第116話 イメージ戦略
「え?どうゆうこと?え?女優さんにもそういうのあるの?私達みたいなアイドルなら……まあそういうメンバー同士のそういう空想して楽しんでる人がいるのも知ってるけど……」
私は動揺して、雪名さんから取り上げたスマホを見つめた。
……えっちい。なにこれ超えっちい。てか絵上手っ!
「好葉みたいなアイドルなら、こういうことよくあるの?好葉はどっちと?」
なぜか雪名さんは面白がって聞いてくる。
「どっちとっていうか、まあ皆でイチャイチャ的なのが結構……。てかこんなえろいのは見たこと無いので……。正直あんまり派手じゃなきゃ放置しといた方がいいって判断で……むしろあえてこちらからそういうGL的な営業も多少は……
って私達の事はどうでもよくって!!」
私は慌てて我に返る。
「な、なんで雪名さんと私が、こんな、こんな、は、は、は、破廉恥な……」
「……いえ、雪名様と牧村さんの仲良しっぷりはファンの間で有名なので……」
ブツブツと紗弓さんが怖い顔で呟いている。
「雪名様、不快でしたらこんなのを送りつけた人を突き止めて私が抹殺させて頂きます」
「あら、頼もしいわね」
いや、頼もしいじゃないから。
「雪名さんやめてください、けしかけないで。紗弓さんも冗談ですよね?」
私が慌てて言うけど、紗弓さんは一切冗談の顔をしていなかった。
「それにしても、これを書いた人は好葉に夢を見すぎよね。好葉はこんなに胸が大きくないわ」
急に雪名さんが意地悪を言ってくる。いいもん、Lipのボイン担当は爽香だもん。
「雪名様、何で牧村さんのバストサイズをご存じなんですか?まさか」
「だって、一緒にお風呂入ったことあるもの」
雪名さんの発言に、紗弓さんは一瞬宇宙に行ったような顔をしたが、すぐに戻ってきて「なるほど」と神妙に頷いた。その神妙さがちょっと怖い。
「でも多分、アンチとかでは無いと思います。暴走ファンっていうか、ちょっと非常識系のファンが良かれと思って送ったやつじゃないでしょうか。対処は事務所にお任せでいいのではないでしょうか。放置なり注意喚起なり」
急に真面目な顔になって紗弓さんはアドバイスしてくれる。
さすがマネージャーをしているだけある。
「もし美里にこういうのが来たら、未成年なので厳重な注意喚起を事務所で出してもらいますけど。雪名様がこれをどう対処するかは雪名様の売り方とかイメージ戦略次第なのではないでしょうか。
さっきも牧村さんがチラッと言ってましたが、牧村さんのグループはあえて放置して、むしろそういう営業参考にしているようですし。
まあ、今回はちょっと性的なものなので参考には出来ないでしょうが……」
わあ、ちゃんと私が漏らした事もちゃんと聞いていた。やっぱ実は紗弓さんは優秀マネージャーなのでは。
「そうねえ」
雪名さんは真面目な顔になって悩んでいる。
「大変なのよね。イメージ戦略って。ストレス溜まっちゃうし」
雪名さんは小さくため息をつく。
女優としては冷血・クール・人を殺しそう。しかし本性は明るくて優しい。
そんなイメージ戦略を続けている雪名さんは、これ以上変なイメージ戦略などゴメンだろう。
「でも、変に否定するのも、逆に嫌よね。それに、この私とこんな関係だって妄想されるのも、好葉にとっては好都合なんじゃないの?知名度戦略的に」
「え?」
思いがけない言葉に、私はキョトンとして変な声が出た。
「何なのその顔。この私とこういう関係性を噂されて、好葉にデメリットがあるとでもいうの?」
偉そうにたずねる雪名さん。紗弓さんがいるのに、女王様が漏れ出てしまっている。
「私にデメリットはありませんが、雪名さんにメリットもありません。こういうことで雪名さんを利用するわけにはいきません」
私が言うと、雪名さんは肩をすくめた。
「何言ってんのよ。この世界、利用し利用されが当たり前でしょう。チャンスがあればなんでも利用しないとのし上がれないわよ」
「でも」
私ははっきりと答えた。ここで引くわけにはいかない。
「私は利用したくないんです」
「ふうん」
雪名さんは短く返事をした。雪名さんの感情は読めない。
「ま、好葉がそうなら、とりあえず白井さんに丸投げするわ。紗弓さんの言う通りなら害は無さそうだしね」
雪名さんがあっさりとそう言ったので私はホッとした。
「犯人の抹殺は必要ないですか?」
紗弓さんが真面目な顔で物騒な事をたずねる。
「今のところは必要ないわ」
真面目な顔で雪名さんも答える。
今のところ、っていうのが引っかかるけどもう突っ込むのも面倒だ。
「やー、ここおしゃれトイレ過ぎて水流すとこどこだかわかんなかったよー。あれ、皆さんなんか真面目な顔でどうしたんですか?」
美里ちゃんがあっけらかんとした顔で戻ってきたので、慌ててスマホを隠す。
「なんでも無いよ。今後のイメージ戦略についての会議をちょっとね」
紗弓さんが適当な事を言って誤魔化すと、美里ちゃんは急に笑顔になった。
「お姉ちゃん、やっと花実さんの近くにいれるようになったんだね」
その言葉に、紗弓さんはハッとしたようだ。
雪名さんと膝を突き合わせるくらいに近くにいることに、今更気づいたようで、声にならない悲鳴を上げて、逃げ出すように後ろに下がった。
「も、申し訳ない!!雪名様のそんな近くに……」
「あら、別にいいのよ。間違えて足踏んじゃうくらい近くても」
「いえ、そんな、雪名様のお御足を踏んだりしたら自害させて頂きます!踏んだ奴も抹殺させて頂きます!」
「それは困る」
私はドキドキしながら言った。
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