第107話 女王様達の宴②
「ところでアズサさんが脅迫されてる内容って……」
奈美穂は、唇を噛んで悔しがる私を無視して、アズサさんに向き合った。
アズサさんは、奈美穂の顔をちらりと見て、小さく笑った。
「花実から聞いて知ってるんでしょ?」
「でも、もうしてないんですよね?」
「まあ、もうそんな事しなくても仕事とれるし」
「聞きた時はびっくりしたけど。でも……嫉妬とかで意地悪しちゃうのはわからないでもないっていうか」
「……意地悪?」
アズサさんはポカンとした顔で、奈美穂を見る。
そして、私、雪名さんの方も見る。
雪名さんはニヤリと笑っている。
「あら?違うの?昔、若かりし頃に私の足踏んだりしたこと」
「あんた……」
アズサさんは鬼みたいな顔で雪名さんを見る。
「もしかして、アズサさんの内容は違うんですか?」
奈美穂がたずねると、アズサさんは半笑いで
「ううん、その内容だけど」
と目をそらした。そして、ふと、何か考え込むようにブツブツとつぶやき出した。
「……あれ?なんか……おかしくない?」
「どうしたの?」
「いや、その……もしかして」
アズサさんがハッと我にかえったように顔をあげる。
「え?もしかして……そうなの?花実、気づいてたの?」
「え?なんの事?」
雪名さんは楽しそうに微笑んでいる。
私達にはなんの事だかさっぱりわからない。
「私はただ、この脅迫状の件なんか、どうでも良かったの。ただ、久々に川越の話が出たし、大事な事務所後輩の共演者だって聞いたから、あー、またお話したいなぁって思っただけよ」
雪名さんはそう言ってワインをあおった。
雪名さんが誰かにこうして会いたいとか言うなんて珍しい。やっぱり、雪名さんも、自分の裏の顔を知っている友人が欲しいんじゃないだろうか。だって今とっても楽しそうだし。
……まあ仲良く、というより、弄って楽しんでるように見えるけど。
「ま、だから川越に近づくためにちょぴっと奈美穂を利用させてもらっちゃったけど」
雪名さんの言葉に、奈美穂は目を泳がせた。
「せ、雪名さん!そんな言い方……」
私が慌てて執り成すように口を挟んだ。
「あんまり利用するとか言うもんじゃないよ。それも本人のいる前で」
アズサさんが、まともな注意を言い放った。
「花実はまだ芸能界に染まってもない十代の頃からそんな事言ってたわよね。利用し利用させるのが当たり前、みたいな言い方。可愛くなかったわ」
「あら?川越はそんな事無いっていうの?単に親切で、奈美穂にあんなに世話やいてたってわけ?」
「親切なわけないでしょう」
アズサさんがキッパリと言い切るので、奈美穂がまた暗い顔になっている。
ああもう、なんでアズサさんそういう言い方しちゃうの!
私がやきもきしていると、アズサさんは、勢いよく奈美穂の頭をおしぼりで叩いた。
突然の事に、奈美穂は勿論、私も愕然とした。
「なんでそこで暗い顔すんのあんたは!」
「す、すみません……」
「だからだめなの!顔に出すな!いつも言ってるでしょ!」
「は、はい!」
「メンタル弱すぎってバカにしてくる共演者見返してやるんでしょ!」
「はいっ!頑張ります!」
「よし!じゃあ気合い入れてドリンク飲む!」
「はいっ!飲みます!」
た、体育会系……。
私は、ウーロン茶を一気飲みする奈美穂を呆然と見つめていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます