6th PHASE:YOU AND I,WALK AND SMILE

 一ヶ月後ーー。

「う、ん……」わたしは目を覚ました。「お目覚めかい、京」イザムがいた。「イザム、よく生きて……あっ、その足は」見るとイザムの左足が義足になっている。「ソフィアにやられてね。何とか自分で拵えた」「そう……ここは?」「日本のどこか、としか言えないね」「今はいつ?」「あれから約一ヶ月だ」「ソフィアはどうしてる?」「いまは大人しくしているよ」

 わたしは薫のことを思い出した。「薫……ううっ」涙が出てきた。イザムが頭を撫でてくれた。「みんなを探さなきゃ……」「みんななら外にいるよ。おーい、京が目を覚ましたぞ!」「え、どうしてここが?」「忘れたのかい? 薫の指示できみが以前エブリデイのバックアップを取っておいたじゃないか」そうだった。完全に忘れていた。一ヶ月も寝ていて頭が呆けているのかな。

「おはよう、京!」とキリトが挨拶した。ぞろぞろとみんなが集まってくる。「みんな、無事でよかった……」とわたしは泣きそうになる。「お、こいつ泣いてるぞ。なあ!」みんながくすくすと笑い出した。「こ、これは汗だよ!」キリト、アイジ、マナ、椎名、ユキが揃っている。「他の奴らはやられちまったけどな」マナが沈鬱な声で言った。場が静まる。「ところで、これは薫の遺言なんだが」キリトが切り出した。「次のリーダーはお前だ、京」「え、わ、わたしはそんな器じゃないよ!」と抗議するも、「まあ、俺もそう思うんだが……。他ならぬ薫が言ったんだ。俺はそれを尊重したく思う。それに京、お前変わったじゃないか」キリトの意見にみんなが頷く。「よく喋るようになった。表情もコロコロ変わる様になったよな」そうかもしれない。わたしの中で何があったのか。自分でもよく分からないけれど、確かにわたしは変わった。「薫が言ったんだよね。わかった。リーダー、引き受けるよ」「よし、なら次何をすればいいか分かるよな」とアイジ。「ソフィアの再封印とエブリデイの再建」わたしは応えた。「合格だ。ただ後者は公安に任せる」「え、公安と連絡とれるの?」「凄腕ハッカーは向こうにもいるらしい。直接通信でコンタクトしてきた。ご丁寧にアルス・マグナが眠っている場所まで教えてきやがった。まったく意地の悪い連中だ」そう、トランスフェール・システムは神の封印のために一人の犠牲者が必要なのだ。「そう……。じゃあわたしがダイヴするよ」わたしは決心した。「いいのか?」「わたしはナトゥーラのリーダー。みんなを守るのもわたしの仕事」「そこまで言うなら……。任せる。みんな、それでいいか?」キリトがみんなに訊いた。違を唱える者はいなかった。「じゃあアルス・マグナの位置を教えて」「国会議事堂跡の地下だ。公安課の連中がお膳立てしてくれるらしい」わたしが訊き、キリトが応えた。「よし、じゃあ早速行こう」「お、リーダーらしくなってきたじゃねえか。じゃあみんな、行くぜ」「了解」

 わたしはナトゥーラのリーダー。薫より継承された身分。よし、がんばるぞ。


「ここは……どこ?」見ると大地が真っ赤に染まり、寸断されている。一方では隆起し、他方では沈んでいる。

「現在地がおそらく成瀬だから、あっちの方へ真っ直ぐ行けば目的地に着くと思う」心許ない応えが返ってきた。

「京、念の為これを」キリトがベレッタを差し出した。「うん、ありがとう」わたしは拳銃をスカートのウエストに突っ込んだ。

 しばらく歩いていると、向こうの方に白い動物らしき生き物が何かを食っていた。「〈天使〉だ」「何それ」わたしは訊いた。「ソフィアから産み出される化け物だ。人間を食う」言うなり、みんなが抜刀した。わたしも早速ベレッタを抜き、安全装置を解除した。近づくと天使は三匹いる模様。確かに人間を食っている。わたしは一番大きい天使を狙って、発砲した。それは見事に命中し、破裂した。すると残りの二匹がこちらに気づいて襲いかかってきたが、キリトとユキがあっという間にそれを両断した。「これは弱い方。もっとデカい奴もいる」ユキが日本刀を鞘に収めた。

 目的地に着くまで、多数の天使に襲われた。それらを薙ぎ払い、わたしたちは進んでいく。「出た」「ああ、デカいな」身長十メートルはあろう巨大な天使が現れた。それは今までと違ってヒトの形をしている。「アイジとマナと椎名は先行して天使の注意を向けて! その間にキリトとユキは左右に回り込んで!」わたしは指示を出した。「了解!」戦闘経験が少ないわたしなんかの戦術はこれで良かったのだろうか。だめだ、弱気になるな! わたしはリーダーなんだ。自信を持て! みな世界崩壊後はディシプリン・アーマーを纏っていないので戦闘能力は比較的低いが、天使ごときを倒すくらいは余裕があった。キリトとユキが足を切り落とし、倒れた天使の首を取った。

 ややあってトラックがこちらに接近してきた。キリトが呟いた。「公安の竹村だ」公安からの直接通信で、こちらに着くのがあまりにも遅いから迎えを出す、とのことだった。まあ一ヶ月も寝てればね、とわたしは苦笑した。

 トラックに揺られること一時間、目的地に到着した。わたしたちは車を降りる。そこには市川と田渕が待っていた。「公安課課長の市川だ」「ナトゥーラの京です」二人は握手を交わした。「まず謝らせて欲しい。きみたちにトランスフェール・システムを預けることを」「いいんです。もう決めましたから」市川は苦渋の表情で、「すまない」と言った。「さあ、こっちよ」田渕が催促した。田渕の後を付いていくと、向こうに磯部、白川、上田、竹村がいた。そこに入口があるのだろう。わたしたちがそこに着くと、地面にマンホールの二倍くらいの大きさの丸いシャッターがあった。上田が、「パスワードは解析済だ」と言った。「それよりも周りが気になるんだけど……」周囲には五人の男たちが倒れている。「ああ、これね。グラーチア教の連中だ。邪魔するもんだからぶっ飛ばした」と磯部。ああ、これが「お膳立て」ね、とわたしは納得した。「じゃあ早速開けてくれ」キリトが言った。「その前に確認したい。飛空挺を操舵できる者はいるか」田渕が訊いた。「ぼくがやりましょう」イザムだった。「一応メカニックマンなんでね。何とかなるでしょう」「結構。アルス・マグナの制御システムはすべてAIに任されている。あとはそいつのケツを叩く者が必要なのだけれど……。ナトゥーラにもハッカーがいるわね」「わたしです」と名乗り出た。「へえ、きみが……。あなたならできるでしょうね」田渕の発言に敬意を感じた。「ソフィアはいまヴァチカンの上空にいる。そしてアルス・マグナの進路は東京湾に繋がっている。あとは操舵士の腕次第ね。確認は以上だ。上田」「了解」上田がキーボードをカタカタ鳴らすと、シャッターが開いた。「さあ、道案内はここまで。あとはあなたたち次第よ。この世界の未来、あなたたちに託すわ」「はい、行ってきます。エブリデイの方はお任せしますね」


 暗いトンネルを梯子だけを頼りに降りていく。今は地下四階くらいだろうか。わたしは田渕さんのことを考えていた。あの佇まい、彼女をこそリーダーと呼ぶのだろう。それに比べてわたしは……。いけない、また弱気になってる。そもそもなぜ薫は次のリーダー候補にわたしを指名したのだろう。わたしの知らないわたしを、彼は見ていてくれたのだろうか。なんて、考えてもしょうがない。今はわたしにできることを全力でやるしかない。がんばれ、わたし! と、自分に発破したところで、一番先に降りたキリトが声を上げた。「おーい、ここまでだ!」

 全員が降りたところの前に、ハッチがあった。これだ、アルス・マグナ。「よし、行こう」わたしは、わたしを含めたみんなに言った。

 船内に入ると、パッと照明がついた。各自が持ち場に着く。わたしの席はあそこだ。中央のコンソール・シート。さすがに前世紀に造られただけあってマシンは旧式だけれど、どこをどうすればいいかは一瞬で分かった。やはり機械に囲まれていると落ち着く。そこで、「これは古い物だが、うーん、そうだな、ぼくにも扱えそうだ」イザムが背中を押してくれた。わたしは深呼吸をして、「全艦、発進準備!」AIを走らせる。全方位型のモニターが付いた。この子、わたしと友達になれそう。「カウント省略、メイン接続!」オペレーター・シートにあるモニターがコンタクトを告げる。「いくわよ! アルス・マグナ、発進!」飛空挺は飛んだ。暗いトンネルを抜け、海に入る。そのまま上昇して空に上がり、ヴァチカンへと進路を向けた。「ヨーソロー!」イザムは問題なさそうだ。わたしも大丈夫。きっと上手くいく。

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