第63話 お互いの為

 シュウヘイさんはオドオドしながらヤクザ屋さんたちと話をしている。

「ほら、お嬢ちゃんはこっちに来な。俺はこの兄ちゃんと話があるからよ」

 ヤクザ屋さんのうち、短髪の一人が、私をシュウヘイさんから引き離した。

 そして、もう一人のオールバックのヤクザの方へ引き渡される。ガクガクと震えていると、オールバックは私に顔を近づけた。

 そして、思いがけない事を囁いた。


「今のうちに、事務所の誰かに連絡を」


「え」


「早く」

 オールバックはそう急かすように言う。

 私は震えながらも必死でスマホを出して赤坂さんに連絡した。

 オールバックは心無しか、私を隠すように立ってくれているような気がする。


 それに、どこかで見たことがあるような気が……。


 その時だった。

 私の近くに見覚えのある車が停まった。


「牧村ちゃん!!」


「し、白井さん?」

 白井さん?何で?

「雪名から、牧村ちゃんから変なメッセージが届いたから様子見てきてって連絡が。私、さっきまでこのすぐ近くのスタジオにいたから」

 そう言って、白井さんは周りを見渡す。

「何があったの?ヤクザに絡まれてる?」

「ヤクザよりも……あの背の高い男の人のスマホの写真が……」

「よく分からないけど、わかった」

 白井さんはそう頼もしく言うと、ヤクザとトラブっているシュウヘイさんの方へ突撃していった。

「ねえ、ちょっとそこのあなた、スマホ見せてもらえる!?」

 シュウヘイさんはすごい勢いの白井さんを見て、慌ててヤクザを振り切って走って逃げていく。

 それをまたすごい勢いで白井さんが追っていった。白井さんのポテンシャルがヤバい。


「くそ、逃げられたか。お嬢ちゃん、もう行っていいぞ」

 オールバックはそう言い捨てると、私の顔を見ずに短髪ヤクザと一緒に立ち去ろうとした。

 後ろ姿を見た瞬間、ハッと私は彼に気づいた。

 やっぱり私は彼を知っている。いつも心の支えになっている……。


「トモさん……ですよね?」


 私の言葉に、オールバックは一瞬だけこちらを向いて、しっ、と人差し指を口に当てた。


「気づかないほうが、お互いの為です」


 そう言って、オールバック、多分トモさんは立ち去って行った。


 確かに、これは気付かない方がいいのかもしれない。とりあえず助かった。それだけで、それ以外の事は忘れることにしよう。私は心にそう決めた。




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