第3話 《俺》異世界?
俺は目を開けた。意識が飛んでどれくらい経ったのか分からないが視界が霞んで良く見えない。体も動かない。微かに見える景色で俺は寝ているらしい。俺はあの時、雷に撃たれたのか、それとも事故でも起こしたのだろうか。そして病院に運び込まれたのだろう。誰かが何か言っているが耳がボー言うだけで良く分からない。たぶん看護師さんなのだろうとは思うのだが、その人が、顔に手をかざしてくる。そして暖かい感覚がして俺は、また眠った。
俺は目を開けた。前回よりは視界も悪くなく、見上げる天井は『ここは病院か?どこかの空き家なのか?』と思う程、2階の床板と思われる部分が見えている。壁は、クロス貼りなのかと思うほど、キレイな石積みのデザインだ。ベッドから見える太陽と思われる光の射す窓は曇りガラスで外の景色は見えない。
腕に力を入れてみる。何日寝ていたのかまったく分からないが今は動くようだ。足も大丈夫そうだ。体を動かしていると誰か入室してきたようだった。
「大丈夫ですか?」
声は主は俺を看護してくれ看護師さんのようであったが、俗にいうナース服では無く、ラノベの表紙でみるような教会服のような格好をしていた。背はあまり大きくなさそうだが、その分、胸元の膨らみが大きい。こんな感想を抱けるぐらいに俺は回復したのだろう。
「ここは・・・」
声が小さすぎたのか看護師さんはベッド横に屈み顔を近づけてきたので、少し『ドキッ』としながらも、もう一度、声を出した。
「ここは・・・」
「ここはギルドの診療所です。あなたはギルド受付で倒れたのです」
この人は何を言っているのだろうか。ギルドって何だ?受付で倒れた?俺は車を運転していたはずで、事故を起こして病院に運ばれたのではないのか。
俺はベッドに座らされ、腕や足など体の状態をチェックされた。
「回復魔法を掛けますね」
先ほどからこの人は・・・回復魔法?理解が追い付かない。看護師さんが手をかざすと青っぽい光が湧き出し俺を包んだ。昨日の夜と同じく暖かい感じがしてとても心地よい。
「まだ安静にしていてください。ギルドの方を呼んできますから。それとお腹も空いているでしょうから食べ物も貰ってきます」
そう言えば、あの時、朝に軽く食べたパンだけだった。思い出すと空腹と喉の渇きもあり、持ってきてくれるという食事が待ち遠しい。待っている間に周りを見渡すが、寝ていたベッドは木製でドアも木製、窓は曇りガラスで木枠が付いていて、壁はクロスではなく本物の石積みらしい。部屋には机と椅子があるが、どちも木製。今時、石積みの壁に木製家具の病院なんてあるだろうか。
手で髪を梳く。あれ?俺の手ってこんなだったか?白っぽい手に細い指、そして少し長めの爪。髪の質もおかしいし、長さもおかしい。こんな長髪ではなかったはず。顔に触れてみた。当たり前だが目鼻口は普通にある。問題は耳で俺の耳ってこんなだっただろうか。横に伸び、先が尖っているようだ。
鏡が無いので詳しくは分からないが、俺であって俺でないのではないだろうか。
ドアを開ける音で振り向くと、少し耳の尖った女性と初老だが大柄な男性が入ってきた。『何だ?』やっぱり何かおかしい。看護師さんは普通に人だが、今入ってきた女性は体質と言うには無理がある気がするが、どうみてもエルフだ。後の男性はプロレスラーか?と思うようなサイズ感だ。
「ギルドで受付をしておりますリズです。こちらはギルドマスターです」
「ギルドマスターのクーパーだ」
挨拶されたので、とりあえず会釈する。そもそも、ここがどこか分からないので名前を言ってよいのか判断がつかない。
「それではいくつか質問させてください。まずお名前は?」
「すいません。分かりません」
「エッ?分からないんですか?」
「はい。記憶が無いのです」
彼女、リズさんの驚きは分かる。自分でも何言ってんだって感じだ。そもそも、ここは現代なのか。どこか別の世界もしくは夢の中か。
「ギルドらの資料によりますと、お名前はマーリン・ラズエール、年齢は78歳、種族はエルフ族、職業は剣士となっております」
俺は言われたことをポカンとして聞いていたようだ。種族がエルフ族ってなんだよ、職業が剣士ってなんだよ。俺は人族で職業はリーマンだよ。
「あっ!」
俺は気づいた。名前がマーリン・ラズエール、これはゲームでつけた名前だ。エルフで剣士もゲームキャラとあっている。もしかしてここはゲームの世界なのか。ゲームにしてはNPCがリアル過ぎるし、普通に会話している。ゲームと同じ構成の異世界に転生?いやいや、そんな事ないって。だめだ混乱してきた。
「あの・・・空腹でしょうから、少し食べてからお話してください」
俺の混乱に気づいたのか、看護師さんが水とスープを勧めてきた。ありがたい。水を含み、味を確かめる。海外で生水で腹を壊すというが、味で分かる自信はないが、大丈夫そうだ。スープも呑んでみる。薄味のコンソメっぽいスープだが悪くない。腹に染みる。
その後も話を聞かれた。事情聴取みたいだ。
俺はギルドの受付前で倒れたらしい。そしてここに寝かされ、回復魔法が使える看護師さんが介抱してくれたようだ。そして持病はあるのかとか、依頼は受けているのかとか、仲間はいないのかとか、聞かれたが、全部分からないと答えた。
そしてギルドマスターが出した答えが『倒れたことによる記憶喪失』となった。苦肉の策っぽいが、俺がギルドマスターでもその答えをだすよな、何にも覚えていないし。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます