第3話 聞き込み

「情報収集、ですか」


 心音の頼みに、彩夏はそう返す。昨日の話の流れなら察しがつくような気はするが、彩夏は一つ心音に聞いた。


「別に構いませんが、特に何の情報が欲しいんですか?」


「あ、そうね」


 彩夏にそう聞かれた心音は、あっとなる。どうやら盲点だったらしい。


「簡単に言えば、噂でもいいから図書室のあの日の前から、何かあったかどうかを聞きたいの。聞き込みの情報収集は2人には大変かもしれないけど…」


 目撃情報以外に、噂というのは馬鹿に出来ないほど有益なものが混ざっていることがある。心音は、その噂話を聞きたいと考えている。まぁ、目撃情報や監視カメラの類は警察が調べ切っているとみていいだろうからな。


「噂なら私が集めれますね。透には能力を使ってもらえれば…情報は簡単に集まると思います。とりあえず、放課後に部長の所に行きますね。透、早速活動開始だよ」


「…ん」


「ありがとう。それじゃあ、よろしくね」


 彩夏と透にそう伝えて、心音は教室へ戻っていく。その後ろ姿を見送って、彩夏は透と顔を見合わせる。そして、周りにいる人たちに早速声をかけ始めた。


 しかし、中々いい情報は手に入らない。


「あれ、結局病死だったんでしょ?本の虫だったからじゃないの?」


「特に知らないな。こういうのは6年の方が詳しいんじゃないのか」


 そこまで聞いたところで休み時間が終わってしまった。次は昼休みだと考えて、彩夏は透と別れて教室に戻る。


 落ち込んだ様子で授業の準備をする彩夏に、前の席の森田もりた美咲みさきが声をかけた。


「お疲れだねー。あんなに頑張って話を聞いて。…そうだ、何を聞いてたの?部活関連?」


「うん。図書室での事件について、調べてて。でも、やっぱり何も手掛かりはなくてさ」


「そっか。…あ、うちのグループの子たちから聞いた話あるよ」


「え、本当?!」


 美咲の言葉に彩夏は食いつく。美咲はその勢いに少し戸惑いつつ、彩夏に自分の認識と一緒かを確認するように、一応聞いてみる。


「う、うん。だって、図書委員長がいじめられていたときの事件でしょ?」


「え、いじめ…?」


 彩夏は少し驚いた表情を浮かべた。だって、表向きは病死だ。いじめならば、それによる死亡が考えられる。しかし、警察官は聞いていなかったのか、またその様子が見られなかったのか。判断できなかったことになる。


 美咲は彩夏の反応に首をかしげて、話してくれた。


「あれ、その話無かったっけ。聞いただけだから、信じられるものじゃないけど。6年生の先輩の中に、グループでいじめている人たちがいたんだって。それと、あんまり図書室の先生も委員長に対する当たり方は良いものじゃなかったって」


「…特に聞いたことは無いかな」


 その話を聞いてもピンとは来ないが、中々いい情報である。彩夏はノートの端にその話を要約して、きれいにまとめる。その部分をちぎると、筆箱へとその紙切れをしまった。


「にしても、こんないい情報が拾えるとは…」


「私たちは警察からの事情聴取は無かったからね。6年生や先生たちは聞かれていたらしいけど、その時に話があったとしてもいじめによって死んだわけじゃなければ、こんな話は表に一生出ないもん」


「そっか…。ありがと」


「いえいえ」


 5年生は6年生と特に関わる機会が多い。高学年に入って始まる委員会活動や部活動などが、特に影響を与えている。そのため、こういった類の噂なんかも5年生は耳にするのだろう。特に、美咲がまとめているグループのメンバーは、そういう噂を集めるのが得意な面を持っている。


 教室に先生が来たこともあり、そこで話を終わらせた。


ー一方、玲の方はー

「お、いたいた。サンキューな、結衣」


「秋斗は見つけずらいので」


「全くだ」


 4年生の教室まで来たのは良いが、玲は秋斗を見つけるのに苦戦していた。校庭に姿はないが、体育館まで行くのは時間がない。そこで、結衣に手伝ってもらったのだ。


 秋斗がいたのは、廊下の窓の所。窓を開けてそこに腰かけているのだ。秋斗は恐怖を感じずらいとはいえ、アクロバティックなところにいるものである。玲も流石に少し引きつつ、窓際まで行くと秋斗を抱えて廊下まで連れ戻した。


「…秋斗。危険な真似はしないでくれ」


 降ろした後、玲は頭を抱えてそう秋斗に伝える。実際、さっき声をかけていれば落ちていただろう。そのため、先に抱きかかえたのだ。


 秋斗はしばらくぽかんとしていたが、その後素直にうなずく。その様子を見て玲は頭を撫でていた。そして、そのまま地面に降ろした。


「で、結衣と秋斗に部長から伝言を預かってきた。図書室での事件について噂でも構わないから、関係ありそうな話を集めてほしい」


「それを言いに来たんですか?こっちの校舎まで?」


「それ以外に用事は無いしな」


 玲の伝えたことに対し、結衣は思わずそう返していた。最近は小学生もスマホを持ち、タブレットで授業を受けているとニュースで見ることがある。しかし、この町はそんなことをしていない。タブレットを買うお金も、環境を整えるだけの行政力があるというのに、だ。


 それは完全にこの町ががおかしいからである。この町の中にいればそれは分からない様になっているのだ。外に出た人はなんとなく察しがつくが、中に入ってしまえば、それすら忘れてしまう。…本当にバカバカしい話だ…。


「分かりました。それぐらいなら、私でもなんとかなります。秋斗が1組と2組担当すれば、この時間中にでも全員に話聞ける…か。最悪、能力使えばいいし」


「面倒なことにならないように注意しろよ。じゃあ、俺はこれで帰る」


「でしたら、放課後に一度話に行きますね」


「おうよ。部長にも話通しておくわ」


 そう言葉を交わして、ササっと玲は6年生のクラスへと帰る。ちなみに渡り廊下は一階にしかなく、一回降りなければいけないようになっている。まぁ、文句はよく出ているから、今度工事をするとかしないとかの話はあるらしい。噂程度だが。


「図書室の事件だと直接言って聞くわけにはいかないよね。4月になってからの噂?それとも、去年に遡った方が良いと思う?」


 玲に対し一言も声を発さなかった秋斗は、そう結衣に聞く。


「うん。ここ数か月で何か気になる話は無かったか、聞いていこう。手分けして」


「分かった。それじゃあ、聞いてくる」


 結衣の言葉にうなずくと、秋斗は教室の方へと歩いて行った。その後ろ姿を見て軽くため息をつくと、結衣は廊下に出て遊んでいる同級生に声を掛けていく。


「ここ最近だと、やっぱり委員長じゃね?あー、そういえばいじめられていたとか言っていたな」


「図書室の先生はいつもあまりいい顔していなかったっていうのは覚えているかな」


 無邪気な4年生らしく、色々と出てくる。5年生の所とは全然違う。そのまま、結衣は聞き込みを続けていると、担任の先生がやってきた。


「おー、何をしてるんだー?白里」


「あ、先生。先生はここ数か月の間で、何か気になる話はありませんか?…というか、授業までまだ時間ありますよ」


 声を掛けられた結衣は、先生にそう聞く。先生はその質問に気軽に答えてくれた。


「図書室の先生の愚痴は、飲み会とかでよく聞かされていたぜ。一昨年ぐらいからなんだけど、図書室が暇だって。子供たちはあまり借りに来ないし、なのに一人の子供が熱心に委員会活動するもんだから、サボるにもサボれないってな」


 さらっと、そんな話をして笑いながら教室へと入っていく。そんな先生を見て結衣は驚いた表情を浮かべた。そして、何か考え事をする。


「(ふむふむ。なるほど。これは、先生に狙いを絞った方がいいかも。他のクラスの先生からも話を聞けたりしないかな)」


 同級生たちからも手に入れられるが、おそらくそのほとんどは5年生の聞き込みと何ら変わりないだろう。いつの間に持っていたメモ帳を開いて書き込むと、結衣は隣の教室をのぞきに行く。そこには授業の準備をしている3組の担任の姿があった。


 結衣は早速聞きに行こうとして、その足を止めた。時計の針が休み時間の終わる5分前を指している。この時間では聞いている途中で鐘が鳴る可能性もある。流石に遅れるわけにもいかないため、結衣は踵を返して教室へ戻っていった。


「(時間があればと思ったけど…。昼休みかな)」


 席に戻って準備をしつつ、結衣はそんなことをぼんやりと考えていた。


ー放課後ー

 5年生と4年生がそれぞれ聞き込みした内容を聞かせてくれるという話だったため、心音と玲は部室で皆が来るのを待つことにした。


「こっちでもそれなりに話は聞き出せたけど、やっぱり先生っていうのは偉大だったね。探偵部だから、事情を知ってくれているし。私たちに聞かせてもいい内容ではあるにしても、その話を聞かせてくれた」


「だな。これだけ聞き出せたのはありがたい。一日目は苦戦すると思ったが」


「そこは今までの活動の賜物だね。頑張ってきてよかったー」


 待ち時間に2人はそんなことを話す。どうやら、6年生もいい情報が手に入ったらしい。そうして、聞いた内容を精査しているところに、遅れて明音が入ってくる。


「ごめん。ちょっと先生に頼まれた仕事してた」


 慌てていたのか、明音は息を整えつつ、そう2人に伝える。心音はその明音を支えるようにして、椅子に座らせた。


「お疲れ様。先生に捕まったの見たよ。流石、クラスリーダーだね」


「ただの雑用係だよ。で、後輩たちはまだ集まっていないの?話に来るって言ってたんでしょ?」


「そうなんだけどね。もう少し、待ってみようよ。さっきこっちも帰りの会が終わったばかりだし」


 少しイライラした様子の明音に苦笑いを浮かべつつ、心音はそう言ってなだめる。


「それもそうか。…あ、お疲れ様。結衣に秋斗」


 明音は後ろから聞こえるドアの音に反応して、ぐるっと後ろを振り向く。そして、入ってきた4年生組に声を掛けた。


 その切り替え具合に呆れつつ、心音も後から2人ににこっと笑いかける。


「お疲れ、2人とも。…表情がいいね。もしかして、早速情報手に入れてきた?」


「もちろんです!私の力を舐めないで下さい!」


 胸を思いっきり叩きつつ、心音の質問に結衣はそう答えた。その様子に、心音は優しい笑みに切り替える。


「そっか。それなら良かった。今は5年生を待っているところだから、来たら聞かせてもらうね」


「分かりました!」


 心音の言葉に、元気に頷く結衣。後ろにいる秋斗もこくっと頷く。


「でも、今回みんな食いついてきた」


「あー、確かに。こういう話でしょ?みたいなことはみんな言ってきましたね。やはり、秋華先輩って影響凄かったんだと、改めて実感しました」


 秋斗の言葉に、結衣もそうだったよねーと返す。その言葉に、6年生の3人は顔を見合わせていた。


 どうやら、2人の話に思い当たる節があるらしい。


「…それなら、私たちの所もそんな感じだったよね。明音の方は?」


 心音は玲と頷きあって、そう明音に聞く。明音はその質問に一つ首を縦に振った。


「確かに、皆気前が良かったと思う。まぁ、信頼の裏返しとしかとらえてなかったけど。今思えば、怪しい部分も多いかも」


「——今更、ですか。今回のは最初の時点で怪しかったです。ね、透」


「ん」


 明音のその発言に対し、そう呆れた声を発したのは彩夏。どうやら、今ちょうど来れたところらしく、後ろで透が息切れしている様子が見える。彩夏は体力があるらしい。真逆だな。


「最初…。そういえば、心を読んだ透からの手紙に違和感あったわね…」


「読めるには読めた。ただ、いつもなら深層心理まで行けるはずなのに、上っ面しか聞こえない。調査も、聞こえないから嘘か本当かの判別はつかなかった」


 喋らないことで有名な透が、そう話す。心音はその言葉を聞いて、何かを考える。情報の精査は一番は透にやってほしいと思っていたため、こうなると何を信じればいいのか。


 心音は心の読めていない透を心配する表情をしつつ、持ってきていてた写真を取り出していた。


「となると、信用できるのはこの写真だけか」


「そうなりますね。警察官さんも信用しきれませんが、この写真を渡してきた美羽さんは私たち全員知りませんから」


「…分かった。とりあえず、聞いてきた情報を全部出そう。そしたら、そこからかぶっている情報に絞り込むわよ。で、明日からは本格的に現地調査を含めて行動を起こすとしましょうか」


 ひとまず今の懸念点を棚に上げ、心音はみんなから調査報告を聞いていく。そしてその要点を一枚一枚付箋に書いて、机に張り付けていった。こうすることで、区別もしやすくなるし、情報が一目で分かるようになる。


「んー、分かりやすいな。これは」


 7人でその机を囲み、心音はそんな言葉をこぼす。色々な話を聞いて見えてきたのは、図書室の先生が秋華を嫌っていたという事実。そして、6年生のグループによるいじめ。は、心音には心当たりがあった。


「6年生のグループによるいじめの話は、部活に入っている人たちの間でしばらく噂になっていたやつだね。…明音、6年生に入ってから今までの数か月間の間で、秋華にしていたいじめは?」


「そこまでひどいものではないはず。というか、嫌いではあったけどさ。いじめに関しては私は特に知らないよ。…まぁ、私の友達たちがやっていたものではあるけど」


 心音の質問に明音はそう答える。この言い方だと、秋華は信頼もあった分、敵も作りやすい環境に身を置いていたんだろう。特に、人気のある人というのは他から敵視されやすい。


 図書委員としての活動や、本人の能力による圧倒的な知識量。それは信頼されて役に立てる分、そこに嫉妬する人は現れることに繋がる。


「でも、あの事件の一か月前には忠告を受けてて、その後からいじめはしていなかったよ。グループでのいじめは、無視したり冷たく扱う程度。暴力とかそういうことに繋がるいじめではない。ま、私の見てないところで何かしてたら、知らないね」


 明音の言葉に全員考え込んでしまう。明音自身も秋華が嫌いだと言っていた。しかし、問題児扱いされることもある明音の事だ。わきまえてはいるだろう。


「ありがと。別に怪しんでいるわけじゃないんだ。だって、この学校には私たち探偵部と秋華以外に能力を持つ人はいない。だから、外傷無く人を殺せるとは思えないんだよね。…となると外部…図書室の先生が現状一番怪しいか」


 傷の状態からして治療していてもおかしくない。しかし、そんな人はこの学校に居ない。心音が言うのだから、嘘ではないだろう。


「本人にも嫌う理由がちゃんとあるっぽいのは、他の先生から聞いたもんな。本人に能力がなければ、協力者という線が濃厚か」


「うん。次は、町での聞き込みだよ。今日はとりあえずここで解散。明後日は休みだから、その日の朝に学校前集合。時間は9時頃でいいかな」


 玲はそう言って、心音はそんな玲の言葉に頷く。そして、メンバーにそう伝えた。時間的にも6時完全下校なため、早めに帰らなければならない。昨日の話はそれぞれの家庭に伝えられているから、少し遅くても特に問題は無いんだがな。


「分かりました。明日は特に動かなくていい、ということですか?」


「…んー、そうだね」


 解散という言葉を聞いて、結衣がそう心音に質問する。片付けていた心音は悩みつつ、皆にそれぞれ先生の名前を書いたメモを渡した。


「やる気があるようで何より。それじゃあ、それぞれそこに書いてある先生に話を聞いてきて。きっと、この感じで行くと図書室の先生と仲の良い先生が何かしら知っているだろうから」


 心音はにこっと笑って、全員にそう告げた。本来なら数日かけて一人でやる予定だったのだろうか。やる気があるというよりかは、一日空くのが単純に落ち着かないだけだと思うけど。


 とにかく、渡されたメモをそれぞれ確認する。一応関わりのある先生にそれぞれ焦点を当ててあるらしく、特に問題は無い。


「…これ、大変じゃ?」


「明日、できる限りでいいよ。聞けてない先生には、来週のうちに私が聞きに行くから」


「はぁ、分かった。全員、いいな?明日は本気で取り掛かれ。時間を有効活用しろよ」


「「了解!」」


 引いたような呆れたような明音の発言に、心音はそう言った。どうやら、本気で一人でやるつもりだったらしい。


 その心音に対し、玲が一つため息をつく。そして、メンバーにそう声をかけた。その言葉に全員が応える。


「それじゃあ、解散だ。帰るぞ、心音。今日は休めよ」


「はーい。善処するね」


 メンバー全員が出ていく後ろ姿を見送りつつ、部室の戸締りをする心音。そんな心音に、玲は心配な言葉をかける。しかし、心音はヘラっとしたまま、気にすることは無いというかのように気の抜けた返事をした。


「まぁ、でも。まだ情報は足りないし、先生たちの話は信ぴょう性を高めるために必要なだけ。これ以上の情報が出てくるとは思えないからね」


「それは…。勘、か?」


「ううん。能力者が情報統制を学校で行っているから。確定している事実だよ、これは」


 歩きつつ、心音はそんなことをさらっと告げる。玲はその言葉に驚きを隠せない。予測ではなく事実。そして、情報関連に触れられる能力者は実際発表している中には3人もいる。絞り込めるかといえば難しい話になるだろう。


 にしても、そこまで一瞬でたどり着くとはな。


「情報…統制。か」


「そうなるねー。ここまでの干渉となれば、結衣の魅了では限界があるんだけど。美羽さんも黙ってもらおうと思えばできてはいた。でも、確証が無いから何とも言えないんだよね。…まぁ、一番怪しいのはなんでも屋、なんだけど…。接触したことは無いから、ここまで出来るのかどうかは把握できていないんだよ」


 そう言う心音がどこまで見ているのか。まるで全て見透かしているような発言をする。玲はそれには何も言わない。


「それに、確証があると言っても能力の気配がしているから、なんだよね。こんなの完全に私の感覚だから、信じられるものではない。だからこそ、確証を持てればいいんだけど、それは難しいかな」


「難しいのか?」


 続けてそう話した心音に玲はそう聞き返していた。


「だって、私は自分の能力を把握できていない。それに、本人が否定すればそれまで。だから、物的証拠である確証が欲しい」


「なるほどな。確かにそれは難題だ。だが、犯人であれば話は別だろ?」


 心音のその否定的な発言に、玲はそんなことを言い返す。


 学校を出て通学路を歩きつつ、2人は話を続ける。


「それは…そうだけど…。だって、犯人という証拠がつかめなければ、それまででしょ?」


 玲のその言葉を否定するような、心音の発言。まるで、自分を卑下しているかのような態度を取っている。そんな心音の肩をポンとたたくと、玲は心音にこう言った。


「んなもん、事件の調査を邪魔してるんだ。そんなの、都合が悪いと踏んでいるからだろ?なら、犯人ではなかったとしても、協力者ということになるんじゃねぇの」


「…っ!」


 玲の言葉は的を得ている。そして、心音の不安を取り除くような言い方。幼馴染としてまだ短い付き合いではあるものの、よく性格を知っているということだろう。


 そんな玲の話に心音は一瞬目が揺れ動いていた。分かっていたんだろう。しかし、心音はそれがどれだけ大変なのかも知っている。それに、それがはずれを引く場合もあることを。だからこそ、確証が欲しいと。逃がさないような証拠が欲しいということを言いたかったんだろうな。


「…分かってるんじゃん。確かに、お前は失敗もしてきている。怖いのも分かる。だけどさ、お前言っていただろ」


「な、何を?」


 玲はとどめを刺すようにそう言い放った。動揺しつつ心音は聞き返す。


「自分を知りたい。そして、町の謎を解き明かすんだって」


「うん、それは言った」


「だけど、それ以上にお前は名探偵としての自分に誇りを持っている奴だ。だったらここでクヨクヨすんなよ。俺たち探偵部のメンバーは、部長であるお前が頼りなんだ。日和るなよ、心音」


 玲はそう言って、カッコつける。そんな玲に心音はくすっと笑っていた。


 そして玲の目をしっかりととらえる。まだ少し迷いが見える瞳には、その分強い意志が見える。そして、心音はこう言った。


「…分かったわ。玲、あなたの言葉を信じる。だって、私にはあなたたちがついているんでしょ?」


「もちろんだ。卒業した後も、仕事に就くまではきっと皆と一緒に探偵してるかもな」


「だったら、もう迷っていられないね。玲、明後日のうちに謎、解き明かすよ。ヒントは大量にもらえてるんだ。聞きたい内容も絞り込めているしね」


 本調子に戻ったのか、心音はそう話し始めていた。そんな心音に玲は安心した表情を浮かべた。


 もう家の前に着くというのに、2人の話は終わらない。


「…で、この情報さえ…」


「——いつまで、話しているの?」


「…お、お母さん!あれ、もう着いていたんだ。ごめん、話は明日するね」


 家の前で足を止めて話していた2人の間に割って入ってきたのは、心音の母親。どうやら、一生止まりそうにない2人に流石に心配になったらしい。


 そして、その母親に声をかけられた心音は玲にそう話して、話を無理やり終わらせる。玲もその言葉に頷いていた。


「あぁ、分かった。話、まとめておいてくれよ」


「うん。じゃあ、また明日ね」


「また明日」


 家の前で手を振りあって、それぞれの家に帰っていく。


「にしても、盛り上がっていたわね。昨日の話かしら」


「あー、うん。ちょっと落ち込んでたけど、玲が元気づけてくれたおかげで。…まさか、家に着いていたとは思わなかったけど」


「ふふっ。夢中になっているようで何よりだわ。お母さんたちも協力できることがあれば、何でも言ってちょうだい。力になるわ」


「ありがと、お母さん」


 母親のその言葉ににこっと心音は笑う。でも、それは心の底から出来た笑顔ではない。上っ面だけの笑みだ。しかし、母親はそこには気付かない。


「おやつあるから、先に食べるでしょ?」


「分かった。…あ、アイス?」 


「えぇ。暑くなってきているし、頭を使うから甘いものがいいかと思って」


 リビングに入った母親は冷凍庫からコンビニアイスを一つ取り出して、心音に渡した。そのアイスを見て、心音は目を輝かせる。甘いものは苦手だが、気温も上がってきているここ最近は、冷たいものの方がいいということだろう。


「ありがとう。いただきます」


 アイスをすくって口に運ぶ。甘いバニラのアイスが、口いっぱいに広がる。心音はゆっくりとスプーンですくって食べていく。キーンとならないようにというか、硬いからだろう。


「(さて、明日は先生に話を私も聞くとして。明後日は焦点を絞って聞き込みした方が順調に進むよね…)」


 とりあえず目下の目標は決まった。とはいえ、誰に聞きこんだ方がいいのかは、全く分からない。


 町の人との交流はあれど、誰がどんな人と横の繋がり、または縦の繋がりを持っているかは分からないからな。心音は、誰がいいのか考えていく。


「(欲しい情報は図書室の先生の家族関連。んー、本屋の人とか、後は商店街かな。それから、事件関連の話なら学校の周辺の家に絞れば…)」


 スプーンを口に運ぶ動作を止めることなく、心音は考え事を続ける。


「(…分からない。あの人、外から来た人だよね…。そこまで関わってきている人は多くないだろうけど。あ、でも警察の調査も受けているだろうから、そういう人たちは外して考えた方がいいよね。確か、資料にそこらへんの事は書いてあったはず)」


 数年前に転勤という形で、しばらくいなかった図書室に先生としてやってきている。そんな先生はあまり町に馴染めていない話は、よく同級生が噂をしているから知っているぐらいだ。


 心音は食べ終わったカップを片付けつつ、どうしようか悩む。とにかく、事件関連なら聞く人は絞れる。となると、先生関連だろうな。


「(とりあえず、明日皆に話してみよう)」


 考えていた思考を止めて、心音は2階に上がっていく。宿題をするのだ。


「…よし」


 心音は階段の途中でそんな言葉をこぼしていた。


ー土曜日ー

 朝9時。学校前には、全員集まっていた。


「おはよー。全員揃ってるね、うんうん。さて、ここで無駄話をしている暇は無いから、早速本題に入るね」


 心音は一人一人の顔を見回して、一回手をポンとはたく。そして、手提げバックからノートを一冊取り出した。


 それを全員に見やすいように開いて、話始める。


「これから2班に分かれて調査してもらうの。事件の調査班と図書室の先生に関する話を聞いてくる班ね。で、その班分けはここに書いてある通り。前半の事件調査は、秋斗と玲、それから明音の3人。少なくても、もうほとんどが警察の方で調査済みだから時間はかからないはず」


 そこでいったん区切って、息を吸いなおすと、心音は話を続けた。


「で、図書室の先生は、私と彩夏、それから透と結衣の4人。これで行きたいと思うわ」

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