第20話 《俺》鍛冶屋と風呂

 今日はメンテナンスに出している剣と鎧が出来上がる日だ。メンテナンス自体は歪みを直して研ぎなおしぐらいだろうが、新しい剣のアイデアが楽しみだ。ボーガンを作るくらいだから、俺に合った何かが出てくるかもしれない。まぁ出てこなくても気にしないようにしよう。

 カリンと連れだって鍛冶屋を訪れる。俺は方向音痴ではない筈だが、時々、道を間違え、カリンに指摘される。ムムム・・・


 鍛冶屋に入るとグラルが待っていてくれたようだ。

「いらっしゃい。出来てるよ」

 早速、剣と鎧を確認する。剣は歪みもなくキレイに研いである。振ってみると前よりも使いやすい。鎧も凹んで傷ついていたものがキレイに直してある。グラルは良い腕の鍛冶職人だ。

「さて。新しい剣だが。今のミスリル剣を見る限り、使いこなしているようだから、ミスリルを剣芯に入れて、アダマンタイトで刃を付ける感じにしたい。魔力を流せばミスリルとアダマンタイトが反応して、硬くて切れる剣になるはずだ」

 俺は頷きながら聞いていた。そうきたか。俺としても願ってもない剣だ。

「是非、お願いします。それで料金の方は・・・」

「今回のメンテナンスと合わせて、金貨3枚でどうだ」

 俺は、2つの金属を合わせるのは、難しい仕事だと思うんだが、料金が安すぎではなかろうかと思う。

「え!それで良いんですか?もう少し出せますよ」

「大丈夫だ。キチンと計算してある」

 そういう事ならいいか。俺は金貨3枚を出して支払った。10日ぐらい掛かるらしいので、できた頃に来る約束をして店を出た。


「なぁ、カリン。この町に風呂屋はないのか?」

「お風呂、ありますよ。川沿いにあります。行きますか?」

 おぉ!風呂あるのか。行きたい。

 カリンに案内してもらい川沿いの風呂屋に来た。俺は煙突のある銭湯をイメージしていたのだが、建物は温泉宿というか健康ランドみたいな感じだった。入り口には『ラモジュの湯殿』と書いてあり、名前だけ聞くと大人のお店みたいだが、中に入ると受付があり、奥に『男湯』『女湯』との案内があった。

「私は外で待ってますね」

「え?カリンは入らないの?」

「私は水はあまり得意じゃないので」

 そうか。カリンは水系が嫌いなのか。俺は銀貨を出しカリンに渡し、川沿いという事もあり、外には屋台があり、川遊びや釣りをする人々いるし、時間を潰して貰おうと思った。

「すまんが、待っていてくれ」

 俺は受付で1人分の入浴券を購入して男湯の方に入って行った。入浴券は2大銅貨。ギルドの食事2回分になり、決して安い額ではないので、毎日じゃなくても遠征後には来たいなと思う。男湯は、女湯も同じ作りだろうが、着替えのロッカーがあり、奥に湯舟がある、馴染のある構造だった。服を脱ぎ、ロッカー仕舞い、カギをかけ、褌のような前掛けを付けた。俺は全裸で入浴するものだと思っていたのだが、ここでは前掛けを付けるのがルールのようで、『必ず付けろ』と張り紙がしてあり、サイズも小・中・大・特大・特大大まであった。

 湯舟は大きく、洗い場が横にある作りで、俺は日本の温泉かと思った。体を洗い、湯につかった。

「うぃーーーーー」

 何とはなしに声が漏れるが、俺しかいないから良いんだがな。魔道具という便利グッズがあるにしても、大量に水が必要になるので、個人で風呂を持つというのは贅沢なんだろうなと思う。

 風呂を堪能した俺は外に出て、カリンを探した。カリンは木陰のベンチで黄昏ていた。

「お待たせ」

 カリンと一緒に市場の方へ行くと夕方という事もあり、行きかう人々が多かった。俺はカリンを飯屋へと誘い、夕飯を食べることにした。飯屋と言っても市場にあるテーブルや椅子を完備した大きな屋台みたいなところで、フードコートが近いだろうか、複数の屋台から購入してテーブルなどは共用になっている。とは言っても、売られているのは、肉串、焼肉、煮込み、ホットドックのような具を挟んだパン、エール、果汁ジュース、ぐらいだが。俺はポトフのような煮込みとパンとエール、カリンは煮込みと果汁ジュースにした。俺は、こういうフードコートだとラーメンが食いたいと思うが、無いものは仕方ない。

 煮込みは店により味が異なるわけだが、今のところ、ハズレは無い。煮込みに入れる香辛料で少しずつ店の味が異なっているようだが、ここの煮込みも上手い。エールは前に呑んだことのある味だ。たぶん、この街に醸造元が何か所かあって、味に少しづつ違いが出るのだろうと思う。

 まぁ、何だかんだと言っても上手いは正義だ。

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