第80話 威嚇
化粧をしてもらって、私と美里ちゃんはすぐに撮影に入る。
「牧村さん、まずは森野の撮影見て、こんな感じだっていうの覚えてくれる?森野、いつも通り、可愛くな」
「はいっ。よろしくお願いします」
美里ちゃんは大きな声で挨拶する。
しっかりした子だな。私が美里ちゃんくらいの頃って、こんなちゃんと挨拶できたっけか。
そう思いながら撮影を見学する。
美里ちゃんはにこやかにカメラに顔を向け、スカートの裾を少し広げてみたり、逆に閉じてみたり。元気な顔を見せてくるりと回って見せたと思えば、あざといほど可愛らしく背中を見せたりしている。
「カバン持って、ちょっと座ってやってみよう」
蜂屋さんの指示で、美里ちゃんはカバンを手に、ぺたんと座る。スカートの裾がキレイに広がった。
「次、カーディガン着て。スマホ持って大人風に」
蜂屋さんの指示通り、今度はすました顔で大人びたスタイルを見せる。
「可愛い」
凄く可愛い、と私は思わず呟いた。美里ちゃんの着ている服がとても可愛く見える。
「凄いな。あんな風に魅せれるんだ」
子供といえどもやっぱりプロだ。私が感心して呟いた時だった。
「はじめまして」
後ろから声をかけられて、慌てて振り向く。
そこには、美里ちゃんをそのまま大人にしたような、そっくりの女性が真面目な顔で立っていた。
「はじめまして、森野美里のマネージャーの、
そう言って、名刺を渡されたので、私も急いで赤坂さんから預かっている名刺を取出して彼女に渡した。
「はじめまして、LIP−ステップの牧村好葉です。すみません、今日はうちはマネージャー不在で」
「いえ、お忙しいようで」
紗弓さんは丁寧に名刺をしまう。私はふとたずねた。
「えっと……もしかして、美里ちゃんのお姉さんとかですか?」
「はい。美里とは12歳も違うので、ほぼ親みたいなものなんです」
てことは、雪名さんと同じくらいの年齢なんだ。
紗弓さんは私よりも背が小さい。でも、美里ちゃんに似て、顔つきは大人びていて美人だ。
しかし、ずっと笑顔を振りまいている美里ちゃんと違って、彼女は固い顔のまま、まるで私を睨みつけているような威圧的な顔をしている。
「牧村さんのことは存じております。ニュース拝見しました。映画とかにも出るらしいですね」
「は、はい。まだまだペーペーですけど。それに、映画はほんの数秒です」
「アイドルの方って、歌だけじゃなくて色々なお仕事するんですね」
「そうですね。深夜ですがバラエティもさせて頂いてますし、私ではないのですが、今うちのメンバーでミュージカルチャレンジする子もいます」
「それで、牧村さんはモデルにチャレンジですか」
「今日は美里さんに勉強させていただきます」
ずっと威圧的な顔のまま、冷たい口調で淡々と話してくる紗弓さんに、私までちょっと固くなる。
紗弓さんは、またギロリとこちらをにらみつけながら、口角だけあげて無理矢理の笑顔をこちらに向けた。
「アイドルの人までこっちの分野に参入してくるんだから。美里のライバルになりますね」
「え」
「是非とも仲良くしてくださいね」
そう言って、一切仲良くして欲しくなさそうな顔の紗弓さんは、再度こちらを睨んだ後、丁寧に頭を下げて、立ち去って言った。
「い、威嚇された?」
私は綺麗な姿勢で立ち去る紗弓さんを、呆然と見とどけた。
「牧村さん、次、森野の隣に入ってもらうから準備して!」
蜂屋さんの声がかかり、私は急いで「はいっ!」と返事をしてカメラの前に向かった。
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