第69話 仕事
※※※※
辛かったのは初日だけで、あとは熱も下がり、少し咳が出るだけになった。雪名さんの届けてくれた加湿器、赤坂さんの届けてくれた食料や氷嚢・氷枕は本当に役に立った。
「ご心配おかけしました!!」
こうして自宅療養期間も終わり、私は仕事に復帰しできた。
明日からまたツアーの日程が入っているので、その打ち合わせだ。かなり体が鈍っている気がする。
爽香と奈美穂は、私が楽屋に入るやいなや、抱きついてきた。
「療養お疲れ様ー!久しぶりの好葉だー」
「これ以上好葉休んだら、好葉のファンが私推しにに鞍替えするとこでしたよー」
「えっやだ。私のファンは一途だし!」
私は二人にぎゅうぎゅうにされながら笑った。
「そういえば、インフルエンザ初日に食料袋、ありがとうございました。氷嚢とか氷も入れてもらってて、助かりました」
私は赤坂さんにお礼を言った。すると赤坂さんは首を傾げた。
「氷嚢?私食料しか用意してなかったけど……」
「え?」
「持っていったスタッフが追加で入れてくれたんじゃないかな。……でもあの子、そんなに気が利くタイプでも無いんだけど」
「そう、ですか」
まさか、もしかして雪名さんが?いやまさか。だって、雪名さんは袋に入ってて自分は氷を入れただけだって言ってたし。
「あ、そう言えば、好葉が休んでいる間に、いくつかニュースがあるんだよ」
突然、赤坂さんが、わざとらしく大きな声を出した。
「まずは、奈美穂。この度、ミュージカルのオーディションに受かって仕事が決まりました!」
「えっ!」
奈美穂は恥ずかしそうな顔をしている。
「おめでとう!え?いつオーディション受けてたの?」
「ちょっと前に……私ライブ前にトイレに籠るくらいストレスためてたときあったでしょ。あの時最終回オーディションの日だったの」
「ライブに影響はさせないでほしいんだけどね」
赤坂さんがチクリと言ってる、奈美穂は肩をすくめて「すみません」と笑った。
「次に爽香。夢見パレードのコーナ拡大が決まりました!とっても好評で、配信チャンネルの方だけど単独番組にする案も出てます!」
「凄い!頑張ったね」
私は爽香を撫でる。
そっかぁ。二人共頑張ってるな。
嬉しい反面ちょっとだけチクリと心が痛む。
「そして、好葉」
「え?私も?」
「前に、売り込みかけさせてくださいって言ってた、子供服ブランドのモデルの件、一度撮らせてほしいっていうところが一つあったよ」
「えっ!!」
あの日、飲み会の後に雪名さんのマンションに泊まりに行った日。
雪名さんの家でたくさんの子供服のカタログを借り、その連絡先をメモしておいて、赤坂さんに売り込みかけてもらうよう依頼していた。連絡がなかなか来なくて、やっぱりだめかと諦めかけていたのだったが。
「ほとんどがけんもほろろだったんだけど。子供服はやっぱり大人びた子供モデルがやっぱりいいみたいで。でも一箇所、子供服だけど、小柄な大人も着れるよっていう売り方しようとしているブランドがあってね。ちょうど小柄なモデル探してたみたいなの」
「わぁ。グッドタイミング……」
「ベイビーベイビーってブランド。わかる?靴下とか靴の種類が豊富らしくて、好葉にぴったりよね」
「好葉の可愛い足が世間に見つかっちゃうね」
爽香が茶化す。
「嬉しい。なんか」
私は自分に価値観を見出してもらえた気がして嬉しかった。
そうだ、雪名さんにもあとで報告しよう。ベイビーベイビーは、雪名さんイチオシのブランドだったはずだ。喜んでくれるだろうか。
「さて、更に忙しくなるよ!まずは目の前の仕事だよ」
赤坂さんの掛け声に、私達は元気に「はいっ!」と声を出した。
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