この異世界で暮らしてみようと思う

森野正

プロローグ

第1話 《俺》現代

 俺は田舎の高校から都会の大学へ進学しようとしていたが、諸々の問題で諦め近場の大学へ進学した。『皆が行くから』程度だったし特にやりたいこともなかった。大学を卒業し、地元の食品会社へ就職した。仕事内容はルートセールスで、簡単に言えば注文のあった商品を店へ納品する仕事だ。特に難しくはないが、面倒くさい担当者になるとちょっと厄介な程度だ。就職して今年で4年目。ちょっと昔のことを思い出し、今後を考え出す時期なのかもしれない。適度な休日に残業もほぼない。地元の会社のレベルを考えれば良い就職先だったと思う。

 俺が何を悩んでいるかと言えば嫁問題で、大学時代から付き合っていた彼女とは就職してから分かれたが、この町で嫁を探そうとすると中々大変だ。俺は男3兄弟の長男だが、2番目の弟が先に結婚するらしい。目出たいんだが、目出たくない。一般的な年齢で言えばまだ良いんだろうが、この辺の地域は20代後半でほとんどが結婚するので少し焦っている。今はアパート暮らしだが、結婚すれば家も建てなきゃならんだろし、子供が出来れば、金も掛かる。


 俺には趣味というか、拘りがあまりない。しいて言えば読書とゲームだ。読書は小難しい本じゃなく、SFやライトノベルと言われるジャンルが好きだ。空想、宇宙、異世界、魔法、エルフ、獣人にあこがれがある。ラノベの異世界物で剣と魔法が凄くかっこよく映るんだが、無いものねだりなのかもしれないし、チートでテンプレ風な進行具合に安心感があるのも確かだ。

 ゲームはFPSやMMOと言われるジャンルが好きで、銃を撃ちまくるゲームや剣と魔法で冒険するゲームをプレイしている。いっしょに遊んでくれるゲーム仲間も数人いて夜な夜な夢中になっているが、拘りがないからだと思うが、どのゲームもレベルはそこそこで中の上ぐらい。達人にはほど遠いレベルだ。楽しむ事が大事だと思っている。

 昨夜のゲームは、魔法は中級、剣は上級のお気に入りのエルフキャラで仲間とダンジョンを探検してきた。なかなか良く出来たゲームで、風景はキレイだし、キャラメイクもやりがいのある、良キャラであった。『こんな見た目ならモテモテじゃねえか』と仲間と爆笑した。こんな世界で好き勝手やって自由に生きていけるのならいいなぁなんて思ったりもするが、現実問題として人や動物を殺せるだろうか。ましてや解体して素材や肉を取ったり俺には無理ゲーな気がする。命の軽い世界で血を見るのに慣れるのだろうか、なんて事を考えたりもする。

 翌朝、目覚めるとゲームを点けたままでキャラはギルドの建物内にいた。いつの間にか俺は寝落ちしてベッドに潜っていたらしい。ダンジョンを出たところまでは覚えているが、ギルドに戻った覚えはなかった。電気代もバカにならないご時世、ゲームは消すようにしていたのにと後悔してしまう。


 会社に出勤すると初めてのところの納品伝票があった。初めての所はウキウキするが、ちょっと距離が遠い。近場のいつものお店を廻ってから初めての所かなと段取りをつけ、事務所にルートメモを出し俺は出発した。いつものお店で、装わなくてもそこそこ好青年ではあるが、好青年を装い納品対応した。数件廻ったあたりで雨が降りだし、遠くで雷もなっている。出掛けるには良い天気とはいえないが、これも仕事だと俺は車を走らせ納品にあたった。

 初めてのお店は隣町にあり、田んぼが広がる田舎道を走って隣町を目指していると土砂降りの雨と雷の酷い天気だ。車には雷は落ちないらしいという話であるが、こんな何もない田んぼ道じゃ雷の良い的じゃないかと思う。先を急ぎたいが雨が酷く前が良く見えない。こんな日は家でお気に入りのゲームするのが一番だよなぁなどと思ってしまう。帰ったら今日もエルフキャラでゲームだな。

 安全運転で走っていると、『ピカッ!』と光ったと思ったら目の前が真っ白になり、俺の意識は無くなった。

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