ時とかは常にヒカリが近くにいるから違和感はない。

 

 



 階段を登きり、大きめの広場に出た。



 そしてその中央では大きな体を待つタカが鋭い眼光で睨みつけてきた。



「ん。いかにもボス」


「雰囲気的には中ボスじゃない?なんかそこまで強くなさそう」


 こういうモンスター?と戦うのは先程の小鳥たちを除けば初めてだがこれはゲーム。ヒカリと一緒なら勝てる気がする。


 そしてそのタカはひと鳴きし、大きなつばさを大きく広げそのままはためかせ広場から飛び上がった。翼を広げると更に大きく見えて迫力満点だ。


「私達、飛べない」


「なんか反則」



 さて戦おうと戦闘態勢になるもそういえば〔飛行〕が使えなかったことを思い出す。

 こっちは飛べないのに相手は余裕で飛んでるんですけど。理不尽かな?


 私たち文句をガン無視してタカはヒカリ目掛けて滑空かっくうし体当たりを仕掛ける。大きな翼とその巨体の質量は相当なものでぶつかればかなりダメージを受けそう。


「ん」


 だがしかし、〔ステップ〕を踏みヒカリはするりと回避して見せ、そこに私が槍のリーチを活かしてひと突きする。


ーーーー


スキル:ステップ


カテゴリー:体術系

ランク:青

発動:アクティブ

概要:地面接触時、足による移動がスムーズになる。足運びが良くなるのでその他技術系スキルと相性が良く。近接地上戦で有利となる。空中では使えない。


ーーーー




 突きは当たるも、タカの側面からだったためそこまで綺麗きれいに刺さることも無く。ダメージも少量だけしか与えられなかった。何よりあの羽普通の鳥のものじゃない。


「意外と硬い!」


「弾幕。いく」


 あまり斬撃攻撃は効き目がなさそう。そうヒカリに素早く伝えならば魔力攻撃はどうかとヒカリが魔弾を飛ばしタカを撃ち落としにかかる。さりげなく〔水〕属性の水弾を使うヒカリ。当たればダメージついでに羽に水分を含ませ飛行速度を落とせる。そういう狙いだろう。流石だ。

 だがタカは水弾を上空をクルクル回りながら回避する。


「む…」


 それを見てさらに水弾を飛ばすヒカリ。今度はその水弾を〔回す〕を使ってタカの円形軌道とは反対周りで複数個飛ばした。


ーーーー


スキル:回す


カテゴリー:動作系

ランク:白

発動:アクティブ

概要:起点物を中心に単一方向に魔弾、物を回す。起点物からの距離は何時でも自由に変えることが可能。


ーーーー



 流石に全て回避できないタカ。水弾が当たり少し失速した。そのままバランスを崩すタカ。落下地点を予測してそこに向かう。〔溜め〕を行いながら次の攻撃力を上昇させておく。




ーーーー


スキル:溜め


カテゴリー:体術

ランク:白

発動:アクティブ

概要:攻撃前に〔溜め〕を行うことで次の物理攻撃力が上昇する。溜めは長ければ長いほど次の一撃が強力なものになる。


ーーーー




「うりゃ!!」


 今度は綺麗に攻撃が通り、衝撃を逃がすこともできないタカは落下ダメージもあいまって大ダメージ。そのまま水弾を放物線軌道で叩きつけるヒカリとあとは滅多刺しに槍を放つ。


 水を吸って重くなった体。次々に与えられるダメージにタカは手も足も出せずついにHP全損となった。



「まあ、このくらいなら楽勝だろね」


「ん。技、使うまでもない」


 このくらいなら。ヒカリは強い。


「あ、ヒカリ、なんか素材落としたみたい」


「ん。頑丈な羽根。ゲット」


「あ、こっちはビックファルの矢羽根だ!弓矢…、使わないから使えないけど売れる?」


「お金、にはなる」


「ならいっか、さてこのままどんどん進んで行こう!」


「ん」


 いつの間にか出現していた出口、出口は細い通路の先、あかね色になった空が見える。


「あ、外だ!」


「アキ、落ちないように。ね?」


 今度は大樹の外にある幹の道が上に続く。あれ…これ太いけど枝の上が道なのだろうか…


「…、それヒカリの方が該当がいとうしない?さっきのアスレほど足場良くないよ?」


「…。もうヤダ」



「あ、ちょっとログアウト!?」


 ヒカリの心を折るには充分だったらしい。この後、早めの晩ごはんにしてリフレッシュした後、私ががヒカリの手をしっかり握ってあげることで先に進むように説得。スローペースながらも何とか足場の悪いエリアを乗り切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る