第12話 《俺》村・森
初めてギルド以外の宿に泊ったが悪くなかった。ベッドは固めだが食事が美味しい。特にシチュー系の煮込みは上手い。料理人の腕なのかもしれないが、しっかり味付けしてあり、俺みたいな肉体労働者にはありがたい。
村長宅に行き話を聞いた。村の居住区の柵の外に畑があり、畑と森の境にも柵があるのだが、その柵を壊し、畑を荒らしていくようで、村の自警団で夜回りをしているのだが、追い付かないそうだ。1頭2頭じゃ無い気がするが、3頭以上、仕留めてくれば依頼完了にしてくれるそうだ。隣村からも同じ依頼があるから、畑と柵を確認した後に隣村に行ってくると話し、村長宅を後にした。
「こりゃ酷えわ」
数日前にボアが荒らした畑と柵の前に来た。柵は丈夫そうな杭に横板を張り付けたものだが、20mぐらい斜めに倒され、畑には足跡が付いていた。柵は体当たりしたであろう所にボアの毛が残っているし、足跡を見るに3頭狩ったぐらいじゃ変わらない気もするが、大人のメスを減らせば良いかなとは思う。一時でも数が減れば対処もできるだろうという算段だ。
隣村には3時間ぐらいの徒歩だ。山を挟んで隣村だが、道は山を迂回している。道はそれなりに整っているので歩きやすい。カリンは大きなリュックを背負い付いてくる。サポーターすげぇな。村はザ・村な感じで数件の家と畑があり、ここも柵で囲われているが、最初の村が発展しているというのが分かる寂れ具合だ。ここが典型的な村なのかも知れない。村長の話は前の村長とだいたい同じだが、以前はこんなにボアは出なかったそうだ。山の中にボアの繁殖地でもあるのかも知れないが、こちらも3頭以上で完了にしてくれるそうだ。
カリンと話して、前の村に戻るには時間も掛かるので、この村に泊ることにした。村の空き家を貸してもらった。物置として使っているそうだが寝起きするには十分だ。
翌朝、森に入ったが、村の近くは下草が刈ってあり整備されているが、奥に進むと獣道も分からないほどの草だ。カリンはリュックからボウガンを取りだし装備してた。身を守るのにいつも使っているそうで、頼もしいサポーターだと思う。
「こりゃ大変だ」
「そうですね。どこにボアがいるのかも分かりません」
ここは一つ、カリンに凄いものを見せておこうと、ゲームの時には出来たエルフの秘技の呪文を唱えた。
「▽#%(■%$#!&」
エルフ以外には聞き取れないであろう言葉だが、風が少し吹いて草木が割れ、森の奥に道が出来た。これでボアがいるであろう所まで1本道だ。俺は後にいるカリンの方にドヤ顔で振り向いた。カリンはポカンと口を開け驚いている。よしよし。
「どうよ!エルフの力!」
「なんですか?これ?」
「この森に入ったら思い出したんだ。こんな事できたなーて」
割れた草の道を俺たちは進んでいくと、奥に洞窟のある窪地に出た。窪地にはボアがいるようなので木の影から観察する。窪地にいるのは、子供4、オス2、メス9で15頭。この規模だと統率するボスがいると思うんだが、ボスは奥の洞窟にいるのだろうか。窪地に居る大人は1m前後で一般的なボアで、オスは若そうなのでボスでは無いと思う。
どう狩るかカリンと相談した。カリンには子供を狩ってもらい、大人は俺が始末する事にしたのだが、ボスが見えないのが気になる。先ずは煙玉を使い、眠らせてから1頭づつが良いだろうと決めた。煙玉は人族にはあまり効かないのだが、獣や魔物には良く効いてリラックスして眠りにつくので、相手が多い場合は有効だそうだ。値段もそれほど高くないので魔物や獣討伐では数個持ち歩くのが普通だと、雑貨屋のオヤジが言っていたし、カリンも使い方を知っている。ただ獣人は人族よりは効きが良かったりするから、俺はカリンが心配なんだが、俺の案に反対せずに頷いた。
カリンに少し離れてもらい、3個の煙玉の紐を引いて煙を出し、風上に投げた。薄い煙が風上から窪地に舞い、ボアを覆っていく。こちら側にも少し流れてくるが俺は気にせずに窪地を見ていた。少し後方でドサッと何かが倒れる音がしたので振り向くとカリンが倒れていた。慌ててカリンに近寄ると寝息を立てて寝ていた。『だから言ったじゃねぇか!お前まで寝てどうする!』カリンを揺さぶるが目を覚ます気配がない。さて、煙玉の効果は30分ぐらいだと雑貨屋のオヤジは言っていた。仕方ない、1人で仕事するか。
俺は窪地に入り、メスの首を重点的に切っていく。失血してくれればいいので、バシバシ行く。5頭切ったところで洞窟の奥からボスが現れ、俺に気づいて咆哮を上げた。
「グォォォォォ!!!!」
デケェ!見た目はボアだが、大きさはクマよりデカいんじゃねぇか、3mは超えそうだ。ギルドマスターに教えられた知識だが、目が赤くなっているところを見ると魔物化しているようで、こんなの俺は倒せんのか。
ボスは地面を蹴り突進してくる。基本は直進のみなので躱すのは容易なのだが、毛が固く、剣が通りづらい。横に躱し、足に剣を当てるが薄く切った程度だった。俺は鞄から、ゲーム時代に何かのイベントで貰った、良く切れるというミスリル製の剣を取り出し、魔力を纏わせ剣の性能を上げた。突進してくるボスの足を切りつける。流石に骨までは切れないが、ボスは膝を付き、土煙をあげた。
「グォォォォォ!!!!」
切られたから当たり前だが、怒り狂うボス。寝ていた周りのボアも目を覚ましたようで、窪地から逃げてゆくボアの体に矢が刺さった。カリンも目を覚ましたようだ。ボスは足を引きずりながらも牙を振り回し攻撃してくる。牙は切断出来ないだろうし、剣の方が壊れそうだ。ボスも傷ついているが、俺の鎧も傷だらけだ。石を飛ばすんじゃねえよ。
窪地で動いているのは、俺とボスだけになった。その時、カリンの矢がボスの目付近を襲った。ボスは一瞬だが、カリンの方を向いた。俺はボスの横に回り首に切りつけた。浅い!だが、血が噴き出しているのを見ると首の血管を傷つけられたようだ。後は持久戦で、徐々にボスの動きが緩慢になっていく。俺は剣を振り、ボスの傷を増やしていき、そして反対側の首にも切り込んでいった。
「ドカーーン!!」
音と共にボスは倒れた。俺は心臓の辺りに剣を差し込んで止めをさした。
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