第18話 《俺》買い物

 俺たちは鍛冶屋を後にし、西区の市場に買い物にきた。

 日本のスーパーでは見た事のない、葉物や根菜、果物が並んでいる。葉物や果物は生でも食べれそうだが、根菜は煮たり、さつまいもみたいに焼いたりするのだろうか。粉物も並んでいる。白いのは小麦かな、黄色いのはトウモロコシだろうか。

 小麦があるのなら、麺だが、この世界に麺はないのだろうか。カリンに聞いてみる。

「ここには麺はないのか」

「メン?どんなのですか」

 麺は、ラーメン、うどん、パスタ、ソバ、いろいろあるしな、麺の説明が難しい。

「こう、小麦を練って細長くしたようなもので、汁に浸かってたり、汁に絡めて食べるやつ」

「あぁーそういうのは聞いたことないです」

 そうか、無いのか。うどんは小麦粉、水、塩で出来ていたと思うのだが、ラーメンは何かが欲しかったはずだ。とりあえず、うどんを作ってみるか。汁は・・・醤油はあるのだろうか。この前の煮込みは・・・

「この前の肉煮込みの汁の材料って分かるか?」

「あれは、塩気の強い茶色い液体だったと思います」

 お!醤油っぽいのがあるようだ。居酒屋で出しているぐらいだから、それ程、売値は高くはないのだろう。俺たちは売ってそうな店を探して市場の中を進んでいった。


 市場の片隅の、ドアではなく、この市場には珍しい引き戸で、東洋風の乾物屋らしい店に来た。中に入ると、壁の棚には調味料だと思われるビン系の入れ物が並べられ、机の上には魚、肉などの乾物が並べられていた。俺は小魚の乾物からダシが取れそうだと思った。

 店主と思われる老人が近づいてきた。着ている服は、作務衣風の着物。顔つきもアジア系だ。俺はエルフになっているから同郷とは言えないが。

「いらっしゃい。何かお探しですかな」

「茶色い塩気の強い液体で煮物に使うものが欲しいんだが」

 醤油と言えばいいのだが、この世界での名称がわからないから、漠然とした表現で聞いてみた。

「あぁ、ヒシオですね。こちらです」

 そうか、醤油の醤の字はヒシオって読むもんな。店主は棚から小瓶を取り出し持ってきた。

「これは塩味が濃いので水で薄めて使います。入れすぎると塩辛くなりますので、味を確認しつつ使ってください」

 濃縮醤油みたいなものだろうか。魚の乾物からのダシはどうだろうか。

「ダシも取りたいんだが、どの魚が良いだろうか」

「ダシ?お客さんは料理人ですかな。一般の方はダシという言葉も知りません。何をお作りになるので?」

 おっと。失敗したかな。この際だし良いか。

「うどん・・・麺を作りたいんですよ」

「おぉ!麺ですか、この店の裏の通りに、家内が店をだしています。麺料理もありますので良かったら寄って行ってください」

 アジア系の食事を知っているエルフ族だが、別種族だからと、不審がらずに対応してくれた店主には感謝だな。


 俺たちはヒシオだけ購入して、裏通りの店に来た。こちらも引き戸で看板には、ラーメン屋で良く見る『喜』っぽいマークが書いてある。俺はワクワクしながら店に入った。テーブルが4つにあるだけのこじんまりした店内で、鼻孔をクスグル醤油とダシの匂いがなつかしい。時間が微妙なので客は俺たちだけらしい。

 メニューは『麺』『麺小』『麺大』の2つだけ。俺たちは『麺』を2つ注文した。

「おまちどうさま」

 俺たちの前に麺が出てきた。匂いは醤油系、麺は太麺というか、かなり太い。汁は少な目で肉がのっているので『ぶっかけ肉うどん』系だろうと思う。

 テーブルの端にある箸箱を開け、箸を取る。カリンは、箸を持った俺を見ている。

「その2本の棒でどうするんですか」

 そうきたか。まぁ、そうなるよな、俺は手に持った箸をピコピコ動かし使い方を説明する。

「使えない時は、フォークがあるよ」

 俺は汁を一口飲んでみる。塩気が強いがなつかしい味だ。麺は期待通りの太いうどんだ。腰があり、上手い。

「なんだか嬉しそうですね」

 俺は嬉しくてニヤケていたようだ。カリンに指摘されるが、頬が緩みっぱなしだ。この夫婦の経営している店は今後も通うだろう、俺の贔屓店になった。

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