3rd PHASE:TURN ON THE LIGHT

「くそ、まただめだ!」

「何度やっても被験体が死ぬだけだな」

「これがナトゥーラを潰す唯一の手段なのだが……」


「入団希望者だと?」ブラントン・ブラックを飲みつつ薫は椎名に訊いた。「ええ。エントランスで待たせているわ」「よし合格。通せ」「え、もう?」「そいつは俺らのアジトを特定し、京が張った何十ものセキュリティを突破してきた。十分すぎる実力だ」「わかったわ、いま連れてくるから」

「しかしあれだけ派手に宣伝したのに入団希望者はたった1人かー」アイジがぼやいた。「まあ、でも見てみろよ。世論調査。ナトゥーラ支持者がゲルフ党に優っている」とマナ。「マスコミは俺らが占拠してるわけだけどな」「ま、そうか」

 程なくして、椎名が入団希望者とやらを連れてきた。金髪のツインテール、ブラックのニットにグリーンの総柄スカート、タイツを履いてグッチのパンプスを合わせている。そして腰には長い日本刀を携えている。「ユキです。よろしく」

「ああ、よろしく。キリト」と薫。「わかった。ユキ、ちょっと腕を見せてもらうぞ」キリトは抜刀し、ユキに斬りかかった。ユキは難なく躱してみせる。ヒュン、ヒュン! キリトの剣戟をユキは全て躱し、隙を突いて抜刀術を決めて見せた。刀はキリトの喉元を捉えている。「やるな。即戦力だ」キリトは冷や汗をかいている。「合格、でよろしいでしょうか」「ああ。改めてよろしくな。俺は薫。ナトゥーラのリーダーだ。いま殺陣を演じて見せたのはキリト、お前を連れてきたのは椎名、そこでブラントンを飲んでるのがアイジとマナ、あっちで索敵してるのが京だ。敬語はいらないぞ」「わかった。みなさんよろしく」

「それで、次はどうする」キリトが薫に訊いた。「官僚を狙う。ただし霞ヶ関すべてを押さえる必要はない。官邸に集まっている奴らだけで十分だ」「ああ、エブリデイの維持とメンテナンスのためね」早速ユキが会話に参入してくる。「それもある。もう一方の理由は、奴らに恐怖を内面化させることだ」「なるほどね。シンプルで良い。だが爆薬は議事堂のために全部使ってしまったぞ」とアイジ。「そこまでしなくていい。代理人を皆殺しにすればいい。その後で放火でもすればニュースになるだろ」「オーケー、それで行こう。いま昼だから、奴さんみんな集まってるんじゃないか?」「うん、早速行くか。ただ公安がどう出るか読めないから、二十名くらい連れていこう。半分は中へ、もう半分は外で待機。ソラも連れてな。ユキ、きみにも来てもらうぞ」「了解」「了解」


「官邸のセキュリティが固い。もう少し待って」ゴーグルを付けた京が珍しく苛立ちの表情を見せた。「連中も戦いのコツを学んできたか。中に何人いるかわかるか?」「それは分かる。五十人くらいいる」「ヒュー」キリトが口笛を吹いた。「レベル5クリア……レベル6……いけない!」ドカン! 京の身代わり防壁が爆発した。「攻性防壁か……。仕方ない。力づくで行くぞ! 京、ご苦労」

 ディシプリン・アーマーたちがシャッターを破壊して突入した。そこにはやはり総勢五十名ほどのディシプリン・アーマーたちが控えていた。「数だけじゃない、狙撃にも注意しろよ! ソラ、進路を開け!」そこでリーダーらしい男が叫んだ。「散開しろ! 各自フォーメーションを崩すな!」(読み通り……! これでソラ達が敵を引きつけておく間に俺一人でも官邸に入れる。時間稼ぎなどさせるものか!)

 ソラやキリト達が作戦通りに連携して各個撃破している内に、薫は跳躍し官邸前まで辿り着いた。「ここから先へは行かせんぞ!」敵のディシプリン・アーマーが立ち塞がったが薫はそれを無視した。フェイントし、隙をついて側を抜けた。

 薫が官邸に侵入した頃、他のナトゥーラのメンバーは善戦していた。特に目立つのはユキである。ディシプリン・アーマーを己の身体のように操作し、たった一人で十人は倒したのではないか。なんて頼もしい女なんだ! キリトは勝利を確信した。

 薫が会議室を蹴破ると、そこでは十二人の官僚が脱出の準備をしているところだった。数は揃っている。間に合った! 薫はディシプリン・アーマーを駆り、瞬時に官僚達を抹殺した。

 薫が官邸から出てきたことで、ナトゥーラも軍も事態を察した。軍の指揮者は苦虫を噛み潰したような表情で、「作戦は失敗だ! みな撤退するぞ!」と叫んだ。軍人達がこちらを牽制しつつヘリへと退いていく。「させるかよ、ソラ!」ソラは六百ミリ大口径砲弾をヘリに向け発射した。命中すると、爆炎によってすでにヘリに乗り込んだ者、これから乗り込まんとする者の全てを焼き尽くした。「全員殺す!」キリトらは剣を振り、残存兵をそのようにした。

 爆発したヘリから沸き出る炎は官邸にまで及んだため、放火するまでもなかった。


「B1からの連絡は」市川が田渕に訊いた。「まだないわね」「役立ずが……」「どうする?」本部を攻めるか、という意味だ。「もう少し待ってみよう」

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