第2話 《サラ》ギルド

 私の仕事は教会所属の回復魔法士です。自分で言うのも何ですが、見た目は清楚で可愛らしいシスターです。午後にギルドに出勤し冒険者や市民の診療や怪我をしていれば回復魔法で癒し、幾らかの寄付を頂戴し、夜に教会の寮へ帰ります。午後から診療なのは、午前中に教会でのお仕事があるからで、怠けているわけではありません。


 その日は、私がギルド内の診療所に出勤すると、ギルド受付で友人のリズが慌てて診療所に駆けこんできました。

「何かあったの?」

「冒険者が受付前でいきなり倒れたの。怪我は無いようだけど診てもらえる?今、運んでもらってるから」

 大変です。私は急いでベッドを準備し、運ばれてきた冒険者を寝かせました。

 運ばれてきたのは初めて見る冒険者で、年齢は見た目で20代後半ぐらいでしょうか。切れ長の目にスッとした鼻、小さな顎、それに尖った耳というエルフ族特有の顔立ちをしています。エルフと人族のハーフのリズとは、また違った見た目に純血のエルフ族だろうと思います。私は後でギルドカードを見せてもらおうと診療票にメモしました。

 心音はあるけど意識は無いようで、怪我も見たところありません。次に魔物の毒を疑いますけど、見た目で症状は出ていません。単に気を失っているだけでしょうか。とりあえず、回復魔法を掛けて様子を見ることにしました。

 夜になり退勤時間になってもエルフ男性は目覚めませんでした。ギルドには宿直の方がいるので何かあったら呼び出してもらうようにして私は帰寮しました。


 翌日、少し早めに出勤し、エルフ男性の様子を見ましたが、昨日と変わらずにベッドに横になっていました。何でだろう?受付のリズにギルド情報を開示してもらいました。エルフ男性の名前はマーリン、年齢は78歳、職業は剣士。『78歳?エルフは見た目じゃ分からないわね』。レベルはBランクという事になっています。Bランクという上級職では診療所では見ないはずです。診療所を利用する冒険者はFランクからDランクでCランク以上になるとポーションで済ますことの方が多いですし、そもそも依頼で出掛けている事が多いから街中には居ないですしね。

 マーリンさんは、ここ数日は依頼を探す目的でギルドに来るだけで依頼は受けてはいないらしい。何か持病があるのだろうか。本人が目覚めないと分からいな。今日も回復魔法を掛けます。その日の夕方、マーリンさんは目を開けましたが、声を掛けるも身体が動かずに声も出ないらしです。回復魔法を掛けるとマーリンさんは眠につきました。


 翌日、出勤するとマーリンさんは目覚めていました。

「大丈夫ですかぁ」

 声を掛けると、マーリンさんが何か言っているようなので耳を近づけました。

「ここは・・・」

「ここはギルドの診療所です。あなたはギルド受付で倒れたのですよ」

 倒れたことによる意識障害があって記憶が混乱しているのだろうか。マーリンさんの身体が動くのかチェックしてベッドに座ってもらい、私は、回復魔法を掛けました。

「まだ安静にしていてください。ギルドの方を呼んできますから。それとお腹も空いているでしょうから食べ物も貰ってきます」

 私は部屋を後にして、受付へ向かい、リズに目覚めたと声を掛け、食堂へ行きました。『マーリンさんは数日食べてないからパンは様子を見てからにしよう』とスープと水を貰い部屋へ戻ってきました。部屋にはリズとギルドマスターが居てマーリンさんから話を聞いているようでした。


「あのぉ・・・空腹でしょうから、少し食べてからお話してください」

 私は、テーブルに水とスープを置いて話に割って入り食事を促しました。マーリンさんは水を含み確かめてからスープを少しずつ呑んでいました。とりあえず身体は動いて食事も問題無いようだと安心しました。患者さんが回復するのは嬉しいことです。今更ながら回復士の仕事は私に合っているのだと思いました。

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