第99話 黒い気持ち
それから数日。私達はいつものようにライブハウスでのステージをこなしていた。
その日のライブが終わり、着替えを終えてから、SNSを見て、私はちょっとニマニマしていた。
美里ちゃんとの双子コーデ的なスナップ写真をベイビーベイビー公式SNSで発表させてもらったことろ、大変に評判が良かった。
それで一般のファッション雑誌からもオファーが来たりしていた。
それもあって、ちょっとご新規さんのファンが増えて、ご新規のライブ感想が見られるようになったのだ。
「好葉ー、そのニヤケ顔撮っちゃうよー」
爽香がスマホを私のほっぺにグリグリとくっつけてきた。
「やーめーてー。ライブ後汗ヤバいんだから。爽香のスマホベタベタになるよー」
「うえっ本当だ」
爽香は自分からくっつけたくせに、わあわあ言いながらスマホを拭いた。
「好葉はモデル、奈美穂はミュージカル……なんかキラキラした仕事いいなぁ。私もなんかチャレンジしよう」
「何言ってんのよ。バラエティの1コーナー担当させてもらってるくせに。あれが爽香単独で決まった時、どれだけ私と奈美穂が悔しくて血の涙を流したか……。ねえ奈美穂」
私は大袈裟に言って、奈美穂に同意を求めた。
「奈美穂?」
反応が無いので、もう一度声をかけると、ようやく奈美穂は、ああ、と顔を上げた。
「どうしたの?疲れてる?」
「すみません、大丈夫です」
奈美穂はゆっくりと笑ってみせた。
「いや、大丈夫じゃないでしょ。今日のライブも声の出が悪かったし」
「それは、すみません」
爽香に言われて、奈美穂はシュンとした。
「ち、ちょっと、そんな強く攻めてるつもり無いよ。ただ、疲れてるなら今日これからの配信お休みしてもらったら……」
「大丈夫ですってば!」
急に、奈美穂が大きな声を上げた。
「奈美穂、その、爽香も気を使って言ってくれてるんだから、そんなキツく言わなくても」
私が軽く注意すると、奈美穂はこちらも向かずに、楽屋を出ていってしまった。
「ど、どうしたの?喧嘩でもした?今勢いよく奈美穂出ていったけど」
入れ替わりに入ってきた赤坂さんが心配そうに言った。
私と爽香は顔を見合わせた。
「なんか、よくわかんないけど、怒らせたっぽい……?」
「奈美穂、ちょっと機嫌悪い……?」
「ああ……」
赤坂さんが困ったような声を上げた。
「奈美穂、昨日ミュージカルの練習で、こてんぱんに怒られちゃってね。すっごく凹んでたの。ただですらストレスに弱い子だし。なんか二人が順調にいってるようにみえて黒い気持ちになっちゃったかもね。ちょっと放っておいてあげたほうがいいかも」
そう言って、赤坂さんはチラリとスマホをチェックする。
「奈美穂から、二人に謝っておいて欲しいってメッセージ入ってるよ。自分で言いなさいって返しておくね」
「あの、赤坂さん、奈美穂、そんなにミュージカルうまくいってないんですか」
爽香がたずねる。
赤坂さんは肩をすくめた。
「まあ、ね。でも今が頑張り時だと思うよ」
結局その日のライブ後の配信はお休みすることにして、ライブメイキングを流すことにした。
あんた達は顔に出やすいから、不仲説とかでちゃ困るからね、という、赤坂さんの判断だった。
「好葉、今度奈美穂のミュージカル練習、見に行くよ」
「そうだね。うちの歌姫があんな調子じゃ、グループに影響が出ちゃう」
帰り道、私と爽香はスケジュールを合わせて、奈美穂のミュージカルの現場調査を計画するのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます