第5話 解決

 勇也から印刷してもらった写真を受け取り、他に証拠になりそうなものを机に並べていく。


「これで、本当に大丈夫なんですか?電話、かけますけど」


「大丈夫。これ以上の証拠はないから。何なら、言い訳も通用しないよ。私たち探偵部は全員が能力者。なんでも屋の人には負けないから。ね、皆」


 会議室に設置されている電話を前にして、勇也が不安そうに心音に確認を取る。心音はこくっと一つ頷いて、そう返した。


「不安に思うことはありません。透、今回はちゃんと話すときは話してよ」


「もち。結衣と玲、秋斗も」


「分かっています。何かあれば力を使う準備はできていますから」


「…そういうこと。お願いするね」


「分かりました、かけますね」


 皆の覚悟の決まった表情を見てこれ以上言うことは無いと、勇也は電話をかけた。今ちょうど巡回している警官宛てに。強制連行が目的だ。


「では、迎えに行ってもらっていますし、少し待ちましょう」


「でも、素直に応じるとは思えないわねぇ。事情聴取もササっと終わらせると、逃げるように去っていったもの。今思えば、あそこまで非協力的なのは凄い怪しかったのかしら」


 全員で机を囲み、ぼーっと待機する。美羽の発言に触れる人はいなかった。


 それから5分後。会議室に腕を掴まれた人が一人入ってくる。しかし、もう一人は居なかった。そりゃあ、そうだろうけどな。


「一人は見つかりませんでしたので、とりあえず彼女だけ連れてきました」


「ありがとう。それじゃあ、見張りを頼みますね」


「了解です」


 椅子に座らして後ろで手を拘束されるが、特にその人は抵抗しない。その様子を見て、心音はもう一人の名前を呼んだ。


「なんでも屋の彼ならここに居ますよね。最近、よく視線を感じているから。ね、海人さん?」


「…よくわかったな。お前には、隠し事はやはり無駄だったか」


 心音の声がけにはそう言って、姿を現す。ずっと様子を見てきたが、やはり噂通りだったのだな。


「そうでしょうね。さて、用事は分かってるよね。一週間前のあの事件の、犯人さん?」


 メンバー全員後ろに控えさせた状態で俺と姉さんの方を見て、立ったままそう心音は告げる。そんな態度に俺と姉さんは黙ったまま、心音の方を見た。


(視点変更。心音視点)

 …心音はしばらくその様子を見て、いらだちを隠せずにいた。だって、分かっているだろうに。わざわざ黙る必要はない…。まぁ、それならこっちから全部教えてあげるとしようか。さぁ、推理の時間だよ。


「…はぁ、話してあげるよ。事件の全容としては、秋華ちゃんの事が気に食わない穂乃花先生が、なんでも屋の弟に頼んで殺害してもらった。殺害という点だけ見れば、先生には何もなかったんだろうけど。でも、元々の動機は先生にある。まぁ、共犯者という風に2人を見ればいいよ」


 ここまで言うと、少し表情をゆがませる2人。自覚しているというわけか。それでも、推理の時間なのだから続けるけど。


「先生たちが愚痴をよく聞いていたという話があって、同級生や後輩達からはあまり先生の態度が良くなかったと聞いた。…完全に才能への嫉妬。無能力者の能力者嫌い。それが。あるいはそれに似た何かが先生にあったんじゃないの」


 そう言い放って、私ははぁ。と一つため息をついた。相手がどう思うかなんて知らないけど、能力者嫌いの人に私は当たったことがある。父について話を聞き回っていた時に、『能力あるから、解決できるとか舐めるんじゃねぇ!お前のような能力者は1番嫌いじゃ!』…って。父は慰めてくれたけど。


 私は大層な能力を持っているわけじゃなかった。だというのに、歳相応じゃないと見られただけであんな扱いを受けたのが信じれなかった。


 …本が好きで、特に探偵ものが大好きで。ただその知識を活かして答えたら、それが当たってて。ただそれだけだった。エゴだろうと、これが実際能力者の事実なのだ。


「…私はクラスを持って、子供たちと仲良くしたかった。だから、この町まで来たの。ようやく就けた教師の仕事だと思ったのに、何故か図書室の先生になったのよ。信じられなかったわ」


 もっと言ってやろうかと思ったその時、先生がポツポツとそんな話を始めた。


「図書室はほとんど仕事がなくて、子供たちと関わることは少なかった。来たとしても、皆秋華という子目当てで、私はだんだんと嫌になっていったの。したくない仕事に就いたということと、秋華が図書委員として頑張っている姿が嫌だった」


 確かに、秋華ちゃんは皆に好かれていた。その分、いじめていたグループのように、一定数には嫌われていた。本当に、先生も嫌ってたんだな。


「犯行に及ぶのにそう時間はいらなかった。弟はすごく優秀な能力者だから、きっと後を追えない。その間に辞職してこの町を出ようとした」


 あ、これ自白だ。もしかして犯行の話まで?いや、この感じはしないかも。まぁ、聞いていよう。


「ただ、あの子に嫉妬をしていたのかもしれない。でも、まさか追われて見つかるとは思わなかった」


 そこまで言うと、再び口を閉じる先生。あれ、それだけ?もっと言いたいことあるのかと思ったけど…。


 でも。


「正解、か。それだけでも、殺せば何か変わるかもしれないと思った。…なんでも屋の能力は情報統制と現状の書き換えだよね。2つ持ちはあなただけ。っと、そこはどうでもいいか。それを使えば、確かに普通なら分からないだろうね。秋華ちゃんに外傷が無かったのも。ま、弾が残っていてて怪しまれたんだし、詰めが甘かったんだよ。弾のような物質を消し去ることは出来ないのかな」


 そう言って、私はさっき現像してもらった写真を先生たちの前に置く。そこには、銃を構えたなんでも屋の姿が映っている。そして、もう一枚も置いた。こっちはちょうど撃たれたところの写真。


 わざわざ書き換えてまで消し去った情報が、今こうして表に出た。これは、予想しきれなかったんじゃないかな。


「…バレるのね。西原さんの能力かしら」


「現場再現しただけ。得意分野で負けるわけにはいかないから、頑張ったんですよ」


 先生は驚いたままそう言い、明音がその言葉に答える。なんでも屋が驚かないのは、その様子も見られていたということかな。


「で、何か言いたいことは?」


 ここまで証拠が出揃えば、言うことはないだろう。認めて貰えればそれでいい。


 まぁ、その後は探偵部一人一人から怒鳴られることになると思うけど。


「…ここまで証拠が出揃ったもの。言うことはないわ。捕まえなさい」


「俺もだ」


 2人が頷いて罪を認めたところで、後ろで監視していた警察官さんが手錠をはめた。そして、連れて行こうとしたところで、私は声をかける。


「待ってください」


 その一言で足を止め、2人はこっちを見てくる。大切な友達をそんな理由で殺したんだ。メンバーからの文句も聞いてもらいますよ。


「わざわざ逮捕されている先生たちに足を運ぶほど、私たちには慈悲はないはずよ。皆、言いたいことがあれば吐きなさい」


 秋斗であれば会いに来るかもしれないが、私たちはそうならないはず。だから、私はメンバーにそう言った。


「なら、遠慮なく俺からいくわ。…確かに俺たち能力者は、その才能で周りから信頼されたらする。だからと言ってそれを理由に殺していい理由にはならねぇんだよ。しばらく反省しろ」


 先頭をいった玲がそう言い放った。


「私も同感よ。秋華は憎たらしい部分もあったけど、彼女の能力による知識には本当に助けられてきたわ。小学生に残した傷はすごいでしょうね」


「本当にそうです。秋華先輩は凄い人でした。先生は子供たちと関わりたいと言うのなら、仲良くなりたいと言うのなら、その資格は無いんですよ。こんなことする人に誰が好きになるんですか」


 明音と結衣が玲に同感して、そう言う。おー、これは相当溜まっていたみたいだね。


「私と透も一緒です。あなたは先生に向いてません」


「ん。あなたのような人、この町に必要ない」


 彩夏と透もそう言ってキッと睨んでいた。特に透は心を読んでいただろうから、1番辛かっただろうな。


「…姉さんを…殺したことに変わりはないんだよね。部長」


「えぇ。そうなるわね、秋斗。言いたいことは言いなさい?」


「なんて、言ったらいいか分からない。でも、姉さんは僕と違うから、殺された時すごく辛かったと思う。それに、いつも姉さんは強くて頼りになってた」


 結衣にしがみつつ、秋斗がゆっくりとそう話す。理解できてなくても、言葉に出来なくても。秋斗はなんとか声にしようとしている。


 私はその頭を撫でて、言いやすいようにしてあげた。


「そんな姉さんはいなくなった。…僕、それは一生忘れたくない」


「そうだね」


 怒るわけではなくそう話す秋斗の言葉は1番刺さったんじゃないかな、心に。


 でも、終わったわけじゃない。私はゆっくりと息を吸うと話し始める。私の感情を能力に乗せて、爆発させた。


「許せないし、許す気はない。今も心の整理は付いてない。こうして事件に関われば少しは整理できるのかなって思ってた。でも、あんたたちが犯人だと分かった後は一切怒りを抑えきれてない。今すぐにでもあんたたちを殺したい」


 私の言葉が動物の形を取り、先生たちの目の前で仁王立ちする。これが、私の能力の一つだ。


「それでも、それじゃあ意味はない。だから、ちゃんと罪として裁かれてほしい。私たち葉山小の皆が好きだった彼女を殺した、という罪を」


 そこまで言って私は深呼吸する。上手く制御しないと、目の前にいる動物が食べてしまうから、気をつけないといけない。


 それに、今ので全てなわけないじゃん。


「クラスに馴染めなくて、名探偵だと騒がれる日々が段々と嫌になっていた時期があった。その時に、秋華と出会ったんだ。お互いあぶれ者だと。能力者としての扱いや、私たちに対する周りの目には似たものがあると言ってくれた。それから、似た者同士として仲良くしてくれたの」


 懐かしい。6年生に上がった後は特にクラスに馴染めなかったな。まだ3ヶ月ぐらいの仲だったけど、本当に親友だって思えるぐらいだった。


「すごく嬉しかった。…だからこそ、今いないという事実は受け入れられてない。…まぁ、遺体さえあれば死者蘇生も可能だけど。でも、それは意味ない気がするしね」


 サラッとそう言って私は2人を睨みつけて最後だと一言告げた。


「エゴだってのは分かってるけど、皆の話覚えておけ。これが、被害者側の叫びだ」


 言い切った。その達成感が私を包み込んでいく。


 すると、先生が私たちの怒りに対して思わぬことを言ってくる。


「だったら、なんだって言うのよ。あの子がいなくなれば精々よ。というか、あんたたち能力者も殺せばよかったわね」


「…はぁ?!」


 先生のその言葉に、誰でもない玲がぶちぎれた。そりゃあ、そうだろう。友人を無くした痛みというのを、考慮していない。子供たちと仲良くって言う先生が、いう言葉じゃないはずだ。


「…そっか。それが答えか。私たちが自分のエゴをぶつけたように、先生もまた自分のエゴで秋華ちゃんを殺したんだと。なら、もう言うことは無いよ。…連れて行ってください」


 玲を抑え込んで、私は静かにそう告げる。私の一言にハッとなった警察官さんは、大人しい2人を連れて行った。


 残ったのは、私たち探偵部のメンバーと、美羽さんと鈴木さんだけ。


「何…なん…だよ…」


「これが、現状だってこと。私たちが何言おうと、先生はその理由で人殺しになったんだ。…大人版のいじめってやつかな」


 玲をなだめつつ、私はそう話した。そう、これは秋華ちゃんに対して先生が行ったいじめだ。最初はそれこそ、仕事を真面目に行わなくなればいいと思ってやっていたんだろう。でも、何も変わらない。だから、いじめがエスカレートしていって。


 …そういえば、あの事件の前日は凄いボロボロになってたな。何ともないって本人は言っていたし、私も同学年のグループによるいじめだと思ってたんだけど。本当は先生にやられていたんだろうな。本当に、グループでのいじめがかわいいレベルのものをもらっていた。それに気づかなかったんだ…私は。


「…ほら、切り替えて。探偵部の皆、依頼達成ありがとう。学校に依頼の報酬を送っておくから、学校の皆で楽しみにしていてちょうだい」


 ポンポンと手を叩いて、美羽さんがそう声をかけてくれた。皆しんみりとしていたり、怒りに震えていたりしたから気を使ってくれたのかもしれない。


 そんな明るい声に思わず私たちも笑顔になる。


「報酬、ですか?」


「えぇ。だって、必要でしょう?それに、あなたたちはこれからまた前を向いて歩いていく時期になるのよ。だから、その手助けも兼ねて、ね」


 報酬が必要とは思えないけど、ウインクをパチっと決めた美羽さんはかっこいい。


 確かに、この事件の真相が明るみに出ればしばらくは大変な時期が続く。そこから、立ち直って普通の毎日が始まるまでは時間が必要になるとは私も思う。でも、手助けなんて、本当にありがたい話だな。


「…ありがとうございます」


「良いのよ。それに、感謝はこっち。犯罪者を逃がさずに済んだのだから」


「そうですね。いきなりだったのにも関わらず引き受けてくださり、こうして逮捕にまで至ったのです。ありがとうございました」


 鈴木さんと美羽さんはそう言って深々と頭を下げてきた。『ありがとう』、か。久々に聞いた言葉だよ。


「こちらこそ、ありがとうございました」


「「ありがとうございました」」


 私たちもそう言って頭を下げる。協力やこうして話を持ち掛けてくれたこと、それから事件の解決に携わらせてくれたこと。そのお礼の気持ちを込めた。


 それから、私たちは警察署を出てそれぞれ自宅へと帰っていった。


「なんか、あっさりしていたかも」


 歩きながら、玲に私はそう言う。もっと何かあると思ったのに、結局はいじめが原因だったのだから。


「それでいいんだよ。秋華もこれで成仏できるだろ」


「うん、そうだね。…ねぇ、夏休みそろそろでしょ?秋華ちゃんがくれたペンダント持ってさ、約束していたプールに探偵部皆で行こうか」


 今日一日ずっと付けていた雫の形をした赤色のペンダントを手に取って、私は玲にそう提案する。


「おー、いいな。明日計画立てて、提案してみるか」


「そうしよう。…私たちはきっと忘れないから」


 玲が同意してくれたのに嬉しくなって、私はにこっと笑う。そして、ペンダントに小さくそう言った。


 夏休み前に起きたこの事件。その解決に携わる中で、やっぱり能力というのが周りによくも悪くも影響を与えているのが分かった。…私の力は皆と少し違くて、理解者もいないけど、それでもこうして事件解決できるのだから良いと思ってる。


 私は葉山町の小さな名探偵。その中身はただの本の虫で、知識は本から貰ったもの。それでも、頼まれれば事件の解決や謎解きはいくらでもしよう。それが、私のできることだから。


「——よーし、これからも頑張るぞ!」


 私は帰り道だというのにそう言って、大きく手を上に突き出した。

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