第4話 町での調査

 心音の指示に従い、それぞれ班に分かれて町へと出ていく。


 心音の班は先生の周辺調査ということもあり、警察官の協力をまずは借りることになった。


「…まさか、この形で警察署に来ることになるとはね」


 心音はメンバーの彩夏たちと共に町の中心にある葉山町はやまちょう警察署へと足を運ぶ。その道中、心音はそんな言葉を口にした。


「確かにそうですね。本来なら、犯人が特定できた段階で来るものでしたでしょう」


 ぼやきに答えたのは彩夏。しかし、協力を仰げなければ意味はない。そういえば、警察の方はもう犯人に心当たりはあるのだろうか。


 そう言った話は警察官から聞いていない。まぁ、協力はできないという話は無かったからな。防犯カメラの映像などは見れると言っていたし、むしろ協力的だろう。


「そうなのよ…。まぁ、大体予測はついてるし。ここで決着がつけば明日にでももう一度来ることになるわ。で、3人は大丈夫?警察署に入りたくないって言うなら、一人で行ってくるけど」


 警察署独特の雰囲気というのは人を委縮させる。実際、3人は道挟んだ先だというのに足が止まってしまっている。そのため、心音はそう聞いた。親が警察官でよく解決のお手伝いをしていたからか、心音は何とも思わないらしい。


「だ、大丈夫です。私は行けます」


「私はオールオッケーです!むしろ、早く行きましょうよ。暑いです、ここ」


「ん。大丈夫」


 おどおどしつつもうなずいた彩夏はちゃんとそれ相応の反応をしている。結衣はワクワクしていて、透は何も思っていない様子だった。


 そんな3人の言葉に、心音はホッとため息をついた。


「そっか。良かった。それじゃあ、行こうか。一応、お父さんに今日行くという旨は伝えていたから、特に問題は無いと思うよ」


「それなら安心ですね。…彩夏先輩、一歩が小さすぎません?」


 心音の言葉に結衣はそう返す。そして、歩き出したところで結衣は彩夏の方を向いてそう言っていた。


 透に手を掴んでもらって歩いている彩夏は、一歩一歩が本当に小さい。透も苦笑いをしつつ、付き合っている。心音も結衣の言葉に後ろを振り向いて、頭を抱えてしまった。


「…彩夏、無理しなくていいからね?」


「だ、大丈夫です。気にしないでください、部長」


「いや、そういうわけにもいかないんだけど。手を貸してあげるわ、彩夏。はい」


 全然追いつかない彩夏に、心音は近くまで近寄ると左手を出した。恐る恐るつかんできたその手を握り返した心音は、駆け足で道を渡っていく。そんな2人を透と結衣は追いかけていった。


「——よし、着いたね。透、大丈夫?駆け足だったから、息上がっちゃった?」


「ん。…彩夏、水」


「あー、はいはい」


 入り口前で息を整えている透を待つ。彩夏はそんな透の世話を甲斐甲斐しくしている。そのおかげか、先ほどまでの緊張が薄れていっているような気がする。


「さて、入りましょうか」


 落ち着いた透を見て、心音は先頭に立って警察署へと入っていく。その後ろにピタッとくっついて3人も入っていった。


 中は意外ときれいできちんと受付が用意されていたりと、殺伐としているイメージがあったがそんなことを感じさせない。もしかして、今は特に問題が起きていないのだろうか。


「…おはようございます。大鳥心音です。今日は、鈴木すずき勇也ゆうやさんに用事があってきました」


「心音様ですね。鈴木さんからお話を伺っております。どうぞ、こちらへ」


「ありがとうございます」


 話を通しているとはいっても、受付にビビることなく言いに行く心音の度胸は凄い。長年の経験が、今の彼女を作っているのだろう。


 そして、鈴木勇也というのは、最初に話に来ていた若い警察官の事だ。あの時は名乗っていなかったはずだが、冬馬に聞いたのだろうか。にしても、スムーズすぎて少し疑ってしまいそうだ。


「鈴木さん、お客様ですよ」


 近くにある捜査課と書かれた看板の部屋を開け、受付嬢がそう声をかける。ゆっくりと立ち上がった彼は、そのまま入り口まで歩いてきた。


「あ、ありがとうございます。お迎えできなくてごめんなさい。冬馬さんからはお迎えに行くように言われていたんですけどね」


「お父さんにそう言われたわ。ひどいんだけど、鈴木さん」


「本当にごめんなさい。…準備は終わってます。入ってきてください。こっちです」


 謝った後、勇也は部屋に皆を通す。捜査課であれば人はいそうだが、一人も見当たらない。きょろきょろと辺りを見回していた結衣は、おそるおそるそのことを勇也に質問する。


「…あ、あの鈴木さん。捜査課っていうのはこんなに人がいないものなのですか?」


「いえいえ。そんなわけないですよ。ここは捜査課の会議室になりますから。ここを午前中に使う許可を貰っていたんです。あ、どうぞ。腰かけてください」


 結衣の質問にさらっとそう答えると、座るように促す。そこには8人分のコップとお茶請けになるお菓子たち。そして、モニターとそれに繋がっている一台のパソコンが用意されていた。


 もしかして、この準備に手間取っていたというのか。


「飲み物はここの冷蔵庫で冷やしておきました。麦茶でいいですかね?」


「うん、大丈夫だと思う。いいよね、3人とも。…って、透。手を出すの早すぎるんじゃないかしら」


 心音は勇也のその言葉に頷いた後、透の方に視線を移して呆れた声でそう言った。


 お菓子に手を出してモグモグとしている透は、その声にビクッとする。そして、慌ててお菓子を飲み込んだ。


「…ん。食べて良いって言ってた」


「読んだってことね。まぁ、いいわ。2人も食べたり飲んだりすると良いよ」


「うん。むしろ、食べてくれると嬉しいぐらいだから」


 お茶をそれぞれコップに注ぎつつ、勇也はそう言ってにこっと笑う。


「で、今日は話があると聞きましたが。もう犯人が分かったんですか?3日目ですよね?」


「目星は一応…。鈴木さん、一つ聞きたいんだけど。人の身辺調査ってできる?」 


 お茶を受け取ってメンバーに回しながら心音は勇也の言葉にそう返す。そして人数分のコップを受け取ったところで、心音はコップに口を付けた。

 

 麦茶にしては結構苦く、甘いお菓子たちだけが用意されている理由がよくわかった。心音は、さっとクッキーを一つ手に取りそれを食べる。


「人によりますね。流石に町長とかとなってくると、本人の許可が必要になるので」


「それじゃあ、葉山小学校の図書室の野井のい穂乃花ほのか先生を調べられそう?」


「…野井先生、ですね。調べられますよ。少々お待ちください」


 心音の質問にそう勇也は答える。そして、パソコンの前に座った勇也は、そのまま調べ始めた。その映像はモニターに映し出されるため、4人はお菓子を食べながらその様子を眺める。


「…これが家族の詳細ですね」


「あ、この弟の名前見たことありますよ。野井海人かいとさん。確か、最近よく聞くなんでも屋の人ですよね」


 すっと家系図を出して見せてくれる。その名前を目で追っていくと一人の有名な人の名前があった。彩夏はそれに一番に気付くと、そう話して心音の方を見る。


「なんでも屋…。情報統制…。一番怪しいって…」


 ぶつぶつとそう考え込んでしまう心音を見て、皆思わず黙ってしまった。透だけはお菓子を食べているが。


 しばらく考えた後、心音は顔を上げた。


「なんでも屋の能力については開示されてる?」


「今こちらでも調べてみましたが、特にそう言った話は無いですね」


「…じゃあ、一度接触を試みるしかないか。証拠が出揃った状態で会いたいし。…ありがと、鈴木さん。皆準備して。町に出るよ」


 心音はそう言って立ち上がる。勇也も慌てて立ち上がり、見送る準備を整える。


 急に言われた3人はドタバタと慌てつつ、何とか荷物をまとめて立ち上がった。


「それじゃあ、これで」


「はい。また何かあれば来てください。今日は特に予定はないはずなので、遠慮なく受付で僕の名前を出してください。対応します」


「分かりました」


 入口で見送られ、4人は警察署を後にする。ほぼ確定した状態で、集めたいのは証拠となるもの。情報だけでなく、できれば写真や録音なんかのデータも手に入れたいところだ。


 歩きながら、心音は3人に今考えているプランを説明する。


「とりあえず、聞き込みしているメンバーとの合流をしたいかな。そして、町で学校と関わりのある私たちの知っている人たちに、先生となんでも屋について聞き込みをするわ」


「先生も、ですか?」


 心音の話に結衣が首を傾げ、そう聞いた。さっきまでの心音の様子を見ればそう思ってしまうだろう。


「えぇ。だって、なんでも屋がわざわざで秋華ちゃんの殺害に及ぶ必要は無いはずだから。そして、嫌っていたのだと他の先生は言っていたのよ。なら、何かあるに決まってるわ」


 結衣の質問にそう答えると、心音は町の中心地である商店街の手前で足を止めた。実は警察署と商店街はそこまで遠くない。道を挟んだ向かい側である。


 町の人たちに聞き込みをしているのだとしたら、商店街にいる可能性は高いだろう。それに、商店街なら情報はいくらでも流れている。


「なるほど。でしたら合流が先ですけど、どこにいるのか分かるんですか?」


「…ん?いるじゃん。そこに」


「…え?」


 彩夏のその疑問に、商店街の方を指さした心音はそう返す。彩夏はその指がさしている方へと視線を動かした。


 そこには、聞き込みを行っている3人の姿があった。


「じゃあ、行きましょう」


「あ、はい」


 離れたり見失う前に合流をしなければならない。心音たちは商店街の方へと歩いて行った。


 商店街は一昔前の賑わいを見せているようだった。最近はシャッター街になっていたりして、活性化している商店街は珍しいだろうに、流石というべきだろうか。その人混みをかき分けて、去っていく3人の後をついていく。


 人混みが落ち着いたところで、心音が玲の名前を呼んだ。


「…玲」


「お、心音か。どうしたんだ?」


 心音に名前を呼ばれた玲は2人を止めた後、後ろを振り向いてそう聞く。


「かなりいい情報が入手できてね。とりあえず、合流が先だと思ってここまで来たんだけど」


「お、そうか。じゃあ、午後に話そうと思っていた収穫を今話しておくわ」


「え、本当?それは結構ありがたいかも」


 心音のその答えに対し、玲はそう提案してくる。心音はその提案に食いつき、ぐいぐいと玲に迫っていく。その首根っこを、呆れた表情で明音が掴んで抑えた。


「はい。猛獣は抑えたから、話してやって」


 明音はそのまま玲に話をするように声をかける。玲はその様子を見て話始めた。


「ありがとうな、明音。まず、資料にもあった話が多かった。後、その一週間前ぐらいから、なんでも屋がうろうろしていたらしい。この話は警察にはしておらず、完全に噂話となっていたらしい」


 玲のその話に心音は目を輝かせる。他の人たちもそんな情報が手に入るのってぐらいに驚いた表情を浮かべた。


 明音も「そういえば…」と何かを思い出したのか、心音に話す。


「それから、興味深い話なんだけど。あのビルに入っていく姿を一度見たらしいよ。警察にも話して監視カメラのチェックはきっとしてあるって。…それ、あんたが持っていた写真にそんなのなかった?」


 そうして明音が指さしたのは、ちょうど学校の裏側に位置するビル。そのビルには全員が見覚えある。そう、話をしてくれた時に勇也が持ってきた写真に写っているのだ。つまり、確実にあのビルに何かあるということである。


「あったね。見覚えあるもん。…確定、か。そこら辺の話も聞きたかったけど、先に聞き出してくれていたのは良い誤算かも」


「お、本当か。それじゃあ、10時過ぎていることだし、心音の家に集まって推理の時間か?」


「うん。そうしようか」


 心音はそう言ってすごくいい笑みを浮かべる。その反応に、玲も嬉しそうに笑顔を浮かべていた。そして、2人はそう言ってメンバーの方を見る。


「お昼まであと1時間ちょっと。その間に答えを出そう。というより、証拠集め。かな」


「おけ。気合い入れてくぞ、お前ら!」


「「おー!!」」 


 玲の声がけに結衣と秋斗の4年生コンビが腕を上に突き上げて、声を張り上げる。その様子を見た彩夏と透は目を合わせて一つ頷いた。


 そんなメンバーたちは商店街を抜け、心音の家に向かった。


ー大鳥家ー

「さて、飲み物の準備は整ったし。早速だけど、ノートにまとめていくよ」


「時系列でまとめた方がいいな。はいよ、これ」


 心音の部屋にある机を7人で囲み、話し合いが始まる。しかし、7人も居ると狭いな。


 その最初に、玲は商店街で1時間かけて聞いた内容をメモしたノートを渡す。それを見て、重要な部分を書き写していく。


「…なるほど。一週間前から、あのビルを出入りしたりしていたと。他にも、学校に入っていく姿を見た人も居たんだ」


「写真、全部で何枚あったんだっけ」


「数えたけど、10枚。それぞれ証言と一致してた」


 書きながら、明音の質問に心音が答える。そして、その手を止めると、引き出しからその写真を出して机に並べた。


「これがそう。…で、その後に実際に殺害があって。その位置がこの写真とこの写真なんだけど。人影がないんだよね」


「でも、これは確定していると見ていいと思います。部長、なんでも屋の彼と出会えれば能力が分かるんですよね」


「えぇ。出会えれば、だけどね」


 話しながら、その写真を指さしていく。その話を聞いて、彩夏は心音にそう聞いた。心音はその質問に頷く。


「それなら、すぐだと思います。この写真が証拠です。…警察署にもう一度行きませんか?この事件当時の映像を見させてもらうのです」


「…え、でも。これは何も映っていないんだよ?情報統制の一種だと思うんだけど」


 写真を一枚手に取ると、彩夏はそう心音に提案をした。心音はそれは無理じゃないかと否定をするが、彩夏は首を横にブンブンと振る。


「隠しているだけです。明音先輩の能力があれば、復元は可能なはずですよ」


 彩夏の言葉に全員の視線が明音に集まる。そういえば、明音の能力は現場再現だったな。見たものだけではなく、映像があればそれをリアルに映し出すことが出来たりするものだ。それを使えば、情報統制の能力を上回れるかもしれないということか。


「…で、できないことは無いと思うけど。でも、私は使いこなせてないんだよ?」


「ならば、練習も兼ねてやりましょう。逃げてその能力を枯らすよりかはマシですよ」


 彩夏の提案に対し、明音は自信なさげにそう伝える。しかし、彩夏はそう言って逃がそうとしない。


「そうね。明音に頼ることになるとは思わなかったけど。お願いできる?明音」


「…うっ。心音がそう言うのなら、やってもいいけど」


「ありがとう!それじゃあ、一旦解散しましょう。午後1時、警察署前集合で」


 首を縦に振った明音の手を握って心音はにこっと笑った。そして、メンバーにそう話す。


 全員頷くと皆一旦自宅へと帰る。そろそろお昼の時間だからだ。時間はそこまでない。休みが明けてしまえば行動できる時間は少なくなってしまう。


「さて…。話が証言に繋がるとは思えないし、物的証拠が一番欲しいよね。警察署で映像が確認できれば、その時点で犯人たちを呼んでもらうことができる。…でも、一番の気がかりは図書室の先生の動機が未だに分からないこと」


 ノートの別ページに口にした言葉を文字に起こしていく。その作業を進めた後、心音は昨日と一昨日に先生から聞いた話をまとめたノートを手に取った。


 そこにはこんな話を聞いたなどのそんな先生同士の他愛のない話が書かれている。


「…あ、これそれぞれの話の裏が取れている。良かった、うまく聞き出せたみたい」


 ノートをペラペラとめくって読み進め、心音はホッとした一言をつぶやいた。


 そして、それとさっきまでのメモをまとめたノートを手提げバッグにしまう。心音はそのバッグを手に持って、階段を下りていった。


「…お母さん、お昼何?」


 台所で何か料理を作っている母親に、心音は声をかける。


「んー?もうできてるわよ。はい、カレー」


「…カレー?あ、本当だ。凄いおいしそう」


 台所から出てきて、母親は用意しておいたカレーライスを机の上に置いた。そのカレーを見て、心音はそう明るい声を発する。カレーは皆大好きだな。嫌い奴はほとんどいない気がする。


「もうお昼の時間だし、食べましょう。にしても、休みの日なのにお父さんが仕事とはね。心音もお父さんがいた方が安心でしょうに」


 食卓に着いた母親がそんな言葉を口にする。しかし、心音はその言葉に頷くわけではなく、首を横に振った。


「ううん。そんなことないよ。だって、仲間がいるんだもん。それに、秋華ちゃんのためでもあるから」


「…そっか。ごめんね、杞憂だったみたい。…それじゃあ、しっかりと解決してくるのよ」


「ありがと、お母さん。大丈夫、もう犯人は分かってるし。それに、小学生名探偵、なんだから!」


 心音の力強い言葉に、母親はそう言って心音の頭を撫でた。そのなでなでに心音は素直に甘えていた。


ー午後ー

 お昼ご飯を食べ終えた心音はササっと歯磨きを済ませ、家を出ていく。待ち合わせの時間は1時。家から警察署までは15分以上はかかるため、かなりギリギリなのである。


 その道中で先を歩いていた玲と心音は合流した。


「…あ、玲。良かったぁ。最後じゃないみたい」


「会って早々にそんなこと言わないでくれ」


「あはは。ごめんごめん。最後じゃなかったことに安心しちゃってさ」


 心音の言葉に不機嫌そうにそう返す玲。そんな玲に素直に謝った後、心音と玲は一緒に歩き始めた。


「で、もうほとんど犯人は分かってるんだろ?というか、証拠が揃ったとみるべきか」


「うん。そうだね。警察も、犯人に目星はついてるんだと思う。ただ、確証が無くて逮捕に至っていないだけじゃないかな」


 この後の事について2人は話す。心音の推測は大体当たるが、その分警察からしたら証拠が欲しいところなのだ。だからこそ、能力者であると公言している彼らに頼ることにしたのだろう。


 探偵部のメンバーはそれぞれ能力の扱いがうまく、その実力については周りからのお墨付きである。


「まぁ、そこが分からないと何とも言えないもんか」


「そうそう。あ、でも。動機が分からないという部分もあったんじゃないかな」


「動機か。ったく、どんな理由であったとしも、許せる気はしないな」


「それは同感。あ、皆もう集まってるね」


 気付けば2人は警察署の前に来ていた。そして、その入り口付近にはメンバー全員が待っている。2人は慌てるように皆の所に駆け寄った。


「ごめんごめん。待たせた?」


「大丈夫。皆さっき来たところだから。で、心音。準備はオーケー?」


「もちろん、明音も大丈夫…そうだね。よし、行きましょうか」


 覚悟を決めたのか、明音の瞳にはさっきの迷いや不安が一切見えない。その明音の確認に、心音はコクっと頷いた。


「——あれ、探偵部の皆じゃないですか」


「鈴木さん。もしかして、お昼を…?」


「あ、はい。今戻ってきたところですが、タイミングちょうど良かったですかね。それで、どうして警察署に?」


 警察署に入ろうとしたところで勇也に声をかけられる。軽装で特に何か仕事があるという雰囲気は無い。心音はくるっと後ろを振り向くと、勇也に一つ聞く。それに頷いた勇也は、なぜいるのかと質問をした。それは当然だろう。


「監視カメラの映像を確認したくて。後、それが終わったら呼んでほしい人が2人いるんだよね。それで、警察署にまた来たってわけ」


「なるほど。分かりました。それでは、用意をしますね。入って待っていてください」


「分かった。ありがとうね、鈴木さん」


 心音の返事に頷いて案内をしてくれる勇也に、にこっと笑ってそう感謝を心音は伝えた。少し、勇也の耳が赤くなったように見えたが…。歳の差がきついぞ。


「…へぇ、これが警察署の中…」


「凄いよな。で、ここは?」

 

 案内された会議室を見て、玲が勇也にそう聞く。中に入りつつ、勇也はその質問に答えてくれた。


「会議室です。一応、使用許可を貰ってきますね。今日一日使用する用事は無いはずですが…。その間待っていてください。すぐに行ってきますから」


「——それじゃあ、私が相手してあげる。しっかりと準備をしてきなさい」


「あ、ありがとうございます。美羽さん」


 子供たちで待たせるわけにはいかないのか、勇也は少し不安そうにそんな言葉を発する。そんな勇也に答えたのは、美羽だった。


 探偵部のメンバーは勇也の言った美羽という言葉に反応する。


「…美羽…さん?あ、もしかして写真をくれた人ですか?」


「あら、覚えていてくれたのね。黙るように言っておいた約束を破れるぐらいだから、本当に信頼できる子たちなのね」


「わわっ?!」


 心音のその確認に美羽は凄いうれしそうな表情を浮かべると、そのまま心音に抱き着いた。心音は力で敵うわけなく、あきらめて抱かれている。


「…で、美羽さんは男の人なんですか?」


「そうよ?体は男で中身は女の人なの。気にしないで、さん付けで呼んでもらえれば大丈夫だからね」


 心音に抱き着いたままの美羽に、ストレートにそう聞いたのは彩夏だった。どうやら、何か思うところがあるらしい。


 そんな彩夏の質問に美羽はにこっと微笑んでそう返す。そのままウインクをパチっと決めると、心音から体を離した。


「さて、改めて自己紹介ね。私の名前は、久保田美羽。これでも男として生きてるの。別に男として扱われても文句は無いわ。警察署では能力を生かして、証拠集めの補佐をよくしてるわ。あ、私の能力は勘がよく働くタイプのものでね。皆に調べてもらう必要はあるけど、大体当たりを引けるのよ」


 きちっと立った美羽は自己紹介をする。「凄いよねー」と呑気な発言をしているところから、能力について完全に把握できているわけではないだろう。


 そういえば、ずっと心音は美羽と接触していたが…。何の能力か分かったのだろうか。


「勘が働くというわけではないと思いますよ。おそらく、美羽さんの能力は状況把握だと思います。まぁ、情報操作関連ではないですね」


 危惧していた情報関連の能力ではないことを付け足して、心音はそう言った。


「あら、分かるの?」


「接触した時点で把握しましたから。あ、戻ってきましたね」


 きょとんと首をかしげる美羽にそう答えて、心音は入り口の方へ視線を動かす。


 そこにはパソコンを抱えて入ってきた勇也の姿があった。


「お待たせしました。えっと、防犯カメラの映像でしたよね?」


「はい。この写真を取った映像を24時間分を…」


 机に荷物を置いて、勇也とそう言って見ていくカメラの映像を選別していく。その様子を見て、美羽が首を傾げた。


「カメラの映像には何も映っていなかったわよ?わざわざ見るの?」


「そうですね。美羽さんの渡してきた写真は、この状況に何かがあると把握できているから、渡してきたものではないんですか?」


「そ、それはそうだけど」


「じゃあ、大丈夫です。明音、お願いね。流して、鈴木さん」


 美羽の質問にそう言って、心音は明音と勇也それぞれに頼み、自分自身は勇也から離れる。そして、メンバーと一緒にモニターが見やすいところへと移動した。


 納得できていない美羽を横目に、勇也が映像を再生した。


「…何も映らない」


 かなりの倍速をかけ、24時間分の映像が流れる。しかし、本当に何もない。


 一周が終わったところで、明音が能力を発動させた。


「使うよ、能力。うまくいくか分からないけど」


 流れていく映像にさざ波が発生する。その次の瞬間、さっき見たときにはなかったはずの人影が現れた。


 心音はその瞬間、勇也に声をかけた。


「あっ!鈴木さん、映像少し巻き戻して止めて!」


「わ、分かりました」


 微調整を重ねて、その瞬間の映像が映し出される。それを見て、心音は確信する。


「…やっぱりそうだ。倍速なしにして再生して、鈴木さん」


「分かりました。再生しますね」


「これ、完全に心音の予想通りか」


「えぇ…。確定した…」


 確たる証拠になるこの映像。明音がかなり頑張って解除してくれたということは、疲弊しきっている明音を見れば一目瞭然いちもくりょうぜんだ。


 心音はその再生された映像を見て、確定したと言葉をこぼすした。それから、別角度の映像もセットで解除してもらい、決定的瞬間を勇也に頼んで現像してもらう。


「す、すごいわね…。あの写真から予測して、こうしてやって…」


「た、大変ですよ。結構強力な力が加わっていたので、何とかうまくいってよかったですけど…。心音、これで大丈夫?現場再現をぶつけて情報統制解除させたけど」


「ありがとう、明音。椅子に座って休んでてね」


 何とか喋れるまでに回復した明音は美羽の呆れた言葉にそう返して、心音に確認を取る。心音は大丈夫だと伝えて、明音の手を取って椅子に座ってもらった。


「…さて、証拠は集まったし。ボイスレコーダーもあるわけで、後は証拠を叩きつければおしまい。かな」


「名探偵の推理の時間だな」


 自分たちも椅子に座り、心音はそう言ってポケットからレコーダーを取り出す。その心音の言葉に、玲はそう言った。

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