第118話 炎上目的
レッスンが終わり、帰り支度をしているときだった。
赤坂さんが怖い顔で私達に手招きをしてきた、
なんだろう。なんか叱られるような事したっけか。
皆でこわごわ赤坂さんの近くに集まると、赤坂さんかタブレットを私達に見せてきた。
「莉子ちゃん、覚えてる?」
「莉子ちゃん?うん、まああんな事あれば覚えてますよ」
私達はすぐに頷いた。
「じゃ、莉子ちゃんのやってる動画チャンネル見てる?」
「あー、動画チャンネルは……」
少し私は言い淀む。
莉子ちゃん。仲良くさせてもらっていた弾き語り系アイドル。ステージでマネージャーとの結婚アンド妊娠を発表して、ステージをめちゃくちゃにした。その後の阿鼻叫喚なステージで私達が踊る羽目になったことはよく覚えている。
時が経ち、莉子ちゃんも可愛い赤ちゃんが生まれたので、今はテレビやステージの仕事はしていない。
たまに動画配信で色々やっているようだが、度々炎上している、いや、させているらしくて、正直私は見ていられなかった。
あんなに可愛くて歌が上手いアイドルだったのに、わざと人の悪口を言う動画をアップする莉子ちゃんを、見たくはない。
「まあいいや。さっき事務所から連絡あってね。ちょっとこれ見てくれる?」
「はあ」
怖い顔の赤坂さんがタブレットで動画を再生した。
『こんにちはぁ!莉子です。じゃあ今日も張り切って配信していこうかなぁ〜』
ニッコリと笑いながら配信をしている莉子ちゃん。
「ちょっと時間無いから問題のとこまで進めるね」
そう言ってスクロールさせる。
『……でね、次の動画で歌ってみた動画作ろうと思うから何歌って欲しいかコメント欄で募集するねー。前にきたリクエストなんかだと、やっぱりアイドルソング多いよね。王道は花水木組か、あと、アップルリングの曲もイマドキって感じでカッコいいよねー、あとはLIP‐ステップかあ』
私達の名前が出で、思わずドキリとした。
『LIP、私は前よく一緒に仕事してたから曲とか分かるけど、あんまり有名曲無くない?まあ話題作りは上手いからグループ名は今ちょっとキテるけどさー。そうそう、ネットで話題だよね!LIPの牧村好葉の事!』
「え?」
「え?そうなの?」
「え?私もわかんない」
私達は一斉に顔を見合わせた。知らないうちにネットで話題になってるとかちょっと怖い。
『女優の花実雪名さんのSNSに、牧村好葉との変な百合百合したエロ漫画が送りつけられたってやつでしょ。すぐに抹消されたみたいだけど、さすがに悪質だからすぐに事務所が声明出すかと思ったら、全然ダンマリでさ。これ、ダンマリ決め込んでるのは、牧村好葉の売名させるためにあえて放置してるとか噂あるよね!花実さんのSNSには次々エロ漫画送りつけられてるらしいし、花実さんのファンはその事で不満持って牧村好葉を敵視してるとか……』
「そんな!!」
私は思わず真っ青になって立ち上がった。
「嘘、そんな事になってたの!?赤坂さん!これ……」
「落ち着いて、こんなの、嘘八百よ」
赤坂さんは私をドウドウとなだめた。
「莉子ちゃんが適当に言ってるだけ。第一、花実さんはうちの稼ぎ頭だよ。好葉の売名なんかに使うわけないでしょ。
大げさにしなかったのは上の判断。花実さんも別に気にしていないようだし、それに莉子ちゃんが言うほど話題になってなかったから、それで声明なんか出したらかえって広めることになっちゃうから無視することにしたらしいわ。
さらに言うと、次々変なのが送りつけられてるなんて事実も無い」
「なぁんだ!莉子ちゃんの勝手な妄想なんじゃん!好葉!気にすることないよ!」
爽香がバシバシ私を叩く。
しかし、奈美穂の方は、動画をじっと見ながら不安そうに赤坂さんに言った。
「あの、この動画、再生回数結構すごくないですか……他の莉子ちゃんの動画の10倍くらいありますよ。これ、もしかして莉子ちゃんのファン以外も見たってことですよね?」
奈美穂の言葉に、赤坂さんが険しい顔をする。
「そう、それなの。莉子ちゃんのただの妄想話なのに、これだけ見られてたらそれが本当だと思う人がいる。ちょっとこうなるとイメージが悪い」
そう言って、赤坂さんはダンッと拳を壁に突き立てた。
「今が……いい注目のされ方してるし……いい曲も貰ったし……今がチャンスなのに!!こんな小娘のただのインプ稼ぎみたいなの炎上目的に使われるなんて……」
「あ、赤坂さん?大丈夫ですか?」
いつものしっかりした赤坂さんとはまるで別人のようにぶつぶつと呟くので、奈美穂なんかは真っ青になっている。
赤坂さんは、ハッと我に返ったように自分の頬をパンと叩くと、またいつもの真面目な顔に戻って言った。
「とにかく!これ、今上に交渉して対策して貰うようにお願いしてる。動画の停止とか色々……。ただね、好葉」
「は、はいっ」
「しばらく、ほとぼりが冷めるまで、花実さんと会わないようにしてもらえる?上の判断も待ちたいし」
「……はい」
私は頷いた。赤坂さんは何とかしてくれるだろう。私達のことだけなら放置されかねないけど、雪名さんの事もあるから事務所は黙ってないだろう。
ただ一つ、私は心がざわめいていることがある。
「あの、赤坂さん」
「何?」
「雪名さんのファンが、私を敵視してるって……それも莉子ちゃんが勝手に言ってるだけ、ですよね?」
「……そうよ。勝手に言ってるだけ」
赤坂さんは優しく言ってくれた。
でも私は気づいていた。一瞬明らかに言葉に詰まった。
敵視、されちゃってるんだろうか。
それはちょっとショックだなぁ。
「ごめんね、本当はあなた達の耳に入れる前に対策したかったんだけど、思ったより拡散力が強かったから教えておかなきゃと思ったの。でもあなた達は今できることを頑張って。歌、ダンス、そして大事なファンへの対応。こっちはまかせて、ね?」
赤坂さんは、主に私の背中をポンポンと叩きながらそう言った。
爽香がニッコリと頷いた。
「ありがとうございます。頑張ります。ね?二人とも。ほら、好葉もそんな顔しないの!」
「うん……ありがと」
私は力無く、二人に頷いてみせた。
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