第67話 節々の痛み
「すみません、インフルエンザだそうです……」
私は、しゅんと凹みながら赤坂さんに電話をかけていた。
夜のうちから咳が止まらなくなって、節々が痛くなって、高熱が出た。
重い体を引きずって病院に行くと、インフルエンザの診断が出た。
「そっかぁ……」
「すみません、自宅待機が5日程……お仕事が……」
「いいのいいの。スケジュール調整はマネージャーの仕事だから。とりあえず爽香と奈美穂の二人だけで回せる仕事は回して、あとは何とかするから大丈夫。自宅待機の期間に、ツアーとか、大きなステージの予定入ってなかったのが不幸中の幸いだ」
赤坂さんは明るく言った。
「それより、食べるものをとか、氷とかある?私は今日行けないけど、後で事務所のスタッフ誰かに持っていかせるから」
「いえ……みなさんも忙しいのに……。感染ったら大変……」
「全く、こんな時に遠慮しないの!ドアノブにでもかけておくから大丈夫。ゼリーとかおかゆとか適当に持って行かせるから」
赤坂さんの電話はそこで切れた。
スマホを置いて、パタンとベッドに転がる。だるくて何もしたくないし咳も止まらない。
寝たいのに寝れない。
しばらくゴロゴロとしたり、ちょっと仮眠したり、ベッドで転がっていると、SNSの通知音が何度か鳴った。
明日予定していた生配信を、延期するとこ報告が事務所から発信されたらしい。
その際に私がインフルエンザであることも報告されたようで、ファンから「おだいじに」「体に気をつけて」「ゆっくり休んでね」とのメッセージが届き始めたのだ。
いくつかのメッセージの中には毒メッセージもあった。最近調子乗ってるからだ、お前の体調管理の悪さのせいで他の二人に迷惑かけている、別に好葉いらないから生配信やってくれ、………大量の優しいファンからの励ましメッセージに比べれば、ほんの僅かしか来ないものだったが、弱っている体には大ダメージを食らってしまう。
私は通知を切ってスマホを投げ捨てると、布団を被ってふて寝した。
熱冷ましをが効いてきたのか少し楽になってふて寝のまま私はぐっすりと寝てしまった。
※※※※
夢うつつの中、ピンポーン、と鳴った気がして目が覚めた。
窓の外を見るともう真っ暗だ。
もしかして、スタッフが食料を持ってきてくれたんだろうか。
ドアノブにかけておくとか言ってたしな。
私はボーっとしながらドアを開けた。
「仮にも芸能人なのに、誰が来たか確認もせずにドアを開けるなんて、無用心にも程があるんじゃないの」
ドアを開けてすぐに辛辣な言葉を浴びせれられる。
玄関にいたのは雪名さんだ。何やら箱を持って立っていた。
「加湿器無いとかバカな生活してるみたいだから、私のうちで余ってた加湿器持って来てあげたわ。ほら……って、好葉!?何で閉めるの?この私を締め出すなんて何を考えてるの」
雪名さんは、ドアを閉めた私が信じられないようで、ブチギレているようだ。
「ゴメンナサイ、あの、私インフルエンザになって……」
「インフルエンザ?」
「そう、だから雪名さんに感染すわけにはいかないので……」
「ふうん、手遅れだったわけね」
雪名さんはドアの向こうでそう呟いた。
「わかったわ。じゃあここに加湿器置いておくから。それじゃあ」
あっさりとそう言うと、雪名さんはサッサと立ち去って行ったようだ。
私はノロノロと玄関を開ける。
そこには確かに小さな加湿器の箱が置いてあった。小さいけど、確かこれ、テレビでも紹介されてた最新の高性能加湿器じゃなかったっけ。こんないいもの余らせてるなんて、さすが雪名さんだな。
そう思って、ありがたく今だけ借りさせて頂こう、と加湿器を部屋に入れた。
でも段々体の節々の痛みが強くなってきて、加湿器の設置すらだるい。私はせっかくの加湿器を枕元に放置して、ボーっと体をベッドに沈めた。
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