さて、女王様は誰でしょう
※※※※
「今日は楽しかったですね!」
その日、私は雪名さんのお部屋にお邪魔していた。
久しぶりにお休みの日が合ったので久しぶりにデートをした。
靴屋さんへ行き、一緒にスニーカーを買い(トモさんのスニーカーは事務所でボロボロに切り刻まれた)、また以前の行った和菓子でコーヒーを飲み、なぜか私より常連になって店主のおじいちゃんと仲良くなっている雪名さんに嫉妬し、夜は軽く摘んだあとに、雪名さんの女優仲間の留美さんが経営しているバーへ行ってみたりした。
「バーって、私初めて行きました。何か空気に飲まれてすごい飲んじゃいますね」
私は雪名さんの部屋のソファーに座り、ポワポワと言った。
今日は結構酔っ払った自覚がある。
「ふふ、そうね。あっちは飲ませるプロだからね」
雪名さんも上機嫌そうだ。
シャワーを浴びてくる、という雪名さんを待っている間に、スマホを確認する。
SNSでエゴサしたり、ネットの記事を確認したりして時間を過ごす。
ライブの感想とか書いてないかな、とチェックしていると、ふと彼の事を思い出してしまった。
そう、トモさん。トモさんは結局事務所判断でライブ出禁になったはずだけど、チラチラまた感想が送られてくるのだ。
どうやって侵入しているんだろうか。
ていうか、あの件で逮捕とかされなかったんだな。まあ別にトモさん自体は何もしてなかったしな。
トモさんはヤクザで、盗聴とかするヤバい人だったけど。でもあの時盗聴の事を黙っていることも出来たはずだ。でも、トモさんは私を助けてくれることを選んでくれた。そう考えたらやっぱり私は嫌いになれない、と言ったら、赤坂さんから「馬鹿!危機感なさ過ぎる!」と怒られた。
あの件と言えば、雪名さんの方は。
ヤクザに誘拐されただの大げさな報道をされたけど、結局何も無く、結果的に下っ端ヤクザの職場を一つ警察に教えたくらいだったので、すぐに騒ぎは収まった。
ただ、映画の宣伝の為のヤラセだったとか、実はヤクザと繋がりがあるだのの噂も少しだけ流れたが、すぐに事務所が法的処置を取ってくれたのでほぼ問題は無かった。
「好葉もシャワー浴びなさい。足は丁寧にね」
シャワーを終えた雪名さんが言ってくれたので、私はありがたくバスルームへ向かう。
雪名さんの後のバスルームは、雪名さんのいい匂いがする。
シャワーを終えて居間に戻ると、飲み直し用のワインが置かれており、ソファーでは、すでに雪名さんが優雅にワインを飲んでいた。
「ほら、好葉も飲みなさい。これは、好葉がベイビーベイビーのモデルに合格したことのお祝いにちょっと奮発したワインなのよ。明日は仕事夜からでしょう。泊まって行けばいいわ」
逆らうわけ無いわよね?とでも言いたげに、雪名さんは不敵に笑う。
いつもなら、あんまり酔っ払って不敬な事をしてはいけない、と飲むのは遠慮していた。しかし今日はすでに結構酔っていたし、お祝いと言われてお断りすることもできない。私は遠慮なくグラスを傾けた。
「あら、今日はいい勢いじゃない」
雪名さんは不細工な顔で笑う。
しばらく二人で飲み交わした後、雪名さんがグラスをテーブルに置いて、私のそばに近づいてきた。
「ねえ、そろそろいいでしょう?」
そっと私の足を撫でる。
「今日久しぶりで、とっても楽しみにしてたの」
そう言って、いつもの土下座スタイルになろうとしたので、私はそれを止めた。
「あら、どうしたの。嫌?」
雪名さんは私の頬を撫でながらたずねた。
私はおそるおそる言ってみた。
「ずっと、思ってたんですが、私はそのスタイルで背中踏むより、前を踏みたいんです」
一瞬、自分でも何を言ってるのかわからなかった。でもその時は思ってしまったのだ。今日は、背中じゃなくて、顔を見てしたい、と。
雪名さんは、私の言葉に、ふうん、と嬉しそうに頷くと、ソファーの背もたれに偉そうに背を預けた。
「好葉がリクエストするなんて珍しいから、ワガママ聞いてあげるわ。ほら、どうぞ」
私は、ソファーから立ち上がり、雪名さんを見下ろす。見下ろしているはずなのに、雪名さんから見下されているような錯覚に陥る。
そして、背もたれに手をついて、雪名さんの胸を強めに踏む。
「あっ……」
雪名さんから色っぽい声が漏れる。
赤くなっているのは酔っ払っているからなのか、それとも……。
こんな顔の雪名さんを見れるのは私だけ。私だけだって雪名さんが言っていた。
本当に?本当。絶対に本当。雪名さんはそう言っていた。
でもそう言えばあの時……。
私は一旦足を雪名さんから離し、テーブルに置いたワインの残りを一気に飲み干した。
そして気づくと、私は勢いよく雪名さんをソファーに押し倒していた。
「好葉、この私に何しているかわかっているの?」
雪名さんは持ち前のプライドで、私をにらみながら言う。しかし私は動じなかった。
「雪名さんを押し倒してます」
私の顔をじっと見つめた雪名さんは、少しだけ期待に満ちた声でたずねた。
「……もしかして、結構酔ってる?」
「酔ってると思います」
「意識はある?明日、この事覚えていると思う?途中で寝落ちしたりしない?」
「意識はあります。前とは違います」
そう言って、私はそっと、自分の足を雪名さんの顔に近づけた。
「あら、顔を踏んでくれるの?何のご褒美かしら」
雪名さんはうっとりと言う。
そんな雪名さんに、わたしはクスクスと笑ってみせた。
「ご褒美?まさか。お仕置きですよ」
「お仕置き?」
「ええ、お仕置きです」
そう言うと、私は足の親指だけで、ちょん、と雪名さんの頬をつつく。
それだけで、雪名さんは興奮したような荒い息になっていた。
「ねえ雪名さん、正直に答えて下さい。雪名さんは紗弓さんの足を見たいだけって言ってましたよね?本当ですか?」
「本当よ。本当に見たかっただけ。まさかこの私の言葉が信じられないっていう気?」
雪名さんはまだ強気だ。でも目線は私の足から離すことが出来ていない。
「正直に、素直に言ったら、もう少しだけこの足を雪名さんの顔につけてあげますよ。ねえ、あの日、靴屋さんで会った時、ずいぶんとバツが悪そうな顔してなかったですか?少しは、あわよくば踏んでもらえないかとか思いませんでした?」
「思って……ないわ」
「本当ですか?」
私は足の親指でツンツン雪名さんの頬と唇をつつく。
「ねえ、もう……。ここまでしてくれたなら踏んでくれてもいいでしょう」
雪名さんは私の足に触れようとしたので、その手を掴んでソファーの座席部に抑えつけた。
「お触り禁止ですよー」
「ねえって」
「で、本当は?」
私は雪名さんに再度たずねる。
雪名さんは一瞬黙ったが、すぐにボソリと言った。
「まあ、ちょっとわざと近くにいるようにすれば……ちょっと間違えてちょっと足を踏まれることもあるかもしれないって期待してたけど?悪い?」
最後は開き直りだ。
私はクスクスと笑う。
「正直でいい子。じゃあ、私一筋って言うのは嘘だったって事ですよね?」
「違う。違うの。……あの時は、ずっと踏んでもらえなかったから……」
「私のせい?」
「それは違うわ」
「うふふふ、じゃあやっぱり、お仕置きかなぁ」
私の足の親指は、雪名さんのおでこから顎までを、触れるか触れないかキスをするかの如く、ゆっくりと撫で回していく。
踏んでほしいのに、踏んでもらえないじれったさに、雪名さんは泣きそうな、でも興奮を抑えきれないような声で私に懇願する。
「ねえ、お願い。もう二度とよそ見しないから、踏んで……」
「ふふ、だぁめ。今日はお仕置きだもーん」
「ねえ」
「別にいいんですよ。よそ見したって。そんなの雪名さんの自由ですよ」
「しないから……」
「ふふふ。可愛い。雪名さん可愛い……」
私はクスクス笑いながら雪名さんを撫でる。
「ねえ、顔。顔に欲しいです。お願い」
「今日はしませーん」
「お願いします……」
「ねえ雪名さん」
私は再度雪名さんの唇を足の親指でつつく。
「いつか踏んであげますよ。その時まで、ずっと仲良しでいましょうねー」
「仲良し……」
「うふふふふ」
私はとってもその時楽しかったし、変なアドレナリンが出てたのか、すっごく興奮していた。
結構、私はその後、雪名さんの顔を軽く足でペチペチしてパタンと寝てしまった。
※※※※
「なんで私が怒ってるかわかる?」
「雪名さんにお仕置きなどという無礼極まりない行為をしたからです」
「違うんだけど」
「……もう、二度としません」
「しなさいよ」
「二度としませんのでお許しを……」
「しなさいってば」
次の日、前回とは違って完全に記憶があった私は、プンスコしている雪名さんにおでこが擦り切れるくらいに土下座して許しを請うはめになった。
第六章 END
第七章へつづく……。
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