第115話 なまもの

 数日後、可愛らしくもなかなか高そうなお店で、私と雪名さんと森野姉妹とのランチは開催された。

 美里ちゃんとは最近会ってなかったので久々である。久々に会った美里ちゃんはちょっと大人っぽくなっていた。


「今度ドラマ出るんです!」

 美里ちゃんはコーラを飲みながら嬉しそうに報告した。

「っていっても、主人公の妹のクラスの同級生、ってやつで、ほぼセリフもないんですけど」

「絶対見るわ」

 雪名さんが食い気味で言った。

「初めてのドラマの出演なんてそんなもんよ。私だって初めは数秒だったわ」

「花見さんにそう言ってもらえると勇気出ます!」

 美里ちゃんはキラキラした顔で言った。

「お姉ちゃん、私のドラマ決まってからすっごくエゴサしてて。でも、ちょうど出演者発表の日に、なんか女優とハリウッド俳優の結婚のニュースと被っちゃって、あんまり話題になってないんですよ」

「あー、それはちょっと残念でしたね」

 私は先日の奈美穂のミュージカルの時のことを思い出しながら言った。

 あの後、芸能ニュースはほぼ連日あの結婚のことばかりになっていたので、色々話題作りに失敗したタレントは多そうだ。


「でもファンの子達は皆反応してくれたわよ。テレビはその話題持ち切りだったけど、ネットでは案外通常運行だったよ」

 紗弓さんが、美里ちゃんを慰めるように口を挟んだ。


「……それにしても紗弓さん、何でそんなに離れてるんですか」

 紗弓さんは私達のテーブルにはいるものの、椅子をずっと離して部屋の隅でアイスコーヒーを啜っている。

「だって、そんな、雪名様と同じ席に座るなんて恐れ多い……私は壁になってるので、どうぞ美しい者達の宴をお楽しみください……」

 久々に会った紗弓さん、何かが悪化している。

「あ、最近出た雪名様の表紙の雑誌、3冊買わせて頂きました。大変麗しくて最高でした」

「あら、ありがとう」

 雪名さんはニッコリと微笑んで見せる。雪名さんの微笑みで、紗弓さんは昇天している。


「もー、お姉ちゃんったら。落ち着いてよ。ほら近寄って近寄って。あ、私トイレ行ってくるから、ここに座ってていいから」

 そう言って、美里ちゃんは席を外した。

 美里ちゃんの席、つまり雪名さんの隣の席が空いたけど、紗弓さんは決して近づこうとはしなかった。


「ねえ紗弓さん。私のファンの心理として聞きたいことがあるんだけど。これ見てほしいの」

 雪名さんはふと、美里ちゃんが席を外したのを見計らって紗弓さんに話しかけ、自分のスマホを差し出した。

 紗弓さんは恐る恐る雪名さんに近づく。

 私も興味津津で近寄った。


「ねえ、これ、私のSNSに送りつけられて来たんだけど、何が目的だと思う?ファンとアンチ、どっちからかしら」


 雪名さんがそう言って見せてきたものを見た瞬間、私も紗弓さんも真っ赤になって悲鳴のような声で口を揃えて叫んだ。


「雪名さん(様)が見てはいけません!!」



 そこにあったのは、どう見ても雪名さんと私をモデルにした……その……えっと……官能的な漫画だった。


「……御本人にナマモノなんか送りつけやがって……どこのどいつかしら」

 紗弓さんは見たこともないほどこわい顔をしていた。

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