SS008  ヤドリギ

「うそ…」


「いやー、中までアスレとは」


「…。帰ろ?」


「いや♡」


 私とヒカリはやっとのことでジャングルを抜け、その先の大樹の根元までやってきた。だがしかし、その先に待ち受けたそれは容易くヒカリのメンタルにクリティカルヒットに次ぐテクニカルヒットを決め込む。んまあ〜ご丁寧にあとは登る階段が付けてあるとは思えないもんね。



 目の前には大きくここから入ってねと言わんばかりの大きな隙間。そしてその内部大樹の幹の中には果てしなく上まで続くアスレチックがつづいていた。その見えない頂上を2人して見上げ、ヒカリは既に無表情ながらも死んだ魚の目を見せている。割と表情は動かないヒカリだが少しだけ目付きが変わるのでわかる。普通の人にはたぶん分からないだろう程度の変化で嫌だと目が語りかけてきていた。


「ほら、登るよ?それに何かあるかも?興味無い?」


「…ある」


「それに私も手伝うから」


「ん…」


 とりあえずここまで来て引き返すのはさすがに面倒。ヒカリの好きそうな「なにかあるかも?」という言葉で誘惑ゆうわくすると渋々同意してくれた。

 …これここまで来たはいいけど帰りもアスレチックとかヒカリ大丈夫なのかね?

 アスレチック…と言うよりも足元不安定な感覚が苦手なヒカリだが、好奇心には勝てなかったらしい。そのまま私が進むとちゃんと着いてきていた。


 中はツミキのようにかくかくしたアスレチックがとりあえず見えないくらい上まで続いている。この太い大樹のほんの一部なのでもしかしたら別の入口もあるのかもしれない。


 やはり大樹の中も飛行禁止らしくそれにじゅんずるスキルは軒並のきなみ使えそうになかった。仕方が無いので比較的登りやすそうな場所を見つけて登っていく。


 ふとヒカリの様子を見ると…



「意外とスタスタと登ってきいますね?さっきまでのヒカリは何処へ?」


「足場、並行。なら大丈夫」



 意外と私のすぐ後ろを着いてこれていた。どうやら足元が滑りやすかったり、凸凹していなければいいらしいヒカリは先程よりも楽に登ることができるらしい。バランス神経だけ極端きょくたんに悪いんだよね。


「それにしても、ここに入ってからプレイヤーを見ないのはなぜ?」


「たぶん、何個か。入口ある」


「あー、なるほど」


「それに、たまに。上から、プレイヤーの。魔弾。落ちてきてる」



 ヒカリの言う通り、たまーによく分からないものが落下していく。やっぱりいくつかルートがあるとみて間違いない。ただ1つ不可解なことがあるとすれば上から魔弾が降ってくるということ。

 戦闘以外で魔弾を飛ばすことなどないと思うのだが…


「上でプレイヤー同士の戦闘?」


「…、分からない。そういう、ギミックかも」


「なるほど」

 

 とりあえず、戦闘の可能性もあるとんで武器はいつでも取り出せるようにしておく。



 至って順調に登ること50分ほど。


 視界にふと映ったそれ。


「え?鳥?」


「なるほど。モンスター。敵。アキ構えて」



「え!?え!??」



 途端にグローブを装着し構えたヒカリ。アクシデントに少しキョドりながらも私も槍を構える。なるほど。プレイヤー同士の戦闘じゃなくてNPCとの戦闘余波の弾幕がさっきから落ちてきていた弾幕の正体か!

 ヒカリはそのことに一瞬で気づいたのだろう。頭の回転はとても早い。


「アキ、火、ダメだからね…」


「わかってる!キャンプファイヤーにはまだ明るいもんね」


 果たしてこの大樹がそんな簡単に燃えるのかはさておいて、あまり使わないに越したことはない。下手をしたら燻製くんせいにされるようなものだ。


「ヒカリも!変なとこ踏んで落っこちないようにね!」


「…善処ぜんしょする」



 そしてヒカリと背中合わせで笑い合う。たぶん目元は笑ってるはずだ。


 程なくしてその鳥が急降下し私たち目掛けてミサイルがごとく突撃してくる。



「モンスター。初めて、戦う。アキ。油断禁物」


「了解。ヒカリは足元ね」


「ん」



 2人で上を見ながら私たちのバトルが今幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る