街
第6話 《俺》散歩
ギルド講習会を受講し、一般常識を学んだ俺に怖いものはない、と思いたいが、今日はこの世界に来て初めての街歩きだ。海外旅行で浮足立っている感覚だが、日本のような安全な街じゃないだろうから用心しないとなと思いながら、ギルドで街の簡単な地図を貰い、俺は街中へ歩き出した。
この街はエクノリア王国ラモジュ領の領都でラモジュと言うようで、ラモジュは領主の名前だ。街は東西南北に4つの大通りがあり、大通りで区切られた中を区と言うらしい。大通りの交差する中央には噴水のある広場があり、待ち合わせや憩いの場になっているらしい。
ギルドは西区になるようで、ゲームの時は右手の山側に領主や貴族なんかの富裕層が住んでいて、左手の川側には一般市民や商店があったはず。右側を眺めると館というよりは城のような建物が見えた。あれが領主館で通りの向こうが北区なのだろう。その周りにも立派な建物が建っている。そちら側には縁がないので、西区の川の方へ足を向けた。
ギルドの建物でも思ったが、この世界の建物は石積みでキレイに積んである。石を加工して積み上げるってすげぇ大変だと思うのだが、木材が限られてて石が余っていれば石を使うのかな。壁は石積みで屋根は木。2階の床は木で壁は石。本当に感心する。今歩いている道も石畳みが敷いてある。たぶん街中だからで街の外に出れば土の道なんだろうなと思う。
しばらく歩いて行くと石塀が見えてきた。たぶんこれが内塀で初期の頃の塀なんだろう。最初の小さい街を石塀で囲み、獣や魔物の侵入を防いでいたらしい。石塀は厚さ50cm、高さ2mぐらいある。ギルドが出来て人が増え、塀の外にも人が住むようになり、それに合わせて、外側にも塀が築かれたようだ。まだ見てないけど立派な石塀なんだろう。
市場と思われる商店や屋台が並んだ場所にきた。上手そうな匂いがしている。この先にある公園にでも行ってみるかと、近くの屋台で肉串とリンゴみたいな見た目の果物、それとこの世界に来て初めて飲む酒、ビールだろうと思うエールを購入した。エールのコップを返すと1銅貨返してくれるらしい。
芝生のある日本の公園を想像していたのだ違ったようだ。中央に噴水があり、周りにベンチ、その外側に木があり、歩道があってベンチの円形になっていた。結構な数の人がいる。ベンチに座りビールを1口。温いが悪くない。フルーティな味わいというのだろうか、嫌いではない味だ。串肉は大ぶりな肉塊が刺さっていて、少し堅めだがスパイスが効いていて上手い。
何か視線を感じて顔を向けると3つぐらい先のベンチで獣人の女性がこちらを見ている。はて?誰だろう。この世界に来て日の浅い俺の知り合いはギルドにしかいないが、その子が立ち上がり、こちらへ歩いてくる。
「お久しぶりです。マーリンさん」
「?」
獣人の歳は分からないけどスラっとした若い女性で、ショートパンツに長めのブーツを履き、腰には短剣がある。耳とシッポの模様を見るとトラ系だろうか?『お久しぶり』とはいかに?俺が困惑もしくは忘れていることに気づいたようで説明してくれた。以前に2回ほどサポーターとして依頼に同行したそうで、名前はカリンというようだ。知らん。声を掛けられ、以前同行したのにこの態度はまずいだろうと、俺は銀貨をだし『何か買っといで』と渡した。おっさんぽい言動だったかと少し後悔した。
「さっきはごめんね」
「いえ・・・」
「俺、3日前にギルドで倒れてね。記憶がないんだわ」
「それ、大変なことじゃないですか」
俺より慌ててるカリンさん、ちょっと可愛いかも。
「大変なんだけどね。まぁ何とかなってるよ。体は何ともないみたいだから、思い出すかも知れないから街を散歩してる」
俺はウソをついている。良心の呵責が無い訳ではないけど、別世界から来ましたなんて、正直には話せないよな。
「住まいはどうしてるんですか。西区の借家ですか?」
何だこの子は、俺のことに詳しいぞ。
「ん?借家?今ギルドで部屋借りてるよ」
「え?西区に家あるじゃないですか。以前、お邪魔しましたよ」
「?すまん・・・詳しく・・・」
カリンさんが言うには、俺は西区に家を借りているようで、そこで生活していて、以前の依頼の時にカリンさんが迎えに来たことがあるという事のようだ。
俺はカリンさんに案内してもらい西区へ。道行にサポーターの仕事内容を聞いた。サポーターとは、冒険者と一緒に狩りに行き、荷運び、解体、斥候などをしているとの事で、依頼料と素材売却料の3割を貰い、依頼期間中の衣食住は雇い主の冒険者持ちとなるようだ。解体が出来るのは凄い。俺も頼もうかなと思う。
西区にあった家は庭付きの平屋で、玄関は当然、鍵が締まっているし、表札もない。俺は鞄、カギと念じてみたら、手の中にカギが出てきた。うん気持ち悪い。そのカギを挿して回す、開く、俺の家らしい。間取りは4部屋に台所とトイレでリビングにはテーブルと椅子が4脚。寝室、物置、そして実験室のような部屋。何だこれ?
「これは錬金術の道具ですね。マーリンさんのポーションは自作だったじゃないですか。覚えていません?」
すまん、覚えていない。そうか俺はポーションが作れるのか。ゲームの時は、たしかに錬金術でポーションを作っていた。ゲームのクエストにポーション作りがあったからやったけど、そこまでのレベルじゃなかったはずだし、ポーションを作るには家を借りる必要があったから借りたけど、この家だったかな?思い出せない。
「ギルドの部屋を解約してここに住めばいいじゃないですか」
カリンさんに言われて、そうだよなギルドの部屋を解約してここに住もうかと思う。ん?ギルドの場所がわからん。カリンさんと話してて道を確かめてなかった。
「カリンさん、すまんが、ギルドまで連れってくれるか。道が分からん」
「え?いいですよ。それと『さん』はいらないのでカリンって呼んでください」
カリン、そんな呆れた顔すんじゃねえよ。
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