第95話 撮影
そんなわけで、色々あったからすっかり私はベイビーベイビーの再テストの件を忘れていた。
とりあえず何でもいいから送らないと、と、今までに撮った中から赤坂さんがイチオシと言ってくれたのを送ったけれど、なんだか消化不良だ。
結果は……。
「好葉ちゃん!よかったねー。一緒にお仕事できるね」
美里ちゃんが明るい笑顔でかけてきた。
私はなんとか、ベイビーベイビーのモデルの再テストに合格したのだ。
「まあー、正直ギリギリオッケーなんだけどね」
現場に来るなり、蓮池社長は苦笑いをしてみせた。
「今回送られて来た写真、うちのベイビーベイビーの服一着しか着てないし。正直これで合格って言いたくはないんだけど。でも可愛かったから」
「すみません。でもありがとうございます」
私は申し訳無さそうに頭を下げる。
私が送った写真は、赤坂さんが撮ってくれていた、あの映画のイベントでの舞台袖の写真だ。
アイドルステージ衣装に、グレーのベイビーベイビーのパーカーを羽織っているだけ。
「目線が良かったんだよね。愛おしいモノを心配そうに見つめてる感じ?親とかお姉ちゃんとかが、子供とか下の子を見ている感じでさ。それがいいなって思ったんだ」
蓮池社長はそう言ってくれたけど、その時私が見ていたのは女王様で、共演者の無茶振りに素が出ないかハラハラしていただけだ。
ちょっとズレているけど、良い方に解釈してれたからよし。
「私ははじめから好葉ちゃんは大丈夫だと思ってたよー」
服に着替えてカメラの前になり立ちながら、美里ちゃんは言ってくれた。
「社長も蜂屋さんも、意地悪なモデルさんは使ったこと無いから。好葉ちゃんは優しそうだったから大丈夫打と思ってた」
ねー、と美里ちゃんは蜂屋さんに呼びかける。
蜂屋さんはニコリともせずに答えた。
「当たり前だろ。子供服のモデルだぞ。子供はギスギスしてるより仲良くしこよししてんのが一番可愛いだろ」
「子供への偏見だ!」
蜂屋さんは美里ちゃんの文句を無視して、私に言った。
「前は自分自分でいっぱいいっぱいだったろ。全然可愛く無かった。ちゃんと再テストの写真みたいな可愛い顔をできるなら、今回はちゃんと頼むよ」
「わかりました」
私は強く頷いて、美里ちゃんに頑張ろうね、と声をかけた。
撮影はスムーズにいった。美里ちゃんとお喋りするように、遊ぶように、見守るようにポージングを取っていく。
でも、途中何度か蜂屋さんから暴言のような注意を受けた。
終わり際まで蜂屋さんはちょっと不満げだった。
「本当に、ギリギリこれでいいけどさあ。もう少し可愛くできないわけ!?次はちゃんとできるように練習してきてよ」
「すみません……」
謝りながらも、『次』と言う言葉に、少しだけ希望を感じることができた。
撮影が終わり、着替えながら、ふと美里ちゃんにたずねた。
「ねえ、今日紗弓さん見ないけど、来てないんですか?」
「え、来てるよ」
おねーちゃーん、と美里ちゃんが呼ぶと、どこからともなく紗弓さんが現れた。
なぜか初めて会った時のように強張った顔をしている。
「さ、紗弓さん……?」
「先日は、すみませんでした」
急に謝られて私は慌てた。
「な、何がですか?」
「前に雪名様に連れて行かれた靴屋さんで会った時、牧村さんが怖い顔で帰って行ったので……きっと気を悪くされたんじゃないかと……」
「いや、あれは!こちらこそごめんなさい!」
私は急いで謝り返す。
「あの時は本当に……ちょっとおかしかったんです。ごめんなさい。靴、買えましたか?」
「いえ……結局あの後雪名様も様子がおかしくて……私のせいで二人が喧嘩したんじゃないかと心配になって……」
「大丈夫」
私はきっぱりと言った。
「色々お互いにあったんです。ごめんなさい心配させて。今度、一緒に。雪名さんも一緒に、またあの靴屋さんいきましょう。とってもいい靴作ってくれるんです」
「そんな、私なんかが恐れ多い……」
「その代わり、雪名さんにしっかりと足を見せてあげてください」
「あ、足?」
「そうです。足です」
よく話が見えなくて首をかしげる紗弓さん。私はそんな紗弓さんの足をチラリの見た。
確かに小さくて、雪名さんの好きそうな足だ。
でも、雪名さんは私の足にぞっこんなんだからもう変なことは考えない。
ちょっとくらい、よそ見をすることを許してあげよう。なんて偉そうな事を考えてしまった私は、やっぱり我が強くて根性が悪い。
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