第104話 キャラ被り

「え?脅迫?アズサさんも?」

「はあ!?何しらばっくれてんのよ。あんたも知ってるでしょ!」

 アズサさんは明らかに興奮している。

「いや、その。確かに私は雪名さんからちょっとなんか聞いたけど、でも雪名さんはそんな言いふらしてなんかいないです!」

「はあ?いくら口止めしてたからってね、人に言ったら絶対に広まるでしょ!」

「口止めして……」

 あれ?そう言えば口止めされて無かったな。

 自分で言うのもなんだけど、私も奈美穂も口固めだからそんな言いふらして無いけど、なんか爽香あたりなら悪気なく誰かに言っちゃいそう。


 うん、雪名さん私達に口止めしてないや。


 そう思ったら、アズサさんの雪名さんに対する性悪変態女の侮蔑が、何だかいい得て妙で、無意識に笑ってしまった。


「何笑ってんのよ!」

「ご、ごめんなさい!」

 私は慌てた。


「それよりも、脅迫って何ですか?あの、雪名さんにもなんか変な脅迫の手紙が届いてたみたいなんですけど」

 私はアズサさんを、落ち着かせながら言うと、アズサさんは少しだけ声のトーンを落とした。

「は?花実も?なんで?」

「いやぁ、そのぉ」

 さすがに変態性がどうのこうのと言うのはちょっと憚られる。

「あの、よければ雪名さんと直接お話とかしませんか?雪名さんもアズサさんに会いたがってました」

 おそるおそる私が言うと、アズサさんは、ふん、と鼻を鳴らした。

「絶対に花実が言いふらしたんだわ、って思ってた。LIP‐ステップってアイドルと仲が良いみたいな話を聞いたからこの機会に接触して尻尾掴もうと思ってたんだけど。確かに、何か直接ちょっと話をしたほうが良さそうね」


「接触?尻尾?」


 ふと、後ろから聴き慣れた声がした。


 振り向くと、呆然とした顔の奈美穂が立っていた。


「あ、奈美……」


「アズサさん、目的があって、私に優しくしてくれたんですね」

 奈美穂の顔が真っ青になっている。

「そうですよね。こんな演技の素人に、あんなに時間割いて教えてくれるなんて、おかしいと思わなきゃだめなんですよね」


「奈美穂、違うよ、きっと……ねえ、アズサさん」

 私は慌ててアズサさんに同意を求めるが、アズサさんは面倒くさそうな顔をしているだけだった。


「ごめんなさい、私……」

 そう言うと、奈美穂は走って行ってしまった。


「奈美穂!!」

「放っておけば?これくらいでグズグズ言うなんて。重い彼女みたいで面倒だわ」

 アズサさんは冷たく言う。


 なんて酷い辛辣な人!まるで雪名さんみたい!


「奈美穂はすっごくアズサさんに心酔してたんです。ショック受けるに決まってます!雪名さんに接触するためだけに懇切丁寧に指導してくれたなんて知ったんだから……」


「はあ?」

 アズサさんは冷たく言う。

「だからあんた達はなあなあで甘っちょろいって言うのよ。誰がそのためだけに家にまで呼んで指導するっていうの?ミュージカル成功させるために、奈美穂を少しでもちゃんとした女優にさせるために決まってるでしょ」


 へ?私はポカンとした。


「ったく、またあの子、最近少しはメンタル強くなってきたかと思ったらまだ全然じゃないの」


 そっけなく言うアズサさんに、私はついついため息をついてしまった。

「もう!本当に雪名さんのキャラ被りしてる!」

「はあ!?なんであんな性悪変態女と!」 

 アズサさんは目を釣り上げた。

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