第4話 《俺》ギルド

 先ほどまでいた部屋は、診療室だったらしい『金はあるのか?泊るところは?』とギルドマスターに聞かれポケットをみるが何もない。首を横に振ったら溜息をつかれ、ギルド建物内にある宿舎に案内された。Bランク冒険者は信用があるからギルドから金を貸すと言われ、金貨2枚と銀貨10枚を渡された。正直、金の価値がわからないから使いようがないんだがな。

 宿舎の中は、ベッドと机と椅子だけのビジネスホテルのシングルルームのような作りであった。何をするわけでもないので良いのだが、椅子に座り考える。

『俺は誰で、ここは何処なのか』

 先ほどの話が真実なら、俺はゲームキャラのエルフになり、ここはゲームと似た異世界という事になるが、そんな事がありえるのか?昔読んだSFに強力な爆発だか閃光で別世界に飛ばされる話があった。飛ばされる瞬間に浮かんだ別世界に飛ばされるわけで、最終的に自分の望んだ別世界になってハッピーエンドだったと思う。俺は雷に撃たれたのだと思う。で、この世界に飛んできた。じゃ、もう一度、雷に撃たれれば戻れるのか。雷で俺、死んじゃいそうだな。

 では、この世界で生きていけるのかと言えばどうだろうか。右も左も分からないが、Bランク冒険者らしいので、剣だか魔法だかは体が覚えているのかも知れないが、血を見るのはどうも・・・慣れるのだろうか。

 腹が減ってきた。先ほどのスープだけでは物足りない。体の調子が戻ってきたのだろう。


 部屋を出て1階に降りると受付と奥に食事スペースがあるようだ。夕方近くなので受付には人が多いが、人の間を抜け食事スペースに入った。カウンターに受付の子がいるが、メニューは特にないらしい。ここは無難に注文するか。

「パンとスープ」

「はい。ありがとうございます。1大銅貨になります」

 注文が通った!無難は正義。1銀貨を出してみる。たぶん、金、銀、大銅、銅の順番だろ。おつりで9大銅貨貰った。『増えてる!小学生か!』と1人ツッコみしてみるが、ちょっと空しい。パンとスープを貰い、席について食べてみた。スープは看護師さんが持ってきたのと同じ味で、パンは・・・硬ってぇぇぇ。何だこの硬さは。スープにつけてふやかしながら食べた。スープ用のパンなのか、これが普通なのか分からんが、腹の足しにはなった。


 受付は人が増えていて多様な種族だ。人、小柄、大柄、そして耳と尻尾のモフモフ族・・・やっぱり獣人も居るんだ。俺は純血のエルフで街では多少珍しいらしいくチョイチョイ見られてる気がする。人の間を抜け2階を目指して歩いて行くと、大柄の男が前を塞いだ。

「兄さん。新人か、俺に挨拶なしか」

 異世界のギルドでのお約束の展開だろうか?俺が黙っていると、

「ちょいと顔貸しな」

 取り巻きらしいのが2人、俺の左右に並び、裏口の方に顎をしゃくった。部屋に案内されるときに聞いたが、ギルド裏は訓練場や井戸、洗濯場になっているようだ。つまりはお約束な展開、そう言う事だろ。俺も体を動かしてみたいので素直にしたがったが、受付にいるリズさんが心配そうな視線を投げかけているので頷いてごまかした。


 ギルド裏の訓練場は、グラウンドみたな広場とカンフー映画の木人みたいなのが並んだエリア、それと弓道の的のようなものが並んだエリアになっていた。グラウンドエリアに入ってすぐ、大柄な男が手下の2人に声を掛けた。

「可愛がってやれ」

 親分と子分の関係なのだろうか。チープすぎる。右の男がパンチを繰り出すが、スゲーゆっくり見える。ひょろりと躱すと左の男もパンチを繰り出す。こちらもゆっくり見える。なんだこいつ等?こんなに動きが遅いのか。業を煮やした親分も参戦するが、どうも、こいつら遅すぎる。そしてグラウンド脇にある模擬剣も持ち込んで掛かってくる。流石に真剣はまずいと思っているらしいし、怪我しても訓練と言い張るんだろうな、こいつ等は。

 ギルドマスターと受付のリズが入り口から見ている。ギルドマスターの助けを期待していたのだが、ニヤニヤして動かずに見学するらしい。何て奴だ。

 3人で掛かっても俺を倒せないらしい。流石に鬱陶しいから終わりにしようと、俺は剣が振られた瞬間を狙い、腹部に1発、顔面に1発づつ当て無力化していった。終わったのを見計らいギルドマスターが歩いてきた。

「記憶を無くしても、体は覚えているんだな」

 何言ってやがる『見てたんだから途中で助けろや!』俺は口に出さずに心で悪態をついた。

「おまえら3人が敵うわけあるか!相手はBランクだ。相手の技量も分からずに仕掛ける奴があるか。後でしごいてやる!」

 3人は慌ててギルド内に入っていった。お約束の俺強えだったなぁと思うが、ゲームと同じなら俺のレベルは中の上のはずで、チンピラ程度じゃ負けないわな。


 部屋に戻った俺は再度考える。喧嘩なんて小学生の時に1度したっきりで、その後はなかった。だが、先ほどの体の動きはなんだ?すげー喧嘩なれしてるし、もしかすると俺はこの世界でも生きていけるのかもしれない。もう少し様子をみるか・・・持ち物を確認してみる。今着ている冒険者風の服で細身の剣が1本と金は2金貨、9銀貨、9大銅貨。鞄は・・・と意識したところで、目の前にウインドウが開いた。なんだこれ?ゲームでいつも使っていたから見た事はある。だがしかし、これは異世界の標準仕様なのだろうか。それとも俺がおかしいのか?

 鞄の中には、ゲームの時と変わっていないようで、普段着として着ていた服、予備の剣、ちょっと良い鎧、ポーション類、剝ぎ取った素材、肉があった。それと金が2億5千万シルバーとの表示。この金は使えるのだろうか。1銀貨と念じてみると手の中に銀貨が1枚出てきて、1シルバー減っていた。ギルドマスターから借りた銀貨と見比べてみたが、同じもののようであった。2億5千万銀貨、つまり・・・俺は大金持ちなんじゃないだろうか。金の価値がいまひとつ分かっていないが、食事は1大銅貨、ギルド宿舎は6大銅貨なので1大銅貨を1000円ぐらいとすると銀貨は1万円ぐらいか。えっと・・・額が大きすぎて円換算できないが、まぁ大金だ。

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