第106話 女王様達の宴①

 初めは、私と奈美穂が同席したら深い話はできないかと思い、対決の際には別テーブルで食べるのことを提案したが、雪名さんは断った。

 大丈夫、問題ないわ、と胸を張っていたが本当だろうか。



 そして、夜の七時に待ち合わせであるオシャレなレストランにつくと、もうすでに雪名さんとアズサさんは中に入っていたようだ。

 大変、女王様達をお待たせしてしまった!


「す、すみません!お待たせして!」

「あら、好葉、奈美穂、早かったわね。でともう私達は仲良く始めちゃってたわ。ねえ?」

 雪名さんは満面の笑みでそう言ってくる。

 アズサさんも大変な笑顔だ。

「そうね。とっても楽しくお話したよね。とか?とか?」

「うふふふ。楽しかったわねえ」


 パッと見仲良しそうにしているけど、なんだか空気が怖い。


「あ、そう言えば、はもうすでに話し合い始めちゃってたわ。今は小休憩だからとりあえず楽しくお食事しましょ?」

「えっ!」

 雪名さんの言葉に、私はなにげにガッカリした。正直、野次馬根性で、あの脅迫事件が二人の女王様の間でどんな対決をするのか、はじめから見たかったのだ。


「解決、しそうですか?」

「解決?さあ?お互いに『お前がやったんだろう!』って言い合って、証拠もないからお開き、みたいになりそうかもね」

「全然解決してない」

 私は呆れたように言う。まあそんな刑事ドラマみたいなやり取りを二人がしたとは思えないので、多分本当は冷戦の如く淡々と話し合ったに違いない。


「まあ、私は川越がやったとは思ってないけどね」

 雪名さんが優雅にワインを飲みながら言う。

「は?じゃあさっきの話し合いはなんだったの?」

 アズサさんが雪名さんを睨む。

 雪名さんは微笑んだ。

「だって私だけ疑われてるのも面白くないから。ちょっと話を合わせてあげたの。楽しかったわね」

「はあ?この性悪女が」

 アズサさんが舌打ちをする。


「あ、あのぉ……」

 恐る恐る私の隣から、奈美穂が声を上げた。

「何の話ですか?」

「大した話じゃないの。私や川越が、最近脅迫状に困ってるって話」

 雪名さんは軽く答える。

「え?脅迫?そんな脅迫されることないですよね?」

 奈美穂の言葉に、アズサさんは、ふーん、と嫌な笑みを浮かべてみせた。

「花実、教えてあげたらいいんじゃない?あなたの変態なとこ」

「変態?」

 奈美穂がキョトン顔をしてきき返す。

 アズサさんは更に楽しそうな顔をした。

「この子達より少し早めに集まろうって提案したのは、やっぱり自分の変態性を隠す為なんでしょう。まあ仕方ないよねー。可愛い後輩にはかっこいい姿見せたいもんね」

 分かる分かる、と頷いて見せるアズサさん、とてもイキイキしている。


 私は不安になって、雪名さんの方を見た。


 すると、雪名さんは菩薩のように微笑んでいた。


「あら、変態って何のことかしら」

「へえ、誤魔化すんだ」

「……もしかして、あれかしら……?」

 そう言って、雪名さんは私の方をじっと見つめる。

 え?何?私は何も言わないですよ。


「好葉……もしかして、花実さんにご迷惑かけてる?それで誤解受けてるんじゃ……?」

 奈美穂が私に疑惑の目を向ける。

 え、何でそんな目で見るの?

「その……踏んでもらったりとか……」

「な、何でそれを!!」

 私は動揺して立ち上がった。


「好葉、落ち着きなさい」

「だ、だって!!」

 何で奈美穂が知ってるの!?

「ご、ごめん、一度好葉と花実さんが密室で何かしてるの聞いちゃって……」

「そ、そうなの?……っていうか、違う!!」

 私は慌てて訂正する。

 さっきは慌てちゃったけど、奈美穂は踏まれていると思っている。

 違うの!私にそんな趣味はない!って言いたかったけど、それだとやっぱり雪名さんが変態になってしまう。

 ああ、もう!女王様を変態にするわけにはいかない。


 私は何も言えず、クゥーっと呻いただけになった。


 そんな私を、アズサさんは気の毒そうに見ていた。






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