第26話 《俺》遺跡

 ダンジョン1日目。不思議なことだがダンジョン内も夜になる。月も無ければ、真っ暗にもならない、薄暗い夜だ。魔物の襲撃があるかもしれないので、交代で見張りをしつつ夜を過ごした。

 朝食を済ました後、ラル―は帰っていった。俺たちは装備を点検し、遺跡入り口への階段を登っていく。この遺跡が出来て、どのくらい時間が経過しているのか分からないが、石の角が取れているので風化しているようだ。

 入り口は石で囲いがしてある程度で扉などはなく、下への階段が見える。斥候を担うカリンを先頭に周りに注意しつつ下っていく。光の届かない場所まで下ってきたが、壁がほのかに光っていて、薄暗くはあるが移動は可能なようだ。今のところ罠もなければ、魔物の襲撃もなく、何もなさ過ぎて逆に不安になる。階段を下り切ったところは横に伸びる通路になっていた。ここからが本番なのだろうか。

 階段よりも暗くなってきたので、レベッカに魔法で光の玉を出してもらった。明るい。玉を出してすぐに、通路横の部屋からアンデッドと思われる物体が押し寄せる。俺たちにというよりは光の玉に。光に群がる虫なのだろうか。

「レベッカ。もっと暗い玉をだして、あの玉を消してくれ」

 俺はレベッカに指示し、玉を消してもらう。明るい玉が無くなると、アンデッドと思われる者たちは、そそくさと部屋へ引き上げていった。

「なんだ?あいつらは」

「光に反応するアンデッドは聞いたことないですね。生者に反応して襲ってくるのが普通ですけど」

 俺の呟きにサラが答える。だよな・・・普通は生者を襲うよな、不思議な遺跡だ。俺たちは罠を警戒しつつ奥へと進んでいく。通路を右に曲がり左に曲がり階段を下りると扉があり、開けると広場に出た。広場に入ると、扉が自動で閉まり、内側からは開かないようだ。この感じはゲームで良くあるボスか中ボスの部屋なんだろうと思う。

 広場の中央に薄っすらと大きな影が見える。

「ん?戦闘準備!」

 俺は皆に声を掛ける。俺が前に出て、後にカリンとレベッカ、その後ろにサラという布陣だ。

 中央にいた影が、のっそりと立ち上がる。筋骨隆々のミノタウロスで、3mはあるじゃないだろうか。ようするにデカい人型のウシだ。見えないのでは戦闘にならないので、レベッカに暗めの玉を数個だして貰う。明るい玉だと、また、あいつらが群がりそうだ。

 ミノタウロスへ向け、レベッカが火の玉を放つ。ミノタウロスは右手で『ペシ』と弾いた。レベッカが『えぇ?』って顔をしている。あれは絶対に弱い魔法ではないと思うのだが、ミノタウロスは気にしていないようだ。カリンがボーガンを放つ。左腕に刺さると思われたが、皮膚に弾かれる。

 ミノタウロスは腰の棍棒を右手に持ち咆哮をあげた。サラが咄嗟に防御魔法を張る。防御魔法超しでも頭がガンガンする。防御が無ければ全員、絶命していたのではないだろうか。

 突進してくるミノタウロスに向け俺も走り出す。後衛に害が及んでは前衛としておそまつだ。後衛3人が壁際に後退してくれた。ミノタウロスの角を避け、剣を繰り出す。脇腹に当たったはずだが、切った感触がない。硬すぎて切り傷も付けられないようだ。俺は鞄からボア戦でも活躍したミスリル剣を取り出し魔力を流す。この剣でも切れなければ、俺たちは全滅だ。ミノタウロスが俺に向かって棍棒を振るう。ミスリル剣で棍棒を受ければミスリル剣が壊れる。俺は集中し棍棒を右に避け、脇腹を切りつけた。ミスリル剣は脇腹に吸い込まれ半分ほどを切り裂く。なんだこの剣、この前のボアの時より切れるようになっている。鍛冶屋の腕が良いとここまで切れ味が違うものなのか。

 脇腹を切り裂いたが、ミノタウロスは変わらずに闘志むき出しだ。とっとと魔石を壊して退治したいところだが、ミノタウロスが大きすぎて、胸にある魔石まで手が届くだろうか。

 ミノタウロスが棍棒で床を叩く。俺は避けたつもりだが、衝撃波と粉砕された床の石が飛び散り、俺は飛ばされ、ゴロゴロと床を転がった。俺は何とか上体を起こす。そこにサラが駆け寄り回復魔法を掛けてくれた。ミノタウロスはカリンとレベッカで俺の方に来ないように牽制してくれているようだ。やっべーなアレ、直したばかりの鎧がボコボコだ。

 俺はミノタウロスに向かっていった。魔法と矢の隙間を縫い、右に左に駆け回りミノタウロスを切り刻んでいく。

「オリャーーーー!」

 そして右手を切り落とした。ミノタウロスは棍棒を左手で持ち振り回す。レベッカの石魔法がミノタウロスの後頭部にあたり膝をついた。俺は背中側に回り込み、魔石のあるあたりに剣を突き刺し、上下左右に剣でかき回した。ミノタウロスは顔を上げ、一瞬、痙攣した後に徐々に消え始めた。

「フー。終わった・・・」

 俺は安堵の息を漏らした。

 ミノタウロスが残したのは、半分に割れた魔石と牙、棍棒であった。棍棒は鉄より硬いんじゃないかという程、丈夫な木で出来ていた。


 俺たちはミノタウロスの居なくなった広場を探査する。

 次の部屋へ行く扉の近くの壁に血痕があり、そこに凹んだ鎧や剣、折れた魔法杖とローブがあった。鎧と剣には『S』のマークがある。遺体はダンジョンが消したのか魔物か分からないが、ここには無い。折り重なるように鎧とマントがあり、シルバーは魔法使いを庇ったんだろうなという事がわかる。俺は、この世界で一般的か分からないが、手を合わせた。右側の奥の方に短剣と革防具、弓と鞄があった。これで4人分見つけたことになる。シルバーたちは皆、ミノタウロスにやられたようだ。

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