第117話 匂わせ
雪名さん、美里ちゃん紗弓さん達とのランチ会から数日後。
私達は新曲のダンスレッスンをしていた。
今回は以前地方でのライブツアーをした時に知り合ったオオタカさんが作曲してくれたのだ。
あの時はクソ老害ジジイだと思っていたけど、なんやかんやであの後色々と交流をさせてもらい、新曲を作ってもらえることになったのだ。
ゴッチゴチのロックナンバー。
オオタカさんには昔からの根強いファンがいるので、オオタカさんのファン達が私達を検索してくれたので、いつもとちょっと違う客層からのアクセスが多い。
「やっぱりこの世界、人付き合いって大事なんだねー」
レッスンの休憩中、爽香が感心するように言った。
「ゴッチゴチのロックファンが私達フォローしてくれてるんだよ。これは来たね。時代が来るよこの曲で」
爽香の言葉に、奈美穂が思い出したように言った。
「前のミュージカルで会ったベテラン俳優の木村さん、オオタカさんの古参ファンなんだそうです。話したら興奮してて。CD送るって約束したんです」
「えー、いいじゃん!良い広告になりそう。『木村氏も推薦』みたいな」
「それは絶対だめ」
急に奈美穂が真面目な顔で、爽香に釘を刺す。
「木村さんは超真面目で、自分の名前勝手に出されたり、何かに利用されるの大嫌いなんです。前に木村さんに褒めてもらった女優さんが『このドラマ木村さんも褒めてくれて〜』みたいに言ったら、共演NG食らったらしくて」
「お、おぉぉ……そうか。そうだよね。そういう人もいるよねぇ」
爽香は少し小さくなった。そして、今度は気を取り直して私の方を向いた。
「そう考えたら花見さんって超器でかいよね。いつもこまめにうちらの作品匂わせしてくれるもんね」
「あ。ま、まあ……」
雪名さんは基本的に白井さんにSNSの投稿は丸投げしてるので、やってるのは白井さんなんだけど。
「……ねえ、私って、やっぱり雪名さんの事、知名度の為に利用してるかな?」
私はボソリと呟くように二人に問いかけた。
二人はキョトンとしている。
「利用?……そんなわけ無いでしょ。仲良しだったら、ふつうに宣伝したりするじゃん。マイカちゃんみたいにさ」
「そうですよ。それに、宣伝して貰うために一緒にご飯行ったりしてるわけじゃないですよね」
そうなんだけど。
でも前に社長に言われた事がこびりついている。
雪名さんも、利用し利用されが当たり前だって、別に構わない、とは言ってくれたけど、それってつまり、やっぱり私が利用しているって認識なんじゃないか、って思ってしまう。
「はーい、おしゃべり終わりだよー、レッスン再開するよ!」
ダンスの先生の声で、私達はまた立ち上がった。
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