第81話 可愛くない
好葉はカメラの前に立った。隣には美里ちゃんがいて、「がんばろ」と口パクしてくれている。
「じゃ、適当に可愛くね」
蜂屋さんが適当な指示を出す。
私は頷きながら、動いてみる。
えっと、ここ数日ちゃんと勉強したのだ。事務所に所属するモデルさんに話を聞いたり、見学させてもらったりした。
確か、自分じゃなくて、服が主役だから、服を可愛く見せるように動くんだよね。
私は、服の可愛いポイントを見せるように、何度かくるくる動いてみる。
「森野、森野も一緒に動いてみろ」
蜂屋さんの指示で、美里ちゃんもわたしの真似をしてくるくる回る。
しばらくパシャパシャと音が鳴っていたが……。
「あー、可愛くねえなぁ」
ボソリと蜂屋さんが大声でつぶやいたので、私はギクリとした。
か、可愛くない?
「うん、駄目だな」
「だ、駄目とは!?」
私は思わず蜂屋さんに問いかけた。私の顔を見て、蜂屋さんは意地悪そうな顔を向けた。
「全然可愛くない。本当にアイドル?顔が可愛いだけじゃ、可愛くないでしょ。うーん、なかなか酷いね。これじゃそのへんの子供のほうが全然マシ。こんなレベルでよく売り込みに来れたね!あ、牧村さんと同じグループなら、あの加美爽香って娘の方が、笑顔も良くていいんじゃ……」
「蜂屋、ストップ!」
部屋の隅で黙っていた蓮池社長が、苦笑いしながら蜂屋さんの言葉を止めた。
「言い過ぎ。見てよ、牧村さんペチャンコに凹んでるじゃない。そうやってわざと潰すの、時代に合ってないよー」
「すみません」
蜂屋さんは素直に頷いた。
私は、蓮池社長の言う通り、ペッコリと凹んでいた。
蓮池社長は私に笑いかけた。
「ごめんね、蜂屋はあとでこってり絞っておくから。でもね、僕もあんまり今のは可愛くないと思ったよ」
「そう、ですか」
テストは不合格なのだろうか。
「そのままだと不合格だね。でも、僕はチャンスはもう一回だけあげるタイプだから。来週のカタログ撮影の本番までに、一番いい写真を僕に送っておいで。それで君をベイビーベイビーのモデルにするかどうか決めよっかなあ」
「は、はいっ」
首の皮一枚繋がったようだ。
「あ、美里ちゃんは良かったよ。もし牧村さんが駄目だったら、今回もソロでいこうか」
「は、はい」
蓮池社長の言葉に、美里ちゃんは申し訳なさそうに私の方をちらりと見た。
「それじゃ、今日のテストはおしまいね。じゃ、写真待ってるよー」
そう言うと、蓮池社長は部屋の隅のパソコンを片付けると、サッサと行ってしまった。
「ま、社長甘いからな」
蜂屋さんは蓮池社長を見送ると、自分もサッサと片付けの準備を始めた。
「私は、好葉さん可愛いと思うよ。全然素敵だったし上手だったよ」
着替えながら、美里ちゃんが言ってくれる。
「ありがとう……でも私が未熟なので……」
「凹まないで。蜂屋さん、いつも意地悪なんだよ。ね、お姉ちゃん」
「そうですね」
紗弓さんが、私を睨んだままそう言った。
うう、やっぱり威嚇されてるよな……。私は二重のショックでペッコリと凹みながら着替える。
「もー、お姉ちゃん怖い顔して、もしかしてまだ緊張してるの?」
「緊張?」
私は思わず聞き返す。
「そうだよ。お姉ちゃん、昨日から好葉さんに会うのは楽しみにしてたんだよ。で、すっごく緊張しちゃってるの」
「やめてよ、美里!」
紗弓さんは真っ赤になった。
緊張?あの睨みつけは緊張だったの?
それに……
「え、……私に会うの楽しみにしてくてれたんですか……。嬉しい、もしかして、私のファンで……」
「お姉ちゃんね、花実雪名さんの大大ファンでね。雪名さんと仲が良いって噂の好葉さんに会うの、とっても楽しみにしてたの」
「美里やめて!その言い方だと、牧村さんに興味無いみたいで失礼でしょ!!」
うん、……そうでしたか。
私は、さっきの自分の驕りにちょっとだけ恥ずかしくなった。
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