第105話 叱り

 それから数日、やはりあのアズサさんの発言が尾を引いているのか、奈美穂の調子はすこぶる悪かった。

 赤坂さんの話によると、ミュージカルの方も必死になってるらしいが、頻繁に空回りしているらしい。


「奈美穂」

 その日のラジオの収録終わり、爽香が険しい顔で奈美穂に声をかけた。

「ちょっとぼーっとしてなかった?話聞いてない時あったでしょ。ラジオなのに無言反応はだめじゃん」

「ご、ごめんなさい」

 爽香のダメ出しに、奈美穂は素直に謝る。

「今日だけじゃなくて、ここ数日ぼーっとしてる事多いよ。練習とかで忙しいのはわかるけどさ」

「爽香、あんまりキツく言わないであげて」

 私は思わず言った。

 爽香の言うこともわかるけど、奈美穂は今失恋状態なのだ。

 しかし、私の口出しに、爽香は口を尖らせた。

「私達が今それぞれ個別の仕事してるのは、最終的にグループの為になるからだと私は思ってるよ。知名度上げとか、スキルアップみたいにさ。でも、今の状態じゃ、グループに悪い影響出てるの、わかってるじゃん」

「ご、ごめんなさい……」

 再度奈美穂が謝る。

 シュンとしてしまった奈美穂に、小さくため息をついて、爽香は少しだけ微笑んでみせた。

「奈美穂は多分、怠けで気を緩めてるわけじゃないっていうのはわかるよ。でもね、それでも頑張ってほしいんだ。今どきは頑張れって言葉は良くないみたいだけど。でも奈美穂はできるよ」

「爽香……」

 奈美穂が泣きそうな顔で爽香を見る。


 アズサさんの言っていたことはこういう事かもしれない。


 私は爽香に向き合った。

「爽香、もう君がうちのリーダーだ」

「何が?」

「もう、私達は爽香には叱ってもらわないとダメだわ」

「何なの?」

 爽香は困惑しながら言った。

「もう、みんなして叱ってほしいだの何だの……早川結音にも叱ってほしいとか言われるしなぁ」

「結音のは断りなさい」

 私はすぐに注意する。



 それにしても、爽香は正論だとしても、やっぱり私はまずはアズサさんの誤解を解いてあげたい。

 アズサさんは奈美穂の為に色々してくれていたのに、辛辣さで誤解したままじゃ勿体ない。


 なので、計画している雪名さんとアズサさんの対決話し合いの席に、奈美穂も呼ぶことにした。


「いや、私なんて、そんな場にいらないですよ」

 奈美穂がそう遠慮するのは想定の範囲内だったので、無理矢理連れて行く。



 そうして某日、とある個室レストランで、妙な四者会談が始まることとなった。





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