第17話 《俺》鍛冶屋

 午後になりカリンと鍛冶屋へ向かった。鍛冶屋は南区にあるらしい。

 街は東西南北に4つの大通りがあり、大通りで区切られた中を区と言う。大通りの交差する中央には噴水のある広場がある。俺の家は西区で冒険者ギルドがあるので冒険者が多く住み市場もある。南区は工房や店舗が多く、店舗兼住居のような作りになっているそうだ。ちなみに、東区は住宅が多く、北区は領主館をはじめ貴族が多い。


 南区に入ると商店街のような感じで店が連なり、いろいろな物が売られている。俺は右を見、左を見のお上りさん状態だ。珍しそうなものが多く店先に並べてある。

 カリンに遅れないように付いて行くと大通りから少し入った場所に鍛冶屋はあった。ぱっと見、何屋かわからないが、看板には『グラル鍛冶工房』と書いてあった。店に入ると店番の女性が居て、奥から『カン!カン!』と鉄を叩く音がする。

「こんにちは。グラルさんは居ますか」

「カリンちゃん。久しぶりね。元気?」

「はい。おかげさまで。お客さんを連れてきました」

 店番の女性は奥さんだろうか、カリンが挨拶を交わす。親しそうだ。店の奥から小柄だがガッシリしたヒゲの男性が出てきた。小柄、ガッシリ、ヒゲとくれば赤と緑の従妹ではなく、異世界の定番、ドワーフになるが、ラノベでは定番のドワーフとエルフは犬猿の仲のはずだがなぁ・・・。

「おうカリン。ボーガンの調子はどうだ?」

「とっても良いです。今日はボーガンのメンテナンスと、新しいお客さんを連れてきました」

「エルフか・・・」

 店主のドワーフがこちらを見たので俺は会釈した。やっぱり?俺はいやな予感がしたが無表情を貫いた。

「エルフとドワーフって仲が悪いんでしたっけ?」

 カリンが爆弾を放り込んできた。オイオイ、俺は何とも思わないが、相手が怒ったらどうするのよと、俺は心配になった。

「それは昔の話だ。俺の爺さんぐらいの世代だと喧嘩してたかもな」

 店主は『ガハハ』と笑った。俺は安堵の表情を浮かべていたかもしれない。

「はじめまして。マーリンと言います。剣のメンテナンスと相談がありまして」

「俺はグラル。鍛冶ならまかしてくれ」

 俺たちは握手した。ドワーフ、いい奴じゃん。俺は腰の剣、鞄からミスリルの剣と鎧を出してグラルに見せた。鞄は小さなウエストポーチにした。ゲーム仕様で思い浮かべれば手にアイテムが握られるわけだが、それだと思いっきり不自然なので、ポーチに手を入れて出しているように装っている。小さなウエストポーチからミスリルの剣が出てきたのでグラルは目を点にした。

「おめぇ、その鞄!まぁいいか・・・」

 グラルは言い淀んでいるが、たぶん珍しい鞄だと思ったのだろう。マジックバックと言われる異世界の定番アイテムがこの世界にもあるのかもしれない。

「多少、刃こぼれがあるが良い剣だ。こっちはミスリルか・・・これも良い剣だな。どこで作った」

 2本の剣を隅々まで見てグラルは良い剣だと言ってくれた。どこで作ったと言われても、ゲームで貰ったと言うのは憚れるな。そうだ!

「実は、記憶を無くしていまして、覚えていないんですよ」

「マーリンさんはギルドで倒れて、記憶が無いみたいです」

 カリンがホロ―してくれた。ありがたい。俺は記憶喪失で押し通すことに決めた。

「そうか。難儀だな」

 グラルは信用してくれそうだ。ついでにこれもお願いしよう。俺は鞄からさらに鉱石を取り出し、グラルに依頼する。

「これも加工できませんか。どこかで拾ったんですが・・・剣に出来ればと・・・」

「おめぇ!これはアダマンタイトとミスリルじゃねぇか!どこで?といっても覚えてねぇか」

 ミスリルはそこまで珍しい金属ではないのかもなしれないが、この世界でも希少金属らしいアダマンタイト。アダマンタイトは硬い金属らしいので、これで剣ができれば切れ味の鋭いものになるんじゃないかと、俺は予想するんだが。

「剣か・・・俺も1度だけ加工を見学しただけだからな・・・。いや!やる。やらしてくれ」

 流石は鍛冶師だな。珍しいものを見て、やる気に満ちている。ここで止めるって言って鞄に仕舞ったら殴られそうだ。

「じゃぁ。お願いします」

 俺は注文することにした。メンテナンスは明後日の午前中には出来るとのことなので、午後に来る約束をした。新しい剣はどんな剣にするか考えるからとの事なので、明後日もう一度打ち合わせになった。

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