第7話 《カリン》サポーター

 私はカリン、トラの獣人で、サポーターをしています。サポーターは簡単言えば冒険者の雑用係で、荷運び、解体、斥候などが主な仕事になります。冒険者の売り上げの3割を頂いて、依頼期間中の衣食住は冒険者持ちになります。『冒険者になれば良いんじゃない』と言われますが、私自身、それほど腕に自信がありません。自分の身を守る程度です。なので冒険者のお手伝いぐらいが丁度良いのです。昨日、依頼から帰ってきました。2泊3日の遠征で今日はお休みです。毎回、掲示板で募集を探すのが面倒なので、そろそろ決まった冒険者パーティーに所属したいなと思っています。


 公園で日向ぼっこしていると、以前、2回ほど依頼を受けたエルフの冒険者さんを見つけました。優しい良い人だったと記憶しています。1人で何か飲んでいますが、この方は今もソロで活動しているのでしょうか。『私を雇ってくれないかな』と考えていると、冒険者さんと目が合いました。私はベンチを立ち冒険者さんへ近寄りました。

「お久しぶりです。マーリンさん」

「?」

『あれ?忘れられてる?』こんなに可愛いトラ耳の女子を。『殴っちゃおかな』不埒なことを考えました。

「カリンです。以前2回ほど依頼で狩りにいきましたよね」

 何か反応がない。どうしたんだろ。マーリンさんは銀貨を出し『何か買っといで』と。マーリンさんはエールですね。私は串肉と果汁ジュースにします。

「さっきはごめんね」

 マーリンさんが謝罪してきます。思い出したのでしょうか。

「いえ・・・」

「俺、3日前にギルドで倒れてね。記憶がないんだわ」

「それ、大変なことじゃないですか」

 私はアワアワしてしまいました。記憶が無いって何で?マーリンさんは落ち着いてる場合じゃないですよ、もっと慌てて。

「住まいはどうしてるんですか。西区の借家ですか?」

「ん?借家?今ギルドで部屋借りてるよ」

「え?西区に家あるじゃないですか。以前、お邪魔しましたよ」

 完全に忘れているらしい。私は、以前、依頼で出かける時に西区の家へ迎えにいったことを話しました。立派な家があるのにギルドに部屋を借りているのは勿体ないと思うので、私は案内することにしました。


 西区に行くときにサポータの話をしました。荷運び、解体、斥候をすること。金額は3割で衣食住は冒険者持ち。マーリンさんは忘れているようですが、以前の依頼で私は解体もしていると思うのです。忘れているなら、売り込みです。もう一押しかな、私を雇ってくれるといいけど。

 家に着きました。庭付きで良い家だと思います。マーリンさんカギを探し、どこからかカギをだしました。変な術が使えるのでしょうか。疑問が残りますが、カギは合っているようで玄関が開いたので、マーリンさんに続いて中に入りました。マーリンさんの性格でしょうか、1人暮らしなのにキレイに片づけられていてちょっと驚きます。部屋を確認していきました。

「これは錬金術の道具ですね。マーリンさんのポーションは自作だったじゃないですか。覚えていませんか?」

 以前の依頼の時も自作だと言って飲んでいたし、私も飲みましたが、市販品よりも飲みやすかったですし、傷の治りも良かったと思います。

「ギルドの部屋を解約してここに住めばいいじゃないですか」

 私は思ったことを口にしました。マーリンさんは考えているようだけど、2か所借りるのは無駄だと思います。

「カリンさん、すまんが、ギルドまで連れってくれるか。道が分からん」

 私はポカンと口を開けていたと思う。もう、頼みますよ、マーリンさん。

「え?いいですよ。それと『さん』はいらないのでカリンって呼んでください」


 ギルドに戻ってマーリンさんは部屋を解約しました。

 私、思うんですよ。マーリンさん大丈夫なのかと。母性本能ですかね、恋、では無いと思います。私が面倒をみないとダメだと思うんです絶対に。部屋を見た時に台所も見ました。キレイに片付けられていて食器類もあるようでした。たぶんこの後、家に帰るのでしょうが、道を覚えたとは思えません。なので、市場でお買い物してマーリンさんの家で私の手料理です。ウフフフ。いえいえ何でもありません。顔がニヤケます。まずは胃袋からですね。アレ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る